不登校_特殊支援学級

発達障害を増やしたのは二つのグローバル化 2

社会の何が変わったのか 経済のグローバル化 

 病気の定義がグローバル化したという話を書きましたが、日本で発達障害が増えたとされるのにはこの疾病概念のグローバル化の影響だけでなく、もう一つはいわゆるグローバル化そのものが影響したと考えています。
 グローバル化とは人、物、金の三つが国境を越えてそれまでよりも自由に動くようになることを言います。別にここ何十年だけのことではありません。長い歴史の中で世界は何度もグローバル化をしています。ただ、今回のグローバル化はその中でも大きいものです。
 いつからというのも難しいですが、九十年代のバブル崩壊から回復する間もなく九十年代後半から二千年代、そして現在である十年代の変化を考えていきます。
 グローバル化によって何が変わるのか。ビジネスの競合相手は世界中になりますので、安価な労働力に引きずられます。労働者より企業が、中小企業より大企業が強くなっていきます。
 その結果、日本で人々の暮らしはどうなったのか。単純には言えませんが、日本では年収が下がることになりました。これには、正規雇用が減って非正規雇用が増えたことも大きく関係しています。さらに仕事の中身にも変化が起きています。給料が下がらなかった人も様々な変化があります。今まで十人でやっていた仕事を八人でやるといった仕事の効率化が多くなりました。企業から見れば効率化ですが、働く人から見れば仕事がきつくなったということになります。労働時間が増えたり、仕事量が増えたり。仕事のストレスが増えたことで、仕事での対人関係ストレスがさらに増えるという悪循環もあるでしょう。ブラック企業の問題が目立つようになった一因もこういった変化にあると考えられます。
 さらに、グローバル化によって一部の企業が強くなったことと関係して、国は財政の健全化が優先され、社会保障の削減や利用者負担増が世界中で見られるようになりました。お金を稼ぐのが難しくなっただけでなく、必要なお金の額が増えてしまっているのです。

教育の何が変わったのか 観点別評価

 お金を稼ぐことが厳しくなったというのは大人の発達障害と関係しているかもしれないが、学校に通っている子どもの発達障害とは関係ないじゃないかと思う人も多いことでしょう。実は九十年代に学校、特に中学校でも大きな変化が起きているのです。
 それは不登校の急増です。中学校の不登校は九十年代の最初には一万人程度だったものが九十年代の終わりには十万人を超えます。これは前述した大人になってからの生きづらさが将来不安となっているのではないかと考えられます。将来への不安は進路選択、入試のプレッシャーを上げます。
 これだけでも学校の不安は大きくなりましたが、さらに九十年代に進学のプレッシャーを普段の学校生活にまで浸透させた大きな変化があります。それが観点別評価です。
 高校入試では調査書と筆記試験の結果から合否を判断されます。筆記試験だけではなく中学校の成績などでトータルにその生徒を見るというわけです。これは九十年代以前からそうでしたが、九十一年の指導要録の改定から関心・意欲・態度といったものが評価に追加された観点別評価へと変化しました。具体的にはノートや課題の提出、授業態度などの成績への比重が上がりました。今の中学校は病院のインフォームド・コンセントよろしくどういう風に成績評価がなされるかを先生が生徒にしっかり説明しています。
 いわゆるテストだけで人を評価するのではなく、全体的に人物を評価するという主旨でこういった成績評価制度になったわけですが、問題もないわけではありません。こういった評価によって、部活動や委員会など中学校での活動の多くの時間が成績につながることになりました。
 そのこと自体は決して悪いことではなかったかもしれません。しかし、経済のグローバル化によって将来不安が増加し、潜在的に学校の成績に対するプレッシャーが増えてしまった時期に、成績の方が学校生活全体に広がったものになってしまったのです。結果として、学校における不安は大きくなり、さらにその不安が常にあるものになってしまいました。
 さらに、観点別評価では今までは見えなかったものがクローズアップされるようになりました。それが学習態度です。今までならテストの点数の比重が大きかったのが、ノートや提出物、授業中の態度なども評価に大きく影響するようになったのです。その結果、テストで点が取れないという以前の段階が注目されるようになったと考えられます。観点別評価はテストで点が取れなくても、ノートをちゃんと取って課題を出して、真面目に授業を受けてさえいればそれなりに成績が取れるというテストで点が取れない人の為の温情という側面もありました。しかし、観点別評価になったことでノートが取れていない、課題が間に合わない、授業に集中できないという今まで気づかなかった生徒が目立つようになったという面もあったのではないかと考えられます。

 九十年代に教育の世界でどんな変化があったかは前著『不登校を考える なぜ九十年代に不登校は急増したのか』に詳しく書いていますので、興味のある方はそちらもぜひお読みください。


 『発達障害はなぜ増えたのか  二つのグローバル化と生存の地すべり』は次の『発達障害を増やしたのは二つのグローバル化 3』へ続きます。


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