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第20回 母親へのカミングアウト

 今でこそ結婚制度の在り方に非常に疑問を持っている私ですが、20代前半までは私も「結婚」という二文字に非常に強い憧れをもっていました。未婚で子どもを生む率(非嫡出子の割合)が2.29%(厚生労働省「人口動態調査」2015)と低い日本では、ほとんどの子どもは婚姻した男女のカップルの間から生まれていることになります。一番身近な大人がしていること=男女での結婚が普通であるという異性愛規範というのは多くの人に根付いていることでしょう。私も例外ではなく、母親がうまく立ち回っていたこともありますが、私の両親は仲が良かった。私もいつか二人のような家庭生活を営むのだろうなという思いが、幼い頃はありました。ちまたに溢れているロマンティックラブイデオロギーは教育的にも非常に問題であると思いますが、私が学生であった時代は今よりも家族の多様性も唱えられていなかったし、私も漠然と結婚するものだと思っていました。でも10代後半には自分は女性が好きだから結婚はできないのだな、と思い悩むことになります。メディアを通じて入ってくる同性愛者の情報に父親が非常に偏見を持った言動をするたびに私は傷つきました。父親には私のことなんか絶対分からないし、分かってももらいたくないという思いをずっと持っていました。しかし、私は初めて彼女ができた段階で母親には自分のセクシュアリティをカミングアウトしています。

 同性愛者の周囲へのカミングアウトは、同性愛者の問題を扱う時に必ず話題に上がるものです。同性愛者が周囲にどのくらいカミングアウトしているかというと、「友達」、「家族」、「職場」、「その他」そして「誰にもしていない」の順番で、友達へは90%(同じセクシュアリティの友達も含む)で家族へは50%程度となっています。(LGBTに関する職場環境アンケート(c) Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2016※アンケートに答える階層性を考えると実際はもっと低いと考えられている)ビアンのコミュニティでも親へのカミングアウトはいつも話題になります。親へのカミングアウトは絶対にしない、できないという人から、パートナーと暮らすことになってせざるを得なくなった。気づいていると思って軽く言ったら、驚かれたなど、カミングアウトは本当に千差万別です。私は母親にカミングアウトする時に、母宛に手紙を書きました。私の母親は私が同性愛者だろうがなんだろうが、絶対に裏切らないという母親への絶対的信頼があったからです。母親へは「私はレズビアンだと思う。女の体に違和感はないけど、女の子が好き。彼女ができたから、ママには報告しようと思って手紙書くね。ママがどう思うかとても心配。結婚できないとか、子どもができないとか、いろいろ不安はあるけど、自分の人生は自分で決めるよ。」というような内容だったと思います。母親からはメールで返事が返ってきました。この返事がまたすごい。「いいんじゃない。わたしも女と暮らしたいよ」と。返事を見て一気に脱力しました。母親の「女と暮らしたい」というのは年を取ったら、父親の面倒を見るのではなく、気の合う友達と家事も分担しながら趣味の話などをしながら楽しく暮らしたい、という意味だったらしいのですが、私は母親に自分のセクシュアリティを難なく受容してもらえたことがとても嬉しかったのです。Rと付き合っていることも母には告げてありましたが、Rとの関係をきちんとコントロールできていない自分を母には知られたくなかったので、Rとのことはほとんど母には話しておらず、さらに実家を離れて祖母の家にいたのですが、母親は私がRに苦しめられていることは気づいていたと思います。しかし一切口は出さず、私が自分で落とし前をつけるのを見守っていてくれました。

 一大決心をして母親にカミングアウトした私ですが、母親に認めてもらったことは私のこの後の人生に本当に大きな影響を与えます。私は基本的に、自分のセクシュアリティを必要に応じて話すようにしています。これも母親のおかげです。他人が私のセクシュアリティを知って私の元から離れていってしまったとしても、母は絶対に私のそばにいてくれるという安心感は私を強くしました。そして母親は私に結婚や出産という押し付けを一切しません。「今の時代、子どもを生んでもその子が必ず幸せになれる保障なんてない、親ができることなど限られている、というか今あなたに子どもが生まれても、孫育てできるおばあちゃんにはなれないから」と言います。ただし、一つ問題があります。私の母親は、母親の周囲から「娘さんは結婚しないの?」と聞かれると、「うちの娘レズビアンだから、結婚できないのよ~」とすぐアウティング(本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露する行動)しちゃうことです。私は少しでの多くの人が性的マイノリティを身近に感じて欲しいので、大目に見ていますが、一応「それはアウティングと言ってだね・・・」と話をしています。

(参考資料「わが子の声を受け止めて~性的マイノリティの子をもつ父母の手記~」)

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