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2019/11/30 舞台「傷だらけのカバディ」観劇

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公演タイトル:「傷だらけのカバディ」
劇場:あうるすぽっと
劇団:劇団鹿殺し
作:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
演出:菜月チョビ(劇団鹿殺し)
公演期間:東京公演 11/21〜12/1
     大阪公演 12/5〜12/8
個人評価:★★★★★★★☆☆☆

【総評】
まずは劇団鹿殺しの新作舞台がこのような形で見れて良かった。純粋な鹿殺し舞台は初見だったので、脚本の面白さ、音楽の良さ、キャスト陣の素晴らしさに触れることができて鹿殺しらしさを体験できて良かった。観劇してみて思ったことは、菜月チョビさんの演技が素晴らしすぎて魅了されたことと、やっぱオリジナル楽曲がとても作り込まれていて素晴らしかったこと、さすが俺のグラフィティさんだった。また今作に限って言えば、カバディというスポーツがあまり知られていないので、丸さんが一つ一つ丁寧に説明しながらストーリーが進行する作りも良かった。そして家族と人との愛とカバディを結びつけるところも。脚本構成、音楽、キャスト全て素晴らしい観た甲斐のある作品だった。

【鑑賞動機】
劇団4ドル50セントの演出を当初行なっていた丸尾丸一郎さんの劇団である劇団鹿殺し、この劇団単独の舞台はまだ観劇したことがなかったので観てみることに。Twitter等で4 ドル50セントの劇団員が、インドのスポーツであるカバディを題材として、家族と人の愛を描いているということで笑えて感動できる舞台と聞いていたので期待値はやや高め。

【ストーリー・内容】
西暦2030年の中部地方のとある田舎・鹿神村、引越しの準備をしていた紀子はとあるメールによって、10年前の東京オリンピックで鹿神村で結成されたチーム鹿神SEVENがカバディで日本代表となり、一回戦でインド代表に敗れ、鹿神SEVENは散り散りバラバラになってしまったことを思い出し、10年経って再びチームメンバーをかき集めることに。
10年前のオリンピック開幕前の当初、大作と佐吉と紀子の3人で始まった鹿神SEVENは、獏、龍二、明、カーン、悟の5人の個性溢れるメンバーを集めてカバディのチームを作り上げ、村長の娘に邪魔されながらも学校の校庭や馬鹿寺で練習し、東京オリンピックに出場することに。予選は勝ち上がれたものの、一回戦で優勝候補のインドと対戦することになった上に、鹿神SEVENのメンバー間で喧嘩をしてしまった。そんな中迎えた一回戦はあと一歩のところで敗れた。
しかし、これはIT企業のMTSが絡んだ八百長で負けたことが10年後に発覚する。八百長に加担した佐吉を捕らえ、MTSを八百長を暴露しようと脅して代わりに金を渡すよう要求するが、結局MTSとの対決に敗れて金はおろか八百長の証拠も失ってしまう。しかし、鹿神SEVENが10年前に得られなかった友情を取り戻し7人それぞれの夢が叶う。
ストーリーは平易だったが、カバディというインドスポーツを家族と人との繋がりと愛に結びつけたストーリーとしてとてもユニークで面白い脚本だった(さすが丸尾さん)。様々な困難を乗り越えて10年越しに一致団結する、手を繋ぐ。まるでこれは、敵陣に攻め入って勇敢に敵と戦って自分の陣地に帰ってくる、仲間たちはそんなメンバーの帰りを見守っている、そして敵に攻められた時は手を繋いで敵を封じ込めるカバディとも共通する人との繋がりと愛を大切にした感動作だった。

【世界観・演出】
物語の舞台は、西暦2030年の中部地方の田舎。東京オリンピックはすでに終了しており、リニアが開通していて田舎での過疎化は深刻な状態になっている。また、スマートフォンはもう時代遅れになっており、体内に機械を埋め込んでそれをスマートデバイスとして利用している、ちょっと滑稽な近未来。ただ全体的な世界観としてはSFのようではなく、もはやカバディがインドスポーツであったり、途中出てくる馬鹿寺の住職・馬鹿悟がインド出身であることからインドを想起させる感じ。特に、馬鹿悟が登場した後のインド女性が登場してダンスするシーンや、仏像が踊り出すシーンは音楽も相まってインド映画っぽい世界観だった。
舞台装置は、大型のパネルが2つあってそれを移動させることで上手く場を表現していた。特に好きだったのは、自動車に乗っているシーンで黒子が標識を掲げながら後ろに遠ざかって自動車の走行を表現する演出や、オリンピック1回戦でインド代表とカバディで対戦するシーンで、点数が入る度に審査員の格好をした2人が、得点板を掲げながら色んな登場の仕方をする演出がお気に入り。
照明は、舞台奥から客席に照らしてくる照明器具があって、そこから発せられる青い光がとても印象的でカッコよかった(どこのシーンだか覚えていないが、多分MTS社員と鹿神SEVENでバトるシーンだったと思う)。
音響というか音楽は、ミュージカルのようで(そしてちょっぴり劇団4ドル50セントの楽曲に近い部分があったり)とてもダンスと音楽がマッチしていて楽しかった。座席がスピーカーの近くだったのでちょっと音量が大き過ぎる気はしたが、マイクから発せられるキャストの声量とダンスパフォーマンスが相まって観ている側も楽しい気分にさせる舞台だった。あと、カバディ応援団が吹奏楽の生演奏で応援する演出も良かった。トランペットやトロンボーンの生音が入ることで臨場感があった。

【キャスト・キャラクター】
どの役者も終始エネルギッシュでタフな演技を披露していてとても魅了された。
個人的に一番輝いていた役者は、今回演出も務めていた劇団鹿殺しの菜月チョビさん演じる紀子。彼女の必死で訴えかける演技は本当に魅力的だった。特にインド代表戦前の鹿神SEVEN内部での大げんかの時に、メンバーをなだめようと必死になっていた演技、そして大作に外野と罵られてしまうシーンは本当に印象的だった、また歌も物凄く上手かった。
個人的に好きだったのは獏を演じる伊藤今人さん。特に10年後のおカマになった獏が特に好きだった。あのがたいの良さもなんかおカマが似合って見えてしまうのが良かった、単純に演技も良かったのだが。
個人的にツボだった役者は顔だけイケメンの龍二を演じる小澤亮太さん、登場シーンからしていきなり鹿神SEVENのメンバーにスルーされるあたりとか、こいつ絶対イケメンだけどボンクラなキャラだなと分かってしまう。そのあたりが非常に良かった。
キャラクターとして好きだったのが、オレノグラフティさん演じる東大生の明。ずば抜けた才能を持ちながら田舎でのんびりしているあたり、そしてコーラの飲みすぎで10年後にはよくわからない病気にかかっているあたり、そして誰よりも友達思いの良い奴で本当に良いキャラクターだった。今作品の音楽も手がけているのでマルチな役者だなと思った。
そして悟を演じる丸尾丸一郎さんは、とても安定感があって落ち着いた演技がとても好きだった。舞台「山犬」でもそうだったが、この人インド人演じること多いなって思った。
それ以外の脇役のキャスト陣も素晴らしい演技が多かった。個人的に好きだったのが、吹越響子を演じる有田あんさんのインパクトある風貌とトランペット演奏、白石球児を演じる長瀬絹也さんのチャラついて癖のある喋り方をする調子のいいキャラクター、インド代表の1番のカーターを演じる浅野康之さんのいかついがたいと強そうな表情、挙げきれないくらい沢山の複数の役をこなしながら出演する脇役演者たちの活躍も素晴らしかった。全体的に早着替えが多かった印象でそこも素晴らしかった。

【舞台の深み】
舞台パンフレットの演出務める菜月チョビさんの言葉にも書いてあったが、カバディって何となく名前は聞いたことあるけどよく知られていないスポーツ、そしてこの劇団鹿殺しも同じく名前は聞いたことあってもよく知られていない劇団。そこが共通しているから、親近感を抱いて舞台のテーマとしたとか。そういった題材を家族と人の愛に結びつけて3年ぶりに作品を創る発想の豊かさが、この劇団の良さを物語っている気がした。脚本が書ける丸尾丸一郎さん、音楽を書けるオレノグラフィティさん、そして演出の菜月チョビさんとキャストたち。これだけ自由に楽しく製作できる劇団の良さを十分に見せられた作品でとても良かった。
また、2020年に開催予定の東京オリンピックを題材にしている点もすごく良い。東京オリンピックは日本国民ならほとんどが待ちわびているビッグイベント、そこにカバディというマイナーなスポーツとラストドリームを掴みたい田舎者たちを結びつけることで、一般客にウケやすい作品にしている所がとても魅力的だった。また、こういった2020年の東京オリンピックを題材にした作品は今でしか作れない、そんな魅力の沢山詰まった舞台だった。

【印象に残ったシーン】
一番印象に残ったシーンは、鹿神SEVENがインド代表とオリンピック一回戦で対戦する場面。カバディをする場面はいくつか出てくるが、このシーンだけはオリンピックでの試合ということもあり、緊迫感、真剣勝負さが伝わってくる異質なシーンだった。特に、インド代表のあの黒づくめでビシッと全ての行動が揃っているあの威圧感とチームワークの良さはとても見応えがあったし、個人的にお気に入り。そういう意味では、MTS社員との決闘もクールでカッコ良いシーンで好きだった。MTS社員はみんなスーツを着て深く黒帽子を被り、背後の青い照明に照らされたあの威圧感がとても良かった。バトルシーンもクールで見応えがあった。
また、インド代表戦前の、鹿神SEVENの大げんかシーンも見応えがあった。特に紀子が今まで影でマネージャーとして影でずっと支えてきたのに外野扱いされてしまうシーンに心が動かされた。
また、馬鹿寺でカバディの稽古をしている最中のミュージカルシーンで、後ろにある仏像が踊り始めたのが個人的にツボだった。それまであれは置物なのか、中に人がいるのか気になっていたが、いきなり踊り始めたことで色々と面白かった。


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