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2020/09/05 舞台「川澄くんの恋人」 観劇レビュー

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公演タイトル:「川澄くんの恋人」
劇団:山口ちはるプロデュース
劇場:下北沢スターダスト
作・演出:石橋夕帆
出演:
Aチーム:前田悠雅(劇団4ドル50セント)、有佐、天野綾音他
Bチーム:秋乃ゆに、山形美智子、佐藤雨他
公演期間:9/3〜9/6
個人評価:★★★★★☆☆☆☆☆

映画「左様なら」の監督・石橋夕帆さんの初めての舞台作品ということで観劇。キャストがAチーム・Bチーム分かれているが両方を観劇。
劇場が下北沢スターダストという教室くらいの広さの小さな空間だったのだがその空間を思いっきり生かしていて、舞台であるアパートの一室にまるで観客たちもいるような感覚。
特に劇中の演出であるタバコの煙とオムライスの匂いの混ざり合った感じは、特に自分たちもアパートの中にいるんだと感じさせて良い演出だった。
ストーリーは川澄くんという女ったらしの愛人がアパートに集結するという修羅場、日常で起こりそうなシチュエーションを上手く舞台上で表現されていた。
AとBで脚本はラスト以外一緒だが、キャストの持つ魅力はみんなそれぞれで両方楽しめた。石橋さんの次回作にも期待できる作品。


【鑑賞動機】

映画「左様なら」の監督・石橋夕帆さんの初めての舞台作品であることに加え、劇団4ドル50セントの前田悠雅さん、劇団ノーミーツ作品に出演していた夏海さん、イトウハルヒさんも出演している点も決めて。

【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

川澄清人と3年間付き合ってきたOLの木下直子(Aチーム:前田悠雅、Bチーム:秋乃ゆに)は、川澄くんに他に2人も愛人がいたことを知ってその彼女たちを呼び出そうと連絡し、川澄くんの住むアパートで一人待機していた。
玄関のチャイムが鳴り、川澄くんの愛人の一人であるハナ(Aチーム:有佐、Bチーム:山形美智子)が入ってくる。彼女はモデルのようなファッションとブランドものっぽいバッグを持った金持ちそうな女性。ハナは直子にいきなり呼び出されて不機嫌そうである。ハナは7ヶ月前にパーティー(だったかな?)で川澄くんと知り合ったようである。
次にチャイムが鳴って、川澄くんのもう一人の愛人であるココロ(Aチーム:天野綾音、Bチーム:佐藤雨)がやってくる。彼女はサブカル女子っぽい印象で、Aチームではちょっと暗くて面倒くさがりなキャラクター、Bチームでは金髪のギャルっぽい明るい感じのキャラクターである。ココロは川澄くんと3ヶ月前にライブハウスで出会ったようである。
ハナとココロはそこまで川澄くんへの恋愛感情はそこまで強い訳ではなく、ハナに関しては別に本命の彼氏(ZOZOの前社長前澤さん似)がいた。そして、彼氏の浮気相手を呼び出してしまう行動力にドン引きしている様子である。一方直子は、川澄くんに浮気されたことが辛く悲しすぎてずっと悲嘆にくれているのだった。

そこにまたチャイムの音が鳴り響く、直子はこれ以上人を呼んだつもりはなかったので、誰がやってきたのかと焦る。やってきたのは川澄くんの弟・ハヤト(Aチーム:遠藤雄斗、Bチーム:佐々木伶)だった。彼は明日からキャンプに行くため、集合場所に近い兄貴のアパートで一晩するためにやってきたのだと告げる。
4人揃った所でハナは料理を作り出す(Aチームではオムライス、Bチームではパスタ)。そこで直子は、川澄くんのアパートに置かれていた調味料がハナの私物であったことを知り驚愕する。また、棚に置いてあったカラコンもココロの私物であったことや、自分の私物の化粧水の減りが早かったことも全部繋がってきてショックを受ける。
直子は川澄くんの好きな部分を尋ねられ、優しいところや、買い物についてきてくれる所などを挙げると、ハナやココロに共感してもらえる。
しかし、ハヤトに川澄くんの過去について聞くと、中学の時も彼女を二人連れてきたことがあると話し、川澄くんの女ったらしは一生治らないことをみんな悟る。
みんなでハナの手料理を食べ終えると、ハヤトは飽きちゃってゲームをし始める、ハヤトには彼女はおらず、一人の女性を愛し続けられないなら最初から付き合わないと言い切って女性陣にカッコいいと言われる。

そこへ川澄くん(Aチーム:淡梨、Bチーム:原野 拓巳)とハルカ(Aチーム:夏海、Bチーム:イトウハルヒ)という女性が部屋へ入ってくる。川澄くんは呆然とする。どうやらハルカとは知り合って2回目で、初めて川澄くんのアパートに来た模様だった。ハナが事情を説明し、川澄くんを追求するがあまり悪びれる様子を見せない(特にAチームで)。ハヤトは気まずくなったからか理由を作ってアパートを出ていく。
川澄くんは直子、ハナ、ココロ、そしてハルカの4人とデートをし、アパートの家賃は親に肩代わりしてもらっているクズだった。直子は悲しみに暮れてずっと平伏しており、ハナとココロは川澄くんを追求し続ける。そこへハルカが浮気されてたのもいけないのではと川澄くんを庇おうとする。そのハルカの行動にココロは逆ギレする。修羅場となってしまった状況の元、ハナとココロはアパートを去る。
川澄くんは直子と二人で話し合うことになり、ハルカを外で待っているように言う。

ラストはAチームとBチームで異なり、Aチームでは川澄くんと直子はお別れすることになり、川澄くんはハルカに電話してどこにいるか尋ね、彼女を迎えにいくところで終了する。
Bチームでは川澄くんと直子は二人で話し合って仲直りをし、川澄くんはもう浮気なんてしないことを誓って終了する。

わかりやすく言ってしまうとAチームはバッドエンド、Bチームはハッピーエンドといったところか。でも絶対川澄くんはまた浮気するだろうから、Bチームでも今後同じ苦しみを直子は受けるんだなと思ってしまったり。
前評判では、Aチームは邦画っぽく、Bチームはエンタメっぽく仕上がっていると聞いたが、あまりその違いは感じられなかった。ややBチームのココロ役の女優がポップな雰囲気を作り出しているかなといったくらい。もう少しBチームはコメディ要素やアドリブ要素を取り入れて遊びを入れても良かったと思う。この修羅場な雰囲気を笑いにもっとかえられるような演出も出来たのではないかと思った。

それとやはり登場人物のキャラクター設定が上手いと思った。4人全員違うタイプだし、そしてセリフ廻しや態度とかもぴったりキャラクターにハマっているから観ていて凄く自然な光景に感じられた。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

映画「左様なら」でも感じたが、石橋さんの作る雰囲気は物凄く間合いや空気感が絶妙で演出するのが上手いと思った。だからこそ日常を描く作品を得意とする作家なのだろう。

まずスターダストという空間が、今作の芝居に最適なものにしている。Twitterの感想でもあった井の頭線の電車風景が望める点もそうなのだが、個人的に一番上手いと感じたのは、タバコの煙とオムライスの匂いが混ざり合った生活感のある空気。あれは、生の舞台でしか感じることのできないsmellを使った演出。やりすぎるとしつこくなって良くないが、劇中に一回が丁度良い。そして自分たちもアパートの一室にいるんだという錯覚まで覚えさせられる。Bチームではパスタの匂いだけだったので、そこまでsmellの演出が強くなかったので、この点に関してはAチームの方が良かったと感じた。

また照明も結構好きだった。あまり凝った機材がある訳でもないが、黄色く明るい照明がとても印象に残っている。

また、舞台上の大道具小道具も、スタッフや役者の私物の持ち寄り感が小劇場らしくて好きだった。風の谷のナウシカがあるあたりとか、リアルなアパートの一室を醸し出していて良かった。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

全員は紹介出来ないので印象に残ったキャストについて触れる。

まずは直子役の前田悠雅さんと秋乃ゆにさん。前田さんの直子役はひたすら泣き崩れる感じで、秋乃さんの直子役はちょっとジブリのヒロインを思わせるようなピュアな感じの強い正統派っぽい女性。個人的に思ったことは、直子のキャラクター設定としてハマっているのは秋乃さんの方で、演技力という意味では前田さんが上手だった印象。前田さんの涙を流せる芝居っていうのは強い。本当に川澄くんのことが好きで、浮気されたことが凄くショックだったオーラがめちゃくちゃ伝わる。秋乃さんが後半のシーンであそこまで出来ていたら評価は逆だったかも。

次にハナ役の有佐さんと山形美智子さん。有佐さんは高貴な女性の印象で、山形さんの演技は物凄く独特でちょっと間の抜けたような不思議ちゃんキャラ。ハマり役だったのは圧倒的に有佐さんなのだが、山形さんのキャラ設定も合っているのかもしれないと後半に思い始めた。絶対この人料理とか作れる印象ないとか思っていたけど、プライド高い系女性でああいう感じの女性いるなって思って。そしてこのキャラ設定は舞台じゃないと通用しないと思う。そういう意味で良かったのかもしれないと後で思った。

そしてココロ役の天野綾音さんと佐藤雨さん。天野さんはちょっと暗くて面倒くさがりなキャラ設定で、佐藤さんはギャルっぽくて明るい感じなのでここだけだいぶAとBでキャラクターが異なる。ココロ役はどちらも好きで比較し難いのだが、佐藤さんがもっと雰囲気を作れればコメディチックに出来て面白かったのではないかと思った。他のBチームのメンバーとの空気感が合っていなかった印象がちょっと合って浮いている感じが否めなかった。

最後に川澄くん役の淡梨さんと原野拓巳さん。淡梨さんのキャラクターは個人的には川澄くんのキャラクターイメージとは結構かけ離れていて、そこまで遊び人には見えなかった。確かに優しそうではあるが、4人の女を股に掛けるような要領の良さをあまり感じられない風貌だった。一方でまだ原野さんの方が川澄くんのイメージには合っていた気がした。そしてラストの直子と仲直り出来るあたりも、あの優しさからは確かに終わり方もシックリいった。
個人的には川澄くんはもっとイケメンでチャラい想定でした(これは役者の方に失礼ですね笑)。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作に登場するキャラクターについて考察する。

自分は男性なので、あくまで男性目線での考察になってしまうが、たしかに川澄くんのような男はこの巷に溢れかえってはいると思う。男性は割とその場その場の気持ちですぐ行動してしまうもの、だから平気で色々な女性を好きになってしまう。今回登場する女性4人全員のキャラクターがバラバラなのも笑えた。女性のタイプとか関係なくみんな好きになっちゃう男は今まで沢山見てきた。
しかし、その中でもやはり川澄くん的には直子に対する思いは一番強い印象は感じた。長く付き合ってきた訳だし、色々な思い出があるはずだから。でもこういう男は飽き性だったりする。だから外で出会った女性を好きになっちゃってけじめを付けられないままグダグダ来て4人と交際する形になっている。
おそらくだらしがないのだろう。別に直子のことが嫌いになった訳ではなく、けじめが付けられずずるずる感情のままここまで来てしまったのが川澄くんなのだろう。

女性陣は、直子の心境が一番普通というか観客から見て一番しっくり来るキャラ設定だろう。そしてそのように舞台も作られている。直子は真面目な性格で一人の男性から愛されたいという真っ当な女性である。また、そこまで交際経験もなく恋人を取っ替え引っ替えする感じには耐えられない性格だろう。
一方でハナとココロは、あまり男性に大事にされてこなかったんだろうなという印象。もちろん自分も大事にされたいけど、交際経験も豊富だからか失恋とかには慣れてしまっていて結構大問題だとは捉えてないような印象を受けた。かつてもこんな修羅場は経験したことありますよ的な印象を受けた。そのせいか、最初にハナとココロが打ち解けられる時間が早い。
しかし、そんなハナとココロでもタイプは違うもの同士、ハナは前澤元社長みたいなスペックの高い男性を求めそうなプライド高めな女性である一方、ココロは髪の毛が金髪とかの柄の悪そうなチャラい男性を好みそう。ただどちらも男遊びをしてそうには変わりはなさそう。ハナは合コンとかで、ココロはスナックとかで。

そしてハルカがなかなか強烈だった。これがまた悪気なく言っているから確かに凄い。劇中で登場した時直子よりピュアな心の持ち主現れたって思った。恋愛経験も少ないんだろう、というか恋愛で辛い思いをしたことがなさそう。だからあんなこと平気で言えてしまう。

こういった女性たちを上手く登場させて作品にしちゃう石橋さんは凄いと改めて感じた。石橋さんはいつか今泉力哉さんのようにサブカル出身の映画監督として飛躍する機会が訪れることだろう。

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【写真引用元】

https://twitter.com/stage_natalie/status/1295533642240802817
https://twitter.com/produce_chiharu

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