【短編小説】帰ってきた
780文字/目安1分
非日常と日常の狭間でふわふわしている。
毎日ただ過ごしているだけでは味わえないそれは、たとえ大雨が降ろうと、大渋滞が起ころうと関係なかった。時間通りに起きないといけない。決まった時間の電車に乗らないといけない。定刻に働き始めないといけない。そういうのも、その時は気にしないでよかった。自分の心が一番自由になれた瞬間の連続だったと思う。
そういえば、先週からの終わっていない仕事があるんだった。ずっと無視していたけど、今に限って嫌な連絡が来ている。けんかは続いたまま。なくしたものは見つからない。わたしはまだまだやることがいっぱいあったんだ。
でもね、今日くらいは、全部全部どうでもいいってことにしてもいいと思うんだ。ほんのついさっきまで楽しかった幸せな時間を、ずるずると引きずってもいいと思うんだ。いつの間にかすり減ってなくなるまで、そのままにしてもいいと思うんだ。だって、そのための特別だったんだから。
明日からはすべてが元通り。名前もつけられないほどただの日常。今日があったから頑張ろうとはなかなか思えないけど、それでもこの日常から切り離した短いひと時をちっぽけなものにはしたくない。今夜は延長ってことにして、お酒を飲んで、ほんのちょっとだけ贅沢をして、少し早めに寝るんだ。できればちゃんといい夢を見たい。
これからも続く日々が嫌なわけではない。それでも、何物にも変え難いあの時間以上の生活はそうそうやっては来ない。いつかまた同じような、いや、それ以上の幸せを期待して、もったいないけど明日を迎えよう。
分かんないくらい先の未来に、好きなことを好きな時に好きなだけ。好きな人と味わう。そんなささいなあり得ないことが訪れることを願って。
わたしは今日も、何十回何百回何千回と繰り返す夜の一つを、無駄にしてしまった夜を無駄と思わずに。知らない間に超えていく。
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