アリオトアーカイブ

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ノート

【短編小説】ReCorrection

今はもう、どこにもいないきみへ

 ***

 九歳の頃、仲の良い友達ができた。僕は彼女のことを、メーと呼んでいた。
 メー。
 メーちゃん。
 彼女は僕と同じ年くらいの女の子で、鈴を転がしたような高い声をしていた。細い黒髪は肩の辺りで揃えられていて、いつも似た白い服を着ている。目の色は青。綺麗な青だったことを、よく覚えている。
 メーと出会った頃、僕は父親と二人暮らしになったばかりだった。母

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【短編小説】浮遊する最果て

1.
 重く暗い空気が、向かい合うふたりを包んでいる。
 彼女は口を固く結んだまま、決して僕の方を見ようとはしなかった。僕は戸惑い、目を泳がせた末にコーヒーカップに視線を落とす。食後に飲んでいたカフェラテはすっかり冷め、カップに膜を張っていた。
 壁に掛けた時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえる。規則正しく、沈黙を責めるように鳴る。その針が一周回りきる頃、
「別れて欲しいの」
 耐えられなくなっ

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【短編小説】灰猫のクオリア(『泣ける話』掲載版)

その人は、猫とヒトの区別がつかないのだと言った。

 三年生になって数学科のゼミに配属され、最初の授業で全員が自己紹介をした。周りの同回生も先輩たちも、研究内容や趣味などの当たり障りのない情報をひと言ふた言述べる。そんな中、彼だけが少し、違っていた。
「大学院一年生の水野浩樹といいます。目が悪いので、もしかしたら迷惑をかけるかもしれません」
 少し掠れた声で彼は言って、
「僕には、猫と人の違いが、

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【短編小説】ネバーランドの標本

大人のトリケラトプスは存在しない、と彼女は言った。

    *

 授業の空きコマを、わたしは決まって動物園で過ごす。
 大学から歩いて五分程度、併設されていると言って過言ではない場所にその動物園はある。
 園内はそれほど広くなく、動物の種類も決して多くない。入口を抜けるとまず鳥類の檻があって、ウサギ、モルモット、羊、山羊、馬、牛、豚とコーナーは続く。ゾウやキリンといった大型の動物はいない。サイ

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11

【短編小説】錆色の虚構

せめてこれが、真っ赤な嘘ならば良かった。

     *

 開演のブザーが鳴り、舞台袖から沙月が現れる。彼女は客席に向かって一礼、前口上を述べる。
「本日は誠華高校演劇部第二十五回公演『錆色の虚構』にお越し下さり、誠にありがとうございます。開演に先立ちまして、お客様にいくつかお願いがございます。会場内での許可のない撮影はご遠慮ください。携帯電話は音のならないよう、電源を切るかマナーモードに設定を

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【短編小説】コインランドリーで待ち合わせ

「俺コインランドリー好きなんだよね」
 ぽつりと言ったタナベに、隣に座ったケシは眉間の皺を解かないまま、
「知ってます」
 と面倒くさそうに応えた。
「コインランドリーの写真ばっかり撮ってた」
「それもこの前聞きました。物好きですね」
 横並びに一列、ずらっと椅子が並んでいる。その真ん中あたりに、ケシとタナベは並んで座っていた。
「お前は好きなの」
「好きでも嫌いでもないですよ、こんな場所」
 ケ

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