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魔女のスープよ、私を遠くに連れてゆけ

毎日仕事場にお弁当を持参している。
お弁当と言ってもご飯とおかず形式のいわゆるお弁当ではなく具沢山のスープをどっさり、それに加えてお茶碗一杯分の玄米をジップロックのスクリューコンテナに入れて現地でレンチンして食べる方式だ。

スープの内訳は様々だ。例えば合い挽肉とキャベツと玉ねぎと茄子をあらごしトマトピューレ的なやつとともに煮込んでオリーブオイルを回しかけたやつだったり、ごぼう丸ごと一本を斜めに薄切りしてたっぷりのキノコ類と鶏肉と一緒に煮たやつだったり、○○風味付け、ではあったりするまののレシピの再現性が極めて低いタイプのものばかりである。

これがもう美味しくて楽ちんで最高なのだが、作っているところを人に見られるのはやや恥ずかしい。
というのも、「たくさん作ってまとめて冷凍」と言うと普通のことっぽいが、その実めちゃくちゃデカい鍋であらゆる残り野菜を気の向くままにぐつぐつ煮込んで適当に味をつけておしまいなのだ。なんというか、魔女が大鍋でグラグラと大量の"何か"を煮込んでいる様子に極めて近い。いっそその鍋を謎の棒でグルグルかき混ぜながら高笑いでもしようかしら…。

なので普段私はそのスープを人しれず「魔汁」と呼んで愛飲している。「おっ、魔汁の在庫がないか!」だの「次の魔汁は味噌風味にしようかな」など、1人で呼称して1人で微ウケしてる。恥ずかしい平和さである。

さて、節約だと思ってやっているわけではないのだが、これが存外節約になっていた。
もともと弁当生活を始めた理由は世に規定されてる一人前の量を毎日楽しく食べるとシンプルに太る燃費良すぎ体質への対処法だったのだが、ランチが大体1000円前後としても1ヶ月30,000円とかかかるのが丸っと浮くわけだ。お買い物が好きで我慢が苦手な私にとってもはやこれはある種の魔法に近い。ん?魔法というより錬金術か?まあいいや、とにかくお財布の健康にも良い。

さて、その浮いたお金は元気に使うことがほとんどだが(節約とは)、なんとなく貯めていたところ、お、と思うくらいの額になっていたことにある日気がついた。

激務だった昨年とは裏腹に最近はフワフワとした、メリハリのメリの部分のような暮らしをしている。まとまった貯金と休めるスケジュールという方程式を前に、私が導き出した答えは極めてシンプルに旅行に行くであった。それも、海外…とある日急に思い立ち、思い立った流れで様々に予約をし、この記事を書いている今わたしはロンドンにいる。

時差ボケでありえん早起きをしてしまうが、ロンドンの街は3日目にしてすでに大好きになってしまった。強くない日差し、壮麗な建築、香り高く美味しい紅茶、アンティークの家具、ありとあらゆる物語、行き交うオシャレな人々…なにより、なんだか魔法の気配のする街だ。

この国の食べ物は美味しくないという評判だけをなんとなく知っている気でいたが、いざ訪れてみたらいろんなモノが美味しくて楽しい!けれどちょっぴり、お金がかからず栄養満点の魔汁が恋しくもあるのも正直なところ。

魔女のスープが連れてきてくれたこの場所を目一杯楽しんで、日々の食について帰宅後に書いていくのを楽しみに無事に帰ろうと思う。

魔女のスープ、もとい魔汁、もとい具沢山野菜スープ、大好き。


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