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ビールが飲みたい、お店のビール

ビールが好きだ。しゅわりとしながら滑らかな口当たり、喉を滑り落ちる冷たさと微かな炭酸の痛み、爽やかな苦味の余韻。
ビール、と聞くだけで黄金色の輝く液体の上にふんわりと乗った白い泡を連想して食欲までも湧く。大概ビールの側にある食べ物は脂っこくてしょっぱくて、つまり私の大好物がとても多い。そんなものの思い出までも、幼い頃に聞いた木々のざわめきのように思い出す。

むかし間違って舐めたとき飛び上がるほど不味く感じてあんなに苦手だったビール。いつから飲めるようになったんだろう。いつから好きになったんだろう。いつから、付き合いではなくご褒美になったんだろう。
そう、ご褒美。昔は板チョコ丸ごと一枚で、今はお店の生ビールだ。缶ビールだって美味しいけれど、やっぱりお店で飲むのが好き。外食よりも自炊が好きな私だけど、ビールだけは別だ。
歳を追うごとにビールの印象は好ましくなっていく。こんなことを書いていながらお酒にあまり強くないので、ビールはとても特別な存在だ。毎日は無理だけど時々、それもお店で飲むと格別に美味しい。そんなのも相まってビールが、好きだ。

お店で飲んだビールの美味しかったやつを三つ書く。

ひとつは、チェコで飲んだビール。
チェコはビールが水より安い。ビールの神様がとことん愛した風土が生んだピルスナーウルケル、あれは本当に美味しかった。
顔よりも大きくて独特なフォルムのガラスの器になみなみと注がれた、初夏の終わりに咲くひまわりみたいな色のビール。その時はまだビール大好き!って感じじゃなくて、ビールの国ならビール飲むか。くらいの気持ちだったけれど…一口飲んだ時からそのときめくような風味の虜になってしまった。とにかく飲みやすい!のに、風味が芳しくてゴクゴク飲むたびしみじみ味わえる。
全然酔っ払った感じがせず美味しいまんまずっといただけるのに、椅子から立ち上がる時そのまま天に昇るのかな?と思うくらいフワリとしたのを今も覚えている。
チェコ料理はグヤーシュを筆頭にとにかく味が好みで、そこにそんな美味しくて飲みやすいビールがとにかく安く大量に来るのでレストランは本当に天国。また行きたいなぁ!

次に、渋谷で飲んだビールだ。

どうげん、という焼肉屋さんにグルメな友人と訪れてひたすら焼肉とおしゃべりに舌鼓を打ったあと、もうお腹はいっぱいだけど今すぐ帰るには惜しい夜だということで向かいにあるミッケラーに入ったのだった。


独特のクラフトビールがずらりと並んでいて、どんな風味のビールかの説明を読むだけで心躍る。あの時私が飲んだのはグレープフルーツみたいな香りのビールだったけど、こってりした焼肉のあとに頂いた大人の冷たいグレフルジュースはまたとない美味しさだった。ア〜美味しい…ッと声に出してしまったくらい。

一緒にいた友人ふたりもそれぞれ全然違うビールを頼んでいて、またそれがそれぞれのキャラに合っていたのがなんだか愛おしかった。広々とした二階の席に座って、なんとない会話を続けながらお互いのビールを一口ずつ飲んで美味しいねえ美味しいねえと言い合った景色が忘れられない。

そして三つ目は横浜中華街の中華料理屋さんだ。

あの日は友人を被写体に誘って、みなとみらいでたくさんスナップを撮った。残暑はあるけど爽やかな、夏も終わりかけの日だったのを覚えている。潮風を浴びながら散歩して、ここいいねえと言いながら写真を撮って、それはそれは楽しかった。

とっぷりと日が暮れて中華街に到着。
なんか食べようか〜と言い合いつつもあんまり何が食べたいというイメージも無く、さりとて美味しそうな食べ物は周りにたくさんあり…という状況の中を歩いていたところ、メイン通りからちょっと入ったところにあったのだ、その店が。

といっても中華街によくある感じの中華屋さんで、何か特殊なメニューがあるわけでもなさそうだった。しかし茶色のドアがなんだか妙に魅力的で、私も友人も同時に足を止めたのでそこに入ることにしたのだった。

座った瞬間、「あ〜今日は良く歩いたね!」となるあの感じ。食べ物を選ぶ前にとりあえず中ジョッキを頼んで待つこと1分、お手本のようなビールが目の前に置かれた。
それを一口飲んだ瞬間をずっとずっと覚えている。自覚なく乾き切った喉にジワアッ…!と染み渡って、私も友人もあまりの美味しさに目を見開いてそのままゴクゴク飲んだ。ジョッキを置いて一言、「おいっ、しい〜…!!!」とキャアキャア喜んでもうそれだけで完璧だった。

そしてまたそのお店の中華が、もうすんばらしく美味しかった。何を食べたかはあまり覚えていないけれど、2人で分けやすいメニューを頼んでどれもめちゃくちゃ美味しかったことと、お会計が我が目を疑うほどお手頃だったことははっきりと覚えている。ビール飲んで笑って、ご飯食べて笑って、お会計で笑って、足の疲れも吹き飛んで。
すごくハッピーな食事だった。

他にも、頼んでから3秒くらいで来てくれる新宿某店のビールに頼むたび大笑いしたり、ディズニーシーでグイッと引っ掛けてギャップに笑ったり、クラフトビール飲み比べを味わいながらヘロヘロになってみたり、とにかくお店のビールには嬉しい思い出が多くて大好きだ。

思い出込みで美味しいものって実はたくさんあって、私にとってはビールがそのうちのひとつ。変な話、その証拠に家ではあまりビールを飲まない。飲んでもカルディのノンアルコールだ(それはそれでなかなか美味しくて好きだぜ、ヴェリタスブロイ…)。

おうち時間を満喫する夏を超えて、やっと、やっと、お店でビールが飲めるようになった。ビールが飲みたい、お店のビール…といつもいつも口にしていたが、それが叶う日がまた来たのがとても嬉しい。次の外食ではビールを飲もうと思う。その美味しさに痺れたいし、夏の間ずっとビールを守ってくださったお店の方に改めてありがとうございますって思っている。

お店のビール、大好き。

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