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敢えて案件を潰す、という知恵(2)

まず、その玩具について。

知育の要素が強く、少し触れば「なるほど!」と納得できる。
しかし、今のパッケージでは、サイズ感や質感といった肝要な部分が、伝わりにくいどころか、まったくと言っていい程伝わってこない。

これは単に見た目を変えたところで、改善されるものではない。
少なくとも、どんなものが入っているかがひと目でわかるよう、窓開きのパッケージにする必要がある。

そして、中身について。

箱を開けると、色や形がバラバラになった状態のパーツが、チャック付きのポリ袋へ無造作に詰め込まれている。
百歩譲って、パッケージをリニューアルしたにせよ、箱を開け、出てきた中身がこの状態では、興醒め間違いなしだ。

ちなみにその玩具は、海外からの輸入品だ。
日本国内では、幾つかの仕様と価格帯を設け、バラバラで納品されるパーツを、倉庫で1個ずつ数えながらピッキングし、定数どおりに入ったら袋に詰め、箱に入れる。

ここで予見できるトラブルは、アソートミスの問題だ。

ピッキングと封入は人の手で行う。であれば、たとえどんなに注意しても、ヒューマンエラーは絶対に起こりうる。
箱を開け、中身で遊ぼうとしたら、入っている筈のパーツがない。
これは購入したユーザーにとってもマイナスだし、メーカーとしてもマイナスだ。

これを未然に防ぐためには、新たなチェック体制を構築する、またはミスの生じないパッケージ仕様に改める、かだ。
個人的には、この商品の特性を考えて、ブリスターケースを作るべきだと考えた。

そうすれば、決まった位置に、決まった数しかパーツが入らない。つまり、少なくとも封入ミスの確率は下がる。
また、ユーザーが購入後、片付ける際のケースとしても流用できる。
当初聞いていた話では、お片付け用に、不織布のポーチを追加するということだったが、そのコスト分をブリスターに充てた方がいいだろう。

今回、パッケージデザインのリニューアルという話で、今日の打ち合わせを元に見積書が欲しいということだったが、それ以前に色々な改善をしなければならない、と感じたので、失礼を承知で、

「このままデザインだけ変えても意味がないと思います。」

と、ハッキリ担当者に伝えた。
最初は「?」と言う表情だったが、先に記載してある問題点を、手元に置かれている商品サンプルを手に取りつつ、説明した。

すると担当者は、

「まさに仰るとおりです。私は見た目のことしか頭になかったので、そこまで考えが及びませんでした…。」

と仰り、意図をすぐに汲んでくださった。
これはどんなケースにも言えることだが、ずっと同じ案件に関わり続けていると、いつの間にか視野狭窄になってしまう。

幸い、自分はものづくりの企画から販売までのほぼ全てを経験しているし、色んなクライアントの案件を同時に複数動かしているから、良くも悪くも、ひとつのことに捕らわれることがない。

ただ、新たな問題点として、パッケージのコスト増は避けられないということも承知していたので、まずは社内でその辺をどう考えていただくか、検討もらうことにした。

案件としては、振り出しに戻ってしまうが、少なくとも悪い話にはならないだろう。

コストの問題もあるので、窓開きブリスター仕様にならないことも考えられるが、それならそれで仕方ない。
そのときはそのときで、限られた条件下で、いかに商品の魅力を伝えていくかをデザイナーと考えればいい。

目先のことより、もっと先のことまで見据える。
それが結果的に、みんながハッピーになれる筈だから。

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