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サウスダコタの反トランス法案って?

2020年1月29日、米国サウスダコタ州の下院で、トランスジェンダーの子供へのホルモン治療を刑罰化する法案が通過しました。本記事ではこの法案の概要について解説します。

サウスダコタの「反トランス」法案について

今回問題となっているこの法案H.B.1057は、共和党議員の Fred Deutschによって提案され46対23の賛成多数で州下院を通過しました。Deutschはアウシュビッツに収容されたユダヤ人の息子であり、トランスジェンダーの子供への治療を「ナチスの実験」と比較した発言をしています(その後この比較については後悔していると発言)。彼は2016年の反トランス的な「トイレ法」の時も法案の起案者の一人でした。

刑罰化される「治療」とは

H.B.1057で禁止されるのは、16歳以下の子供に対してホルモン療法、去勢などの外科手術などの治療を提供することです。トランスジェンダーの子供は、シスジェンダーの子供と同様、若くしてはっきりとした性同一意識を持つことが知られており、第二次性徴を遅らせるこれらの治療は、当事者の苦痛を軽減し、自殺率を軽減することがわかっています

皮肉なことに、H.B.1057は、インターセックスの子供に対しての外科的手術は必要性を問わず「例外」として認めています。このような介入は、インターセックスの子供にとって、不必要であり危険であると批判されているにも関わらずです。

刑罰の内容は?

H.B.1057によれば、16歳以下の子供に対してこれらの治療を施した医師は最長10年の禁固刑になる可能性があります。

サウスダコタってどんな州?

マウントラシュモアで知られるサウスダコタ州では毎年のように反LGBTQ的な法案が提出されています。2016年に、全米で始めて、トランスジェンダーが性自認と一致した施設を使用することを禁止する法案が提出されました。この法案は州知事の拒否権発動により成立には至りませんでしたが、2019年にもアンチトランス的な法案を複数提出されており、そのなかにはトランスジェンダーのスポーツ選手が学校主催のスポーツに参加することを禁じるものなどもありました。常に反トランスの第一線を走っている州だといえるでしょう(褒めてない)

サウスダコタ、今後はどうなる?

下院を通過した本法案H.B.1057は早ければ来週にでもサウスダコタ州上院で審議されます。もしも、法案が成立すれば、アメリカ自由人権協会(ACLU)がこの法案は違憲であるとして法廷闘争をする予定ですACLUへはここから寄付ができます

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サウスダコタだけじゃない!全米に広がる反トランス法案**

トランスジェンダーに対して敵対的な法案が提出されている州は、サウスダコタ州だけではありません。未成年のトランスジェンダーへの治療を刑罰化する法案は、以下のような州で予定されています。

* フロリダ州
* サウスカロライナ州
* テネシー州
* コロラド州
* ミズーリ州
* ケンタッキー州
* ジョージア州
* テキサス州

上記のいくつかの州での法案には、サウスダコタ州で法案を起案した政治家やグループの関与が指摘されています。サウスダコタ州での審議の結果が、報道などを通じて他州での情勢にも影響を与えるため、サウスダコタでのH.B.1057は特に大きく報じられています。

サウスダコタ州では、H.B.1057以外にも、トランスの若者に取って有害な法案が提出されています。カウンセラーやソーシャルワーカーに対して、「子供から性別違和の相談を受けたら親に報告しなければいけない」という義務付けをする法案(S.B.88)と、親がトランスジェンダーの子供に対して治療を拒否する権利を与える法案(S.B.93)です。親の理解が得られないトランスジェンダーの子供が危害を加えられたり、逃げ出してホームレスになる危険性が高くなると器具されています。

またアイオワ州では、公民権法案の保護されたクラスからトランスジェンダーを排除するという法案も出ています。これが通れば、性自認は公民権法(反差別法)の保護対象から外れることになります。そもそも歴史を遡れば、性自認は保護対象として2007年に追加されましたが、2018年にトランスジェンダーのトイレ使用が話題になり、トランスジェンダーのトイレ使用を禁じる公民権法の修正法案が提出されました。これは成立しませんでしたが、今回はトイレに限らず性自認を公民権法の保護対象からまとめて削除する内容の法案で、もし通れば、包括的な施設使用の拒否に加え、トランスであることを理由とした入居拒否、解雇などが適法となってしまいます。

LGBTWQの法的保護をめぐる様々な論点

LGBTQの権利を巡っては、治療の刑罰化以外にも、様々な論点があります。

* 公民権法の保護クラスにいれるかどうか
* 宗教的自由や表現の自由を理由として性的指向・性自認に基づく差別を認めるかどうか
* ヘイトクライムの要因として性的指向・性自認を含めているか
* ヘイトクライムの立証をどの程度難しくするか
* 親になる権利や監護権がどの程度認められているか
* パートナーシップがどの程度認められるか
* 書類上の性別表記変更をどこまで認めるか
* HIV感染にまつわる行為を刑罰化しているか
* コンバージョン・セラピーを禁止しているか
* 性自認に沿ったスポーツへの参加を認めるか

それぞれにつき、様々な法案を通じて攻防が繰り広げられています。今後も随時紹介していきます。

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