5.「なこちゃんのキラキラゴミ屋敷」

「なこちゃんのキラキラゴミ屋敷」

なこちゃんの家はゴミ屋敷。
なこちゃんはゴミ屋敷だとは思っていないけど。
なこちゃんはピカピカのキャリアウーマン。
だと、なこちゃんは思っている。
なこちゃんは23歳。
お昼は不動産関係の会社で経理をしている。
21時からは女の子のバーでお酒を作ってお話をする。
朝から晩までお仕事をするなこちゃんは偉い。
なこちゃんに彼氏はいない。
たまにインターネットで知り合った男の子とご飯に行く。
ただ、ご飯に行くだけ。それだけ。
「なこちゃん、もう一度会えない?」
ほとんどの男の子達はなこちゃんにそう聞くけど、なこちゃんは笑ってごまかしてしまう。
なこちゃんの家は、中目黒・・から数駅。
駅まで徒歩15分。ちょっぴり遠い。
トイレとお風呂は別々の、6畳1K。築15年。
綺麗なマンションの103号室。
本当は2階以上が良かったんだけど、
それだと家賃が高くなってしまうから、
仕方なく1階に住んだらしい。
家賃は管理費込みの7万8000円。
なこちゃんは大好きな中目黒の近くに住むためにちょっとだけ我慢をして物件を決めた。
それでも我慢できない部分があったから家賃は予定より高めだったらしい。
なこちゃんは欲張りだ。
せっかく素敵な部屋を借りたのに、
なこちゃんの部屋は乱雑だ。
なこちゃんは片付けが苦手だ。
これはなこちゃんが一人暮らしを始めた18歳の時から変わらない。
人の家に行って初めて気付くらしい。
-あ、自分の家って散らかってんだな。
ちょっとだけ。-
なこちゃんの家は、実際は足の踏み場がないんだけど。
なこちゃんはおしゃべりが大好きだ。
だけどおしゃべりが苦手だ。
順序立てて上手に話せない。
人の言ったことを、
それってこういうことですか?
と、確認しないと気が済まない。
自分の解釈だけでは不安になってしまう。
なこちゃんは正直美人ではないけど、
かわいい見た目をしている。
ぱっちりとした目。
笑った時にみえる八重歯。
なこちゃんは自分の見た目がかわいいことを知っている。
同時に、自分が若くてかわいいから、
人よりできないことが多くても生きていけていることも知っている。
だから、なこちゃんは時より1人で泣いてしまう。
いつかは自分は許されなくなることを知っているからだという。
なこちゃんのパワーの源は、
コーラ味のエナジードリンクと、
1日1錠のなこちゃんにとって、魔法のお薬。
きちんと病院でもらったやつだ。
1日1錠、必ず午前中に飲むようにしている。
午後に飲むと眠れなくなってしまうらしい。
なこちゃんのお仕事は大変だ。
なこちゃんはよく怒られてしまう。
なこちゃんは苦しくなってしまうらしい。
だけど、なこちゃんには、なこちゃんの部屋がある。
なこちゃんが毎月17万円と5万円のお給料で住んでいる、7万8000円の、なこちゃんだけのお城だ。
なこちゃんを苦しめるものも人も、
なこちゃんと誰かを比べる人も、なこちゃんが比較される人もいない。
なこちゃんは、なこちゃんが使ったバスタオルだったり、なこちゃんが好きなお酒だったり、なこちゃんが大好きな赤ずきんチャチャの漫画、なこちゃんが大好きな中目黒で買ったプリーツスカート、なこちゃんが好きなヨーロッパビンテージのイヤリングに毎日囲まれている。
バタンキューで倒れこむベッドは、なこちゃん専用だ。
洗濯は大変だ。やってもやってもやらなきゃならない。
料理も大変だ。洗い物までやらなきゃいけないし。
掃除だって大変だ。やろうと思う土日には外出の予定ができてしまうから。
だけどやっぱりなこちゃんは、なこちゃんのお部屋が好きだ。
引っ越しと同時に買い換えたマットレスは特に最高だ。
なこちゃんしか寝たことがないのだから。
ここは、なこちゃんしか知らないなこちゃんのお部屋なのだから。
なこちゃんは今日もお仕事にいく。
なこちゃんは気づいていないけど、
なこちゃんは最強である。
誰でもない、彼女は、なこちゃんなのだから。








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