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締め切り3分前物語

 時は2024年4月8日午前10時56分、noteの「春の連続投稿チャレンジ」締め切り3分前である。お題が出てからネタをずっと考えたが、結局案が出てこずここまで来てしまった。
 お題が16個もあるのだから余裕だと思っていたが、自己紹介記事はとっくに書いたし、学生だから仕事の記事は書けない。

 別にコレクションを集めていたりもしてないし、今年やりたいことはせいぜい2個か3個で10個も出てこない。習慣にしていることもない。ほかのお題で書けないこともないがおそらく3行程度で終わる。

 3行でも充分だろ、と言われればそうかもしれないが、短すぎると読まれなさそうな気がする。端くれとはいえ、クリエイターによって「読まれない」のはメンタルにくる。
 
「ねぇ、お兄ちゃん。何してるの?」

 このタイミングで妹が乱入してきた。もう時間がないというのに……こうなったらもう諦めるか? いや、ここで諦めるのは男がすたる。

「お兄ちゃん私とあそぼーよー! 暇でしょ?」

 暇じゃねぇ! 今超絶に忙しい。 仕事じゃないけど切羽詰まってるんだよ。

「妹よ、俺は今記事を書いているんだ。邪魔をしないでくれ」
「私……邪魔なの?」

 妹が目を潤ませて今にも泣きだしそうにしている。これはヤバい。

「あ、いや違う違う。邪魔じゃない。けどあと3分待ってくれ。昼になったら遊ぼう。な?」

 俺は妹の頭を撫でてニコリと微笑む。妹の顔がパッと明るくなった。マジで癒される……、おっとそれどころではなかった。時計を見ると11時まであと2分10秒。時間進むの遅っ! 俺、50秒でめっちゃ喋ってんじゃん。
 まずはネタだ。今すぐ書けそうなのは「♯休日の過ごし方」だな。なんて書こう。

 休日はダラダラ過ごしてます。 
 了

 さすがに短すぎるか。投稿してもスルーされる気がしてならない。脳内で思考を巡らせている間に残り時間は2分30秒。と、横から妹が顔を覗かせる。

「なんだ妹よ」
「私は妹じゃなくて心音だよ」
「すまん。で、何の用だ心音」
「記事って何書くの?」
「いや、具体的にはまだ決まってない」
「なんなら私が書くよ」
「心音、お前パソコン使えんの?」

 心音はかぶりを振る。スマホでもいけるけどログインしてないとダメなんだよ。そんなことを思っているとタイムリミットは……1分!? もうダメだ。

「お兄ちゃん! どいて!」

 突然心音が俺を押しのけて椅子に座った。もしかして今から書く気か。

「心音、時間的に無理だ。諦めろ」
「諦めたら試合終了だよ。私は諦めない!」
 
 心音はそう言って凄まじい速度でキーボードを叩いていく。お前パソコン使えないんじゃないのか。
 残り30秒になりPC画面の文字数を確認するとは2000文字を優に超えていた。こいつ化け物かよ。
 タイムリミットまで10秒。心音が手を止めた。

「よし! 書けた!」
「まだだ! まだ投稿していない!」

 俺の言葉に心音はハッとして急いでマウスを操作する。そして残り1秒で投稿が完了した。
 心音はよほど集中していたのか、机の上で魂が抜けたように倒れ込んだ。

「はぁ……ま、間に合った」
「心音、ありがとな」
「ううん、お兄ちゃんの役に立ててよかった」

 なんとか締め切りには間に合った。だがその代償は大きく、キーボードがところどころ破損してしまった。

「えっと……お兄ちゃんごめん!」
「別に謝らなくていいよ。締め切り間に合ったんだし、むしろ感謝してる」
「ホント?」
「ああ」

 心音はニコッと笑い。俺もつられて笑った。
 だが、俺たちは5記事以上投稿していない。要は応募条件を満たしていなかったのだ。それに気づいたのは投稿してから3分後だった。


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