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長編小説『becase』 33

「彼を私と一緒に探してくれる。そういう事ですか?」

「そうだ!」
と言って大きく頷いた。体ごと頷いているような程、大きな頷き方だった。

「結構です」
私はそうきっぱりと言い放ち、でんぱちを置いて歩き出した。

「おいおい!」
と後ろから私の背中を嗄れ声が叩く。

「ちょっと、待てって!」

「別にあなたに探してもらわなくてもいいです」
でんぱちを見ずにそう言った。

「探すって言ってんだろう」
嫌なくらいにしつこい。でんぱちは私の後ろにぴったりと付き、歩調を合わせて歩いている。私が急に立ち止まればぶつかってしまいそうな距離で。だから私は立ち止まる事ができない、別に立ち止まろうとも思っていないけど。

「というか、今更ですけど、あなた誰ですか?」
私は歩きながらそう言った。別に答えが欲しい質問なんかではない。今私の後ろを歩いている中年男がどんな人物だろうが、そんな事はどうでもいい。

「俺?俺は……人間だよ」
呆れる。もう本当にどうでもいい、というか、もうどうでもいい以上に腹が立った。ただ無視をしよう、無視し続ければこの人も諦めるだろう。そう思って私はその答えに応える事もやめ、それから先も、私は何も言う気なんてなかったのだけれど

「俺な、彼の居場所分かるぞ」
でんぱちがそんな事を言うものだから、私は急に立ち止まり、その立ち止まった私にでんぱちがぶつかった。

「は?」
と振り向いて言った。商店街中に響き渡るような大きな声だったから、でんぱちはまた驚きの表情を向け、大きな体を少し縮こめた。

「あ、いや、たぶんな。……たぶん」

「どこ!」
どんどん小さくなるでんぱちを前に私は必死の形相で問いつめる。

「どこなのよ!」
でんぱちがどんどんと小さくなっていく様を見ていると、私はさぞ悪い事でもしているような気になる。そんな事ないのに、ただ最愛の人を見つけたい、それだけの事なのに。

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