見出し画像

第一章 医療事務時代③ 仕事も恋もカラダも崩れる

 紀香の体重は四月から二か月間で十キロ以上も増えてしまった。外食や、お菓子やパンの買い食いをすることが多くなったからだ。給料が入って気持ちが大きくなり、仕事帰りには毎日のようにお気に入りの店を見付けては好きなものを食べた。春に買った服は着られなくなってしまった。制服のブレザーもきつくなり、仕方なくより大きなものに買い換えた。三階にある糖尿病専門内科までの階段を登るのがつらくなった。フットワークも悪くなった。

 これではいけない、やせなきゃ。仕事帰りや土日に身体を動かすことにした。

 バレエを習っていたのに、体育の成績は三。球技や運動会では動きがのろかった。運動部には一切関わらなかった。そんな紀香が、自分のペースで運動できるところを、と考えて見付けたのは、一回四百円で二時間まで利用できる川崎市公営のスポーツセンター。ここには、ジムとテニスコートとプールと体育館があった。おもにジムでトレーニングをした。

 このスポーツセンターへの入会初日に、紀香に対して親切に案内してくれたうえに、トレーニングを教えてくれた男性客がいた。加戸啓太(かどけいた)といった。紀香とそう変わらない歳の、短髪と立派な体格の男性。スポーツブランドのウェアを着こなすところも魅力的。啓太と一緒にトレーニングやテニスをしたことが紀香にとっていい思い出になった。学生時代はテニス部で、不動産会社の営業マンの啓太には、自分にはないプラスのオーラ、明るさや自信の強さがある。紀香はそこが好きだった。そのパワーを分けてもらいたかった。

 啓太に会いたくて、職場で定時になったらいそいそと行動し、スポーツセンターへ向かうようになった。もっと啓太と一緒に過ごせたら。そんな希望がわいてきた。そこで「五キロやせる」という目標を立て、一生懸命になった。


ここから先は

1,125字
仕事のつまづきで発達障害に気付き、エアロビクスインストラクターに転身し成長していくヒロイン。周囲の人間関係のダイナミクスにどう向き合っていくか?

現代日本を舞台に発達障害のあるヒロインの成長を描いた小説。ヒロインは学校時代を経て就職後につまづき、発達障害の診断をされて再就職しますが、…

よろしければサポートお願いします。サポートは100円、500円、1000円、任意の金額の中から選ぶことができます。いただいたサポートは活動費に使わせていただきます。 サポートはnoteにユーザー登録していない方でも可能です。