よくある町の公園で開かれている夏祭りには、地域の大人や子どもが集まっていた。かき氷、りんごあめ、わたあめ、とうもろこし、焼きそば、くじ、金魚すくいの屋台もにぎわっていた。
屋台の前で、ひとりの母親に抱かれた男の子が叫んだ。「かき氷が食べたい!」
すると、ひとりの女の子がかき氷の屋台に向かった。ひまわり柄の浴衣を着たその女の子は、百円のおこづかいでメロン味のかき氷を買った。女の子は、だだをこねた知らない男の子のところに行って、かき氷を男の子に差し出した。
だが「メロンじゃなくて、氷がいい!」そう叫ぶ男の子を、母親が抑えようとしたが止まらない。
すると女の子は、買ったばかりのメロン味のかき氷の緑色のシロップのかかった部分を、スプーンですくって口に入れた。しばらくしてかき氷からは緑色がなくなり、真っ白になった。女の子はその氷を、男の子に差し出した。
「あらあら、いいのよ。それはあなたのかき氷でしょ」
男の子を抱く母親は女の子に言い、そばにいた女の子の母親に、すみません、と謝った。氷は買ってあげるから、あんなこと言っちゃダメよ、と腕の中の男の子に言い聞かせた。
だが、男の子の母親も女の子の母親もじんときた。この子はなんて優しい子なんだろう。
「のりちゃん、この子のお母さんがいいよ、って言っているから、それは自分のよ」
母親に言われると、女の子はこのかき氷は全部自分のものだと思い、食べ始めたのだった。
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小説「艶やかに派手やかに」
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