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本屋は時空を超える4次元ポケット

とんでもなく飽き性な私が、物心のついた時から、今までずっと飽きることなく通い続けている場所が1つだけある。それが田舎であろうと都会であろうと海外であろうと、無意識に確認している場所、それが本屋だ。



「世界で2番目に美しい本屋」と呼ばれる、ブエノスアイレスにある、エル・アテネオ。中に入ると、円形の空間にびっしり本が並べられている。もとはオペラ劇場で、改装して今の本屋の姿になっている。並べられている本は、もちろんスペイン語。題名の1つも読めないが、並んでいる本の表紙を歩きながら眺めて、内容を想像しているだけで軽く2、3時間は過ぎていた。元オペラ劇場の洗練された美しい内観も加わり、とても幸せな気持ちになれた。



私にとって本屋は、まさにドラえもんの4次元ポケット。びっしりと並ぶ1冊1冊の本は、例え読み手が1日で読み終えたとしても、誰かが時間をかけて作り上げた想像や経験や学んだ専門的なこと、伝記であればその人の一生が詰まっている。手のひらで始まるそのストーリーは、始まった瞬間から私をあっちこっちに旅させてくれる。ファンタジーなら、非現実な空想の世界に行ける。推理ものなら、探偵にもなれる。恋愛ものなら、感情移入して疑似体験できるし、愛する誰かを思い出すかもしれない。誰か歴史上の偉人の伝記であれば、その時代にタイムスリップすることもできる。知らない知識の詰まった本なら、習得した次の瞬間から自分の行動、つまり未来を変えられる。写真付きのレシピ本だって、頬張るときの感覚や、それを口にして喜ぶ家族の顔など、数時間後の食事という未来をも疑似体験できるだろう。



本の世界に入ると、今の自分が知識を得たり変化できるだけではなく、4次元、ものによっては5次元まで行くことができる。それらの本が密集している本屋は、電子書籍が主流になりつつある今日においても、手にした本をパラパラとめくって興味を引くか引かないか、どんな旅ができそうかを判断する場として、最高のスポットだ。ドラえもんの4次元ポケットが本屋だとしたら、中に入っている道具が1冊1冊の本のようである。しかも日本の図書館なら無料だ。



私たちが生きている3次元の世界では、世界遺産や首長族など、どれだけ本を読んでも、百聞は一見にしかずなものはたくさんある。
だが、どこまで飛行機で移動しても叶わない、次元をも超える旅は、手のひらでめくるストーリーの中にあるのだと思う。人間だけに与えられた言葉と想像力、それらが生み出す本の楽しみは計り知れない。

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