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脳梗塞の治療3。頸動脈血管形成術とは?

 脳梗塞の治療シリーズの3回目です。日本は、同じ医療費を
払わされているにも関わらず、都道府県による医療レベルがかなり
違います。私から見れば、いまだに昭和の脳神経外科治療のレベルで
治療が行われている県もあるのです。医療レベルは、比較されることが
ないし、競争を禁じられていますから進歩が止まっているのです。

 できるだけ一般の人に、脳神経外科の治療について、「こんなことが
できるんですよ」と言う事を知っていただきたいと思い発信したいと
思います。

 今回は、頸部頸動脈狭窄症が原因で起こる脳梗塞の治療のひとつ
血管形成術を紹介します。(バルーン、風船で血管を拡張して
ステントを留置する治療。前回は、内膜剥離術でした。)

1)頸部頸動脈が狭窄する原因

頸部頸動脈分岐部に糖化され酸化されたコレルテロールが
溜まることにより、血管を狭窄させている。
この部位と心臓の栄養血管(冠動脈)には、同時に狭窄が起こる
可能性が高い。

 悪玉コレステロールと名前を付け、今まで、とにかくコレステロール値を
下げることが動脈硬化の予防になったり、血管障害の予防になると
思われてきました。
 しかし、実際は、自分の肝臓が作るコレステロールに悪気はなく、
コレステロールを運搬する低分子リポプロテインが糖化や酸化を受け
悪玉となっているのです
。つまり、糖化の原因となる糖質が悪いので
あって、体を作る材料のひとつであるコレルテロールひとつである悪玉も 善玉もありません。
 動脈硬化を防ぐには、炭水化物(糖質)を減らすべきです。
これを理解してくれない循環器の医者や内科の開業医さんには、
ほとほと手を焼いています。

2)頸部頸動脈狭窄症の症例

脳血管障害は、急性発症します。多くの患者さんは、症状が軽いと
様子を見ようとしますが、脳血管障害は、時間が勝負です。
症状が軽いことが、病気が重症でない事にはつながりません

 この患者さんのように、左上下肢の不全麻痺が軽く、少し言葉が
しゃべりにくい程度の症状だと多くの人は、家で様子を見ます。
 また、多くの医者も症状が軽いと、あまり緊急性があるとは
思わないことが多いのです。それで、救急搬入が遅れることが
とても多いのです。
 「症状が軽いからと言って脳血管障害が軽いとは限らないと言う事。」
「脳は、治療をすればよくなる時間が、他の臓器と比較して短い臓器で
あると言う事。」を
是非とも覚えておいてほしいと思います。

3)来院時MRIとMRA

1)正常のMRI,MRA

正面からMRAで見た正常の脳血管です。よくこれを覚えておいて下さい。

2)来院時患者さんのMRI,MRA

来院時患者さんのMRIでは、右脳の前の部分に白い点が見られます。
脳梗塞が起きているのは、こんなに小さな範囲ですが、
右のMRAでは、右内頚動脈が頸部よりほとんど描出されておらず、
右脳の表面の血管(中大脳動脈)の血流も低下しています。

 来院した時の脳梗塞は、小さな点のようなものですが、
右内頚動脈は、頸部からほとんど描出されておらず、血流低下の
ため、右脳の表面の血管(中大脳動脈)が左に比較すると
明らかに描出が悪く、血流が低下しています。
 血流を安全域に増加させる方法は、血管形成で血管を
拡張させる以外になく、クスリによる治療では、時間とともに
脳梗塞は進行し、患者さんの症状を回復させることは、
困難な状態となります。緊急で血管形成を行います。

4)緊急頸部頸動脈血管形成術

1)頸動脈血管形成術の手技

手技は、狭窄部位をバルーン(風船)で拡張させ、再狭窄を防ぐために
ステント(穴の開いた網の筒)を留置するだけの事であり、
特に特別な技術を要するものではありません。簡単なものです。

2)実際の患者さんの血管形成術

この治療は、手技は簡単なものですが、脳が回復する可能性のある
時間内に行う事がとても大切な事なのです。
私たちは、必要性があると判断すれば緊急で行います。
ただし、血管が全周性に石灰化している場合は、
前回の内膜剥離術(CEA)を緊急で行います。

とても、短い時間でできる簡単な治療ですが、脳が回復する期間内に
できなかったり、いろいろな病院の事情でできない事が多いのが
現実ではないでしょうか?
この国は、患者さんを守る前に医療の崩壊を心配しているような国ですから。あっ!ひとこと多かった。反省。)
 いい治療があるのを知っていても、時間をかけて離れた病院に運んで
治療しているようでは、患者さんを良くすることは困難です。
 脳が回復する期間(時間)は、ほかのどの臓器より短いと言う事を
知っていただきたいのです。

5)治療前後のMRI,MRAの比較

術前右内頚動脈は、ほとんど描出されていませんでした。
術後は、頸部から頭蓋内まで良好に描出されています。
頸部の血管が描出されていないのは、ステントがあるからです。

 術前後のMRA(MRIで撮った血管撮影)を比較してもらうと、
明らかに右内頚動脈から、頭蓋内血管までの血流が回復して
います。脳梗塞が進行することは絶対にありません。
 ただし、頸部頸動脈狭窄と冠動脈の狭窄は、合併する事が
多いため(30%から40%合併)必ず3D-CTAで冠動脈の検査が
必要です。
 私は、循環器科の若い先生より、はるかに多くの治療が必要な
冠動脈疾患を見つけている自信があります。

6)治療後の患者さん

構音障害と左上下肢の不全麻痺は完全に回復しました。
心臓の検査でも異常がなかったため早期に退院できました。

 治療と言うものは,当たり前のことが当たり前にできると
結果は必ず良くなります。
 私は、脳血管障害で健康寿命が短くならないように、できるだけの
事をするのが仕事です。この患者さんも自宅で自立して生活が
できるのです。(治療が上手くいかないと後遺症が残り、
思うような老後の生活を送ることが出来なくなります。)
 しかし、日本の医療システムは当たり前を当たり前にできない
システムです。

7)日本の医療に対する思い

 最後に、私は、ウクライナの医師たちが、逃げずに地下道や攻撃された病院の中でけが人や病気の子供たちを治療しているのを見て、
医療の本来の姿を改めて思い知らされた気がしています。

 この国は、コロナの患者さんを治療する前に、医療の崩壊を心配する
ような医療システムだからです。
 患者さんが苦しい時に、いつでも病院に行けるのではなく、自宅待機
させられる。(紹介状が無いと診てもらえないし、無いと意味もなく別料金を取られる。医療は誰のためにあるのでしょうか?)
 また、コロナ以外の患者さんのことは、全く無視して、あの東京のような病院の多いところで、救急車のたらいまわしを起こしている。
 世界一多いベッドを作って、入院させないのなら、医療資源の
問題ではなく、医療システムの問題と思います。
 もっと言うなら、医療制度を作っている人たちの責任です。
(彼らは、きれいごとを言うのは上手ですが、自分たちの利益を最優先
させます。)
医療むらに手を入れないとこの国の医療が良くなることはありません。

 脳梗塞の治療だって、理屈をこねるよりも、当たり前のことが当たり前に
できるようにすることの方がはるかに多くの患者さんのためになると
思います。健康寿命と平均寿命を一致させる能力がありながら、
それができていないのです。

 学会で、新しい治療を勉強しても働いている病院が、できる体制に
なっていない病院が多いのではないでしょうか。
 本当に若いやる気のある脳神経外科医にとって、お気の毒な事です。
脳血管障害のように緊急性のある病気の治療は、時間が大切であり、
地元の近い病院で治療ができることがとても重要な事なのです。
 時間のかかる離れた病院に運んで治療をしても、良くできる時間を
過ぎてしまっていたら、どんな名医でもよくすることはできません。


 



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