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「どうする賃上げ2024」第2回    ~「ベースアップって、どうやるの?


1.はじめに

 「ベースアップって、どうやったらいいのですか?」
 10年ほど前、ある労働組合の役員から当時人事部門で仕事していた私へ相談がありました。

 2013年、「官製春闘」と言われ、政府が経済界に賃上げを要請した年、多くの労働組合で久しぶりに賃上げ要求を行うことになりました。しかし、世代交代が進んでいた労組では、賃上げ要求の経験がある労組役員がほとんどいなくなっていたのでした。

 不当労働行為にならないことに留意しながら、労組役員を8年間務めた経験をもとに、その労組役員へレクチャーしました。

2.”教科書的”なベースアップのやり方

 前回、ベースアップとは給与の「ベースを上げる」ということで、一般的には「給与表(昇給のシステム)の書き換え」であるとお話ししました。

 定期昇給とは別に、給与表の額を引き上げて、社員一人ひとりの給与を引き上げることを「ベースアップ」と言います。

 もう少し具体的に説明すると、例えばベースアップを3%行う場合、給与表の額を3%引き上げ、その書き換えた給与表に基づき、社員一人ひとりの新給与額を決めていくことになります(下図参照)。

 これが、給与に関する教科書で紹介されているような、ごく基本的なベースアップの方法です。

3.実際のベースアップは

 上記のように、個人の給与にも給与表にも、ベースアップ率を一律に上乗せする給与改定を行っている企業も少なくないとは思われますが、多くの企業はさまざまな方法でベースアップを行っています。

 一律定率で引き上げるというのは、一見すると公平に感じられますが、自社において本当にそうなのかは慎重に考える必要があります。例えば、ベースアップ3%の場合、基本給20万円の人は6,000円アップ、基本給40万円の人は12,000円アップとなります。この差を、どう考えますか? 経営者の皆さんのお考えに沿ったものでしょうか? 社員の皆さんの納得度はどうでしょうか?

 トヨタ自動車の労働組合は、2022年の交渉から職種と職位ごとに引き上げ額を定めた要求案を提出し、労使合意しています。詳細は不明ですが、給与に対する労組の考えに基づき、組織内で合理性のある“差”を設けていると考えられます。

 私はかつて労組役員だった頃、年齢ごとに細かく配分を変えた要求案を作成したことがありました。見劣りしていた、若手から中堅にかかる層の給与カーブを早期に立ち上げたいとの考えに基づいたものでした。わずか100円程度の差であっても、きちんとした考えを持って、組合員の理解を得ていくことは大切です。

 ほんの一例を紹介しましたが、ベースアップの方法は千差万別です。

4.さらに多種多様な給与引き上げ

 基本給のベースアップについて述べてきましたが、「給与を引き上げる」ということをもう少し広くとらえると、さらに多種多様な方法が考えられます。

 例えば、手当類です。役職手当や家族手当、住宅手当など、自社の給与制度で支給している手当類の支給額を引き上げるという方法も考えられます。昨今の状況から家族手当の是非が論じられていますが、この際に見直して、新たな手当に組み替えるというのも一案です。

 去年、物価手当(あるいはインフレ手当)を支給した企業もあったようです。継続的に支給するものも多いでしょうけど、何らかの基準を設けて支給期間に制限を設けるとか、あるいは一時的な支給とするということも考えられます。

 さらに発想を広げると、「人的資本経営」や「リスキリング」が経営課題となる中で、社員への教育研修費に充てるということもアリかもしれません。ここまでくると、もはや「ベースアップ」とは言えないですけれど。

 あるいは、現在はずいぶん少なくなりましたが、かつては春季労使交渉において、所定労働時間の短縮の要求もありました。所定労働時間の短縮は、1時間当たりの給与額が上がることになるので、見た目の給与額は上がらなくても実質的な賃上げとなります(結果として、時間外手当額が上がることになります)。

 教科書的なベースアップにとらわれず、柔軟な発想で自社にフィットする方法を探してみてください。

5.おわりに

 2月6日に厚生労働省から発表された2023年「毎月勤労統計調査」によると、1人当たりの賃金は物価を考慮した実質で前年比2.5%減少したとのことでした。

 名目賃金を表す現金給与総額は、1人当たり平均で1.2%増えましたが、物価の変動を示す消費者物価指数の上昇率が3.8%となったことから、実質賃金が減少したものです。

 政府は、今年の春季交渉で物価上昇を上回る賃上げを目指していますし、経団連の十倉会長も「物価上昇に負けない賃上げを目指すことが経団連、企業の社会的責務だ」とおっしゃられています。

 定期昇給でも給与は上がりますが、実質賃金を上げるにはベースアップが不可欠です。日本の雇用の7割を占める中小企業で、どこまでベースアップができるか、今後の日本経済への影響は大きいと思います。

 ベースアップについて、ごく一部をご紹介しましたが、さまざまな方法があります。会社の事情や課題に合った方法をご提案いたしますので、ご相談くださいませ。

お問い合わせは、こちらまで。
https://www.hatarakigaiks.com/form.html


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