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大好きなじいちゃんがいなくなった日も、ばあちゃんは笑顔だった。

5年前の2月のこと。

当時ガラケーだったお母さんから
実家を離れて一人暮らしをする私のもとへ
一通のメールが届きました。


「じいちゃんがもう長くないんだって・・・
明日病院に行って延命治療にするかどうか
先生と話してくるね」


メールなんて家族からの連絡以外では
もう使っていなかったので
メールの通知が来るときは家族からの連絡か
解除し忘れたメルマガくらいです。


私のじいちゃんは強い人でした。
(性格ではなく肉体的に)

山でクマに遭遇しても
脳出血で倒れても
いつもケロッとした顔で家に帰ってくるので
不死身なんじゃないかと家族に言われるくらいで。

ピンピンしてるくせに
「わしゃもうダメだ・・・」
と事あるごとに言うから
「そんなこと言えてるうちは大丈夫よ」
と家族みんなで笑い話していたくらいです。

そんなじいちゃんがもう長くないだなんて
当時の私は受け入れられず
また笑顔で帰ってくるんじゃないか
なんて呑気に考えていたのです。

それでもいつどうなるかわからないので
念のため当時の勤務先の上司にその事を伝え
次のお休みに実家に帰ろうと思っていました。



そう思っていた矢先

まさにその日にじいちゃんが亡くなったのです。


2月24日
奇しくもじいちゃんの誕生日


お風呂に入る直前まで腕時計をするほど
時間に忠実なじいちゃんらしい最後でした。


一番近い身内が亡くなることが初めてだし
家族の中で一番じいちゃん子だった私。

突然のことすぎて
人生で初めて頭が真っ白になる感覚になりました。

視界がキュッと狭くなって
まわりの声は聞こえないし
涙も出ません。

仕事中はまったくスマホを触れないので
勤務後にやっと見られたスマホには
通知が大量に来ていました。

亡くなったと連絡が来ていた時間はお昼頃。

大好きなじいちゃんが亡くなった時
私は普通に働いていたのです。

それが本当に悔しくてたまりません。


(じいちゃんもう少し待っててよ
明日お休みだったのにさ)


暫く呆然としたあと
職場の誰もいない部屋で号泣したのを
今でも覚えています。



その翌日
すぐに実家に帰りなさいと数日お休みをいただき
じいちゃんの元へ向かいました。

正直ショックすぎて号泣はしましたが
まだどこか実感はありません。

電車の中でもボーッと外を眺めて
ただただ電車に揺られていた気がします。


家に着くとばあちゃんが居間で待っていました。


「来てくれてありがとうね、顔見てやって」


当時ばあちゃんは認知症のような症状があり
人に言われて思い出せるのですが
翌日、もしくは数時間後には
すべて忘れてしまうほどの症状でした。

そんなばあちゃんが
じいちゃんが亡くなったことを
どう受け止めるのだろうか。

じいちゃんが亡くなった事と同時に
そんなばあちゃんの心配もしていました。



お葬式当日


ばあちゃんは笑顔でした。

親戚が集まってみんな喪服を着ていても
お葬式の準備をしていても

じいちゃんが亡くなったことを忘れているのか
心配させまいと気丈に振る舞っていたのか
その真意はわかりませんが
どこか寂しさを感じるような
笑顔だった気がします。

式中は最前列にばあちゃんと私の両親と叔母さん
後列に私と兄と従兄弟たちが並びました。


我が家がいつもお世話になっている
お坊さんのお経が始まってすぐのことでした。


ばあちゃんの丸まった背中が
小さく小刻みに揺れながら
どんどんと崩れ落ちそうなほど
泣き始めたのです。


私が生まれて初めて
ばあちゃんの泣く姿を見た瞬間でした。


いつも笑顔で優しく私たちを包み込んでいたばあちゃん。
最愛の夫が亡くなる瞬間であっても
笑顔でいようとしていたんだとその時に気づいたのです。

後列にいた私も兄も従兄弟たちも
そんなばあちゃんの涙につられ咽び泣きました。

孫たちだってじいちゃんのこと大好きだったし

孫たちはばあちゃんの涙を見た事がなかったから。


愛する人に先立たれる瞬間
それは私には推し量れないほどの
悲しみだったはず。

それなのにばあちゃんが泣いた姿を見たのは
後にも先にも式中に全員が前を向いている時だけでした。

いつも優しく気配り上手なばあちゃんらしい姿。

何もしてあげられない私はとてももどかしく
そんなばあちゃんを見守ることしかできません。


「母は強し」と良く言いますが
私からしたら
「ばあちゃん最強」だと思っています。

家族の誰よりも優しくて
周りを笑顔にしてくれて
料理も美味しくて
顔にはあまり出さなかったけれど
きっとじいちゃんの事が大好きで

ばあちゃんの笑顔はみんなの太陽でした。



それから3年後の同じく2月。

ばあちゃんも天国へと旅立ちました。

大きな病気をしてこなかったばあちゃん。
きっと苦しまずじいちゃんのもとに
迎えたでしょうか。

お葬式の前日まで降っていた雨が止んで
むしろ快晴になった当日。

ばあちゃんらしい穏やかで良いお天気の中
晴れやかな最後になりました。


私もいつか結婚して子供ができて孫ができたら
ばあちゃんみたいにどこまでも優しく
愛情たっぷりに家族を包み込めるような
存在になれるだろうか。


見守っていてね。


じいちゃん、ばあちゃん。


由佳

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