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BtoBtoC SaaSで三方良しを叶えるための勘所


この記事は、プロダクトマネージャー Advent Calendar 2021 12日目の投稿です。

こんばんは、@yukagilです。
Showcase Gigという会社で、O:der Platformというモバイルオーダー関連のプロダクト及びプラットフォームのプロダクトマネージャーをしております。

プロダクトや会社の紹介については、以下の記事をご覧いただければと思います。

O:der Platformというプロダクトは、BtoBtoC SaaSに類するモデルに当たるのですが、これは一般的にBtoBtoCと呼ばれるマーケットプレイス型のモデルとは考え方が異なる部分が非常に多いように感じています。

また、BtoBtoCという構図である以上、Win-Win-Winの三方良しを実現させていくことがプロダクトの至上命題となりますが、この三方良しを実現するための力学についても考え方が大きく異なります。

私自身、このBtoBtoC SaaSのモデルに関わって2年弱となるわけですが、「行動変容」というワードを軸に据えることで、三方良しの構造が整理できそうな気がしてきましたので、まだまだ磨き上げられる部分は多いですが、下手な文章でも出さないよりマシだよねということで、もともとは社内向けに書いていた文章を、なるべく一般化した上で公開をします。

BtoBtoC SaaSなプロダクトってそもそも数が少なく、この記事って誰得なんだろうとか度々思うわけですが、「わかるよわかる!」「少し違うけどうちではこうやっているよ!」「ぜんぜん知らんがそんな世界あるんだね!」など、なにかしら感じるものがあればコメントをいただけると大変に嬉しいです。

異なる2つのBtoBtoC

まえがきで少し触れましたが、BtoBtoCといっても実際には三者間の関係性から以下のように分類ができると考えています。

  • BtoBtoC マーケットプレイス型

  • BtoBtoC SaaS型

今回触れたいのはSaaS型の方なのですが、簡単にそれぞれの特徴を整理します。

BtoBtoC マーケットプレイス型

マーケットプレイス型をこの上なく単純化したイメージ

一般的にBtoBtoCと言えば、こちらのモデルが該当します。
プロダクトが事業者と消費者をつなぐという構造から、プラットフォームビジネスやリボン型ビジネスなどとも呼ばれます。

このモデルにおいてプロダクトに求められることは、
顧客体験を高め、集客価値を高め、商品を売れるようにする
であり、以下のAmazonの「善の循環」の図はこれを物語る例の1つでしょう。

https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazon より引用

マーケットプレイス型である以上、事業者と消費者はサービス事業者に対して依存する関係にあります。つまり、サービス事業者は事業者と消費者の双方に対して直接的な影響力を持つ立場であることが特徴です。

この影響力をいい方向へ行使することで、三者間にWin-Win-Winな関係性をもたらし、プロダクトの成長を実現していくことになります。

BtoBtoC SaaS型

サービス事業者と事業者間でSaaSの利用契約が結ばれており、事業者はSaaSを用いて消費者向けのビジネスを展開していくというモデルです。

SaaS型をこの上なく単純化したイメージ

注意点
このモデルについてあたかも一般化した風に書いているのですが、比較的新しい概念のもとに生まれたモデルであると認識をしており、実際にはこれにハマらないケースがあるかもしれません。
本記事では、O:der Platformを念頭にこのモデルに関する情報を整理をしておりますので、もしうちは違うよ〜などあったらぜひ教えていただけると嬉しいです。

このモデルでは、サービス事業者はあくまでも事業者に対してプロダクトを提供するまでであり、プロダクトをどう活用するかの最終的な実行権は事業者側にあります。つまり、マーケットプレイス型とは異なり、事業者および消費者に対する直接的な影響力を基本的に持ち合わせていないということになります。

この点が、BtoBtoC SaaSの特殊性であり、難しいなと感じている部分です。

BtoBtoC SaaSで三方良しをどう実現するか

三方良しを実現していくためには、事業者および消費者が抱える様々なIssueを上手に解決していくことが欠かせません。

マーケットプレイス型のように、サービス事業者が双方に対し直接的な影響力をもつ場合は、利害関係の天秤を意識しながら施策を検討し実行することができるのですが、SaaS型の場合は先述の通り構造が異なるため同じようにはいきません。

上の図では、SaaS型における事業者と消費者が抱えるIssueタイプの例を示しており、解決までの流れとしてはそれぞれ以下のような特性があります。

・業務上の課題 (ex. ネット/店舗の在庫が分断されていて困る)
事業者はSaaSを活用し、自社が抱えている課題を解決したいというモチベーションからサービス事業者との契約をしています。そのため、このケースについては事業者の方から解決に向けて積極的な協力をいただくことが出来るでしょう。

Usabilityの課題 (ex. 商品購入のプロセスが分かりづらい)
プロダクトそのものが抱えるUsability上の課題であり、サービス事業者はプロダクトに対してのみ直接的な影響力を持っているため、適切なプロセスを経てプロダクトアップデートを実施することで解決することが出来ます。

顧客体験上の課題 (ex. 商品画像がないため、商品イメージが持ちづらい)
事業者↔消費者の関係性における、主に消費者目線での体験上の課題。この課題を解決するには、プロダクト利用の実行権を持つ事業者の方に協力をいただくことが必須となります。

このように「業務上の課題」「Usabilityの課題」については、一般的なプロダクトマネジメント的なアプローチで進めれば問題はないのですが、「顧客体験上の課題」の解決は事業者の協力なしには実現が出来ないことから、BtoBのプロダクトマネジメントのスタイルを意識したうえで、事業者の「行動変容」を実現するための戦略を考えていくことが、三方良しを実現するにあたって最も重要な要素となります。

行動変容を実現するために

BtoBtoC SaaSなプロダクトの場合、
事業者がプロダクトを活用すればするほど、消費者の体験が向上し、事業者も繁盛し、最終的なプロダクトの成功が実現される
という連鎖を描くような価値設計になることが多いかと思います。

そして、この理想的な連鎖を実現するためには、兎にも角にも事業者の方にプロダクトを120%活用していただきたい!!というのがプロダクトマネージャーとしての本音ではあるのですが、現実はそう甘くありません。

サービス事業者は、事業者に対して消費者目線に立ったプロダクト活用をしていただけるような啓蒙活動を継続的に行い、「行動変容」を促し続けていくことが重要となります。

事業者の「行動変容」を実現するための流れとしてはざっくり以下のようになります。

  1. 事業者のうち、誰に対してアプローチをするのが効果的なのかを、Relation Map等を用いて探し出し、

  2. 対象者が行動変容に至るまでのプロセスをデザインし、

  3. 施策をとにかく回しながら、行動変容へとつなげていく

このうち、2,3の「行動変容」に関する部分については、すでに先駆者によるカタがいくつもありますので、具体的な例を元に紹介をしていきます。

行動変容に至るプロセスをデザインする

ここからは、以下の例を題材に説明を行っていきます。

現在の状況
・自社のテイクアウトサービスを利用している店舗Aにおいて、プロダクトの利用率が伸び悩んでいることをヘルススコア上から検知した。
・アクセス分析を行ったところ、商品一覧画面での離脱率が著しく高いことがわかり、この要因は商品画像の設定率が著しく低い点にあった。
・画像が設定されていない場合、消費者からすると商品のイメージがわからず、購買意欲を低下させるということは検証されている
・商品画像が全商品数のN%以上設定されていることで、売上がY%向上するという実績値もある

ゴール
店舗Aの方に、商品画像の設定を常に行っていただけるようにしたい!

今回のゴールは明確であるため、早速「行動変容ステージモデル」という考え方を利用して行動変容に至るプロセスを描いていきましょう。

第1ステージ : 前熟考期
「本人の課題が明確ではなく、新しい行動への取り組みに無関心」
第2ステージ : 熟考期
「課題をおぼろげながら認識し、どのような課題に向かうかを考える」
第3ステージ : 準備期
「課題を明確にし、その課題解決に向けて準備やトライアルを行う」
第4ステージ : 実行期
「設定した課題に対して、6カ月程度実際に新しい行動に変えて挑戦する」
第5ステージ : 維持期
「実行期で実践した新しい行動を習慣化させ、定着を意識して行動する」

このモデルに関する具体的な内容は上記資料等を参照いただければと思いますが、ポイントとしては以下通りです。

・人はすぐには行動を変えられないという前提から、意識の状態とその推移に着目し、行動変容へと至るまでの5つのステージを定義している。
・意識の状態を元にステージを定め、そこから次のステージに押し上げるための働きかけを周囲から行っていくことが重要である。この働きかけに関する戦略を定める際にこのモデルが活用できる。
・あくまで意識の状態推移を明らかにすることが目的であるため、ステージ間の境界線定義であったり、ステージ判定に関する定量的な基準を定めているものではない。

「行動変容ステージモデル」を元に、商品画像の例については以下のようにステージ化を行いました。

第1ステージ : 前熟考期
画像が設定できることを知らない。もしくは画像がないことによる問題を認識できていない。基本的に商品販売ができていれば十分であり、商品情報を充実させるなどの行為に対しての関心がない。
第2ステージ : 熟考期
画像があったほうが消費者にとってわかりやすいページにはなるのだろうという認識は持っている。ただし、画像を集めたり設定するなどの業務が増加する可能性が高いだろうなと考えている状態。
第3ステージ : 準備期
商品画像を集めるプロセスや、設定業務に関する課題は全てクリアされており、この手順についてマニュアル化を進めている。
第4ステージ : 実行期
マニュアルに従って、全ての商品画像の登録が完了している。
第5ステージ : 維持期
引き続き全商品に対して画像が登録されている。また、組織内で商品登録に関して冗長化された運用体制構築が出来ている。

現時点では、制作者の妄想を域を出ないモデルでしかないですが、後続で実施する施策を回しながら実態に近づけるようチューニングを行えばよいのです。DONE IS BETTER THAN PERFECTの精神で、施策検討へと移っていきましょう。

ステージを押し上げるための施策を考える

次のステージへと押し上げるための施策を検討するにあたっては、兎にも角にもどうアプローチすれば人は動くのかを明らかにすることが最重要となります。この観点については、名著である「Hooked ハマるしかけ」から多くのエッセンスを得ることができます。

Hookedでは、人々の行動を習慣付けさせるプロセスを心理学的に解明し、モデル化したものが「フックモデル」であると紹介されています。

https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/hooked-model/ より引用

また、「行動」は何を起因にして起こるのかについては「フォッグ式消費者モデル」によって示されています。

Motivation: 行動をおこす理由
Ability:
行動を起こすことを阻害する要因 (金額, 時間, 手間, 難易度等)
Trigger:
行動を起こそうとするきっかけ

次のステージへ押し上げるためには、「トリガー」をうまく引き、「行動」を引き起こすための「モチベーション」と「障壁」を明らかにし、これらをクリアにしていくという考え方を元に施策を検討すればよいことが、この2つのモデルによって整理ができました。

素直に2つのモデルに従うならばもっとやるべきことは多いのですが、個人的には過度に複雑なモデルを構築しても、誰にも伝わらず実行できないものとなってしまうため、以下の3点に絞って活用をしています。

  • 「トリガー」が全ての起点であるため、「トリガー」単独で回せる施策がある場合は先行して実施する。この際に、内的/外的アプローチの両面で整理を行う。

  • 「トリガー」のみでは「行動」までつながらないとなった場合は、ここまで得られた学びを加味した上で、B=MATに倣う形で施策の検討を行う。

  • 施策を検討するにあたり発生する課題の解決方法としては、人的アプローチとプロダクト的アプローチの二種あることを念頭に潰し込んでいく。

では、商品画像の設定をしてもらいたいの例に戻りまして、施策を回してみようと思います。

施策1: ひとまずトリガーのみでアプローチをしてみる

内的トリガー
・サービス事業者側で、仮当ての画像設定を行った商品ページを作成
 → 設定することでこんなに見やすくなるのかという消費者視点を持っていただき、現状との差分を認識してもらうことが目的

外的トリガー
・マニュアル上の商品画像の設定方法が記載されたページを抜粋
・商品画像がないことによる機会損失について説明した資料を作成
・商品画像の説明に関するベストプラクティスをまとめた資料を作成

方針
まずはカスタマーサクセス主導による人的アプローチによる解消を試みる。
作成した複数の資料を元に、店舗担当者とのWebミーティングを実施する。
この過程でプロダクト上の課題が判明した場合は別途対応方針を検討する。
 


MTG完了後の社内フィードバック
商品画像の設定が出来ていない認識は先方担当者も認識している。
画像素材についても保有しているとのことだが、
・サービスで要求されるフォーマットを満たしていない
・登録商品数が多く、また入れ替えも多いため、この工数捻出が難しい
という問題があり、ここがボトルネックとなっている。

フィードバックによって、この店舗は第2ステージ相当だということが分かりました。また行動変容を阻害していたのはプロダクトであり、トリガーだけで行動を引き起こすのは難しそうにみえますね。

では改めて、ステージ2から3に押し上げるための施策を検討していきましょう。

■ 施策2: B = MATに沿って施策を検討する

Motivation: 行動をおこす理由
・むしろ設定に手間がかからなくなるのであれば喜んで対応したいというお話であったため、特段検討は不要。

Ability: 行動を起こすことを阻害する要因
・管理画面上の商品に対する画像設定に時間を要する
 → 一括で画像の設定を行える機能がないため、これを実現する
・事業者が保有する画像フォーマットにサービス側が対応していない
 → サービス側で対応可能な画像のフォーマットを増やす

Trigger: 行動を起こそうとするきっかけ
・(外的トリガー) Abilityの項目をクリアとなる機能がリリースされたタイミングで、改めてカスタマーサクセスより連絡を入れる。
 
方針
Abilityの要素をプロダクトとして排除することが恒久的な対応であるが、短期的な開発スケジュールの調整が難しく、また先方としても画像設定自体は行いたいという要望は強かったため、暫定対応として設定代行の提案を行い了承いただけた場合はこちらの方針で進める。
ただし、店舗Aで次の商品改定があるタイミングまでに一括登録等の機能をリリースし、そのタイミングで利用方法をあわせて店舗向けに別途アナウンスを行うという運びとする。

といったように、施策をぐるぐると回しながら一つ一つ課題を潰しこみ、最終的に目指す「行動変容」を実現すべく前進していきます。

この過程に銀の弾丸はなく、

  • 「行動変容」のボトルネックとなる要素を理解し、徹底的に排除する

  • 人力アプローチに頼らない、変化のための「しかけ」をプロダクトに散りばめ、必然的に「行動」が引き起こされるような仕組みを構築する

を実行していき、自然に三方良しが形成されるようなプロダクトを目指していくという部分が、プロダクトマネージャーとしての手腕が問われる面白い部分なのではないかな、なんて思っています。

なお、今回は説明の都合上、わかりやすい既存機能をベースにステージ化及び施策検討の記載を行いましたが、大きな開発項目のフェージングであったり、中長期のロードマップ策定など未来のことに対しても適応ができますので、なにか困ったな、となった際には思い出していただけると、なにか助けになるかもしれません。

おまけ: 行動変容を支援するデータ活用

「行動変容」という文脈においては、当然定量的なデータも活用していくことになります。先程の例でいうと、

・商品画像が全商品数のN%以上設定されていることで、売上がY%向上するという実績値もある

という内容を、カスタマーサクセスがどのように事業者に対して伝えるか?という部分が該当します。合理性のみで人が動くのであれば、テキスト通りの内容をお伝えすればよいのですが、これだけでは人は動かないということは想像に容易いでしょう。

「人を動かす」という観点からのデータ活用については、「データストーリーテリング」という手法がありますので、もし顧客向けにデータから伝えたいことがある場合は活用されてみてください。

データストーリーテリングとは、「データから得られたインサイトを、本や映画のようにストーリーを組み立てながらユーザーに分かりやすく伝え、期待するアクションに繋げる手法」のことを指します。

・データそれ自体が何かを達成することはなく、データは行動の変化を促すものでなければならない
・データによって人々の行動変容を促すには、ストーリーの力を借りることが大切

https://markezine.jp/article/detail/30955

データストーリーテリングは、
・NARRATIVE: 語り
・DATA
: データ
・VISUALS
: 可視化
の3要素で構成されており、これらの要素が組み合わさることで、人の行動に変化を生み出すとしています。

おわりに

社内向け資料を一般化して公開するのは、0から書く以上に非常に骨が折れますね… (結果的にたぶんほとんど書き直した)

個人的に好きな動画と、心のピン留めをしている文章を添えておきます。

おいしいごはんでも食べて次の活力にします!