ヴァージニア・ウルフの海で
本には読むタイミングというものがある、と思う。どんなに気になった本でも、いざ手元にやってきたときに「この本を読むのにもっとふさわしい気分のときがあるはず」と本棚にしまって、何年もたっているようなことがときどきある。
ヴァージニア・ウルフは自分にとってそんな作家だ。『灯台にて』が気になって気になって手に入れたのだけど、しばらく本棚で寝かし、挙句の果てには途中まで読み進めてまた本棚に戻してしまう。読んでいるうちに心が変化していくことに嘘をつけないような気持ちになってしまうのだ。
彼女の文章はものすごく解像度が高いのだ。だから彼女の世界でともに泳げるときと、溺れてしまうときがある。
でも、折に触れて彼女はやってくる。静かに、でも力強くドアをノックしてくる。
ヴァージニア・ウルフの『ある作家の日記 新装版』が発売されるのを知った。その内容紹介をなんとなく読み始めて心が粟立った。
いま読んでいる本、創作過程の実際、本の評判や売上げ、エリオットやフォースターとの交友など、1918年36歳の年から1941年自殺する直前までの日記。死後、夫レナードによって文学活動を中心に編纂された本巻は、創造の苦しみと楽しみを生き生きと伝える。
―みすず書房website
簡素な、淡々とした文章である。けれどそこには、なにかを作るひとの葛藤、喜び、苦悩があり、彼女が患っていた病からの逃れられなさが凝縮されているように感じた。
会ったことのない彼女はしかしはっきりと、意志を持ってわたしの心をノックする。
*今日注文した本
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