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シノノメナギの恋煩い

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第九話 シノノメナギの恋煩い

第九話 シノノメナギの恋煩い

裏のスタッフルームではデスクでパソコン作業しているのが夏姐さん。わたしより10いくつ歳上で先輩。中高生の男の子3人の子供を育てるシングルママなのだ。

「今日、晩ご飯食べにいく?」
お誘いは突然である。多分お酒を飲みたいほど何か憂さ晴らししたいことでもあったのか、ただ気分なのか……その時々によりけりだが。

「マジっすか? もちろんおごりですよね?」
「馬鹿か!」
常田がひょこんと顔を出した。夏姐

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第八話シノノメナギの恋煩い

第八話シノノメナギの恋煩い

次の日、昨晩のお酒がちょっと抜けないまま出勤。少し顔が浮腫んでたけど……。お酒には弱くないけど。

今日も出勤。施設のイベントスペースにてボードゲーム展。いろんなブースでさまざまなボードゲームを楽しめるという。
土日だから盛り上がること間違い無し! って館長も鼻息荒く言ってたこともあり、大盛況だ。

わたしたち図書館でもボードゲームの歴史の本や題材にした小説などの本の展示をしている。そして手にとっ

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第七話シノノメナギの恋煩い

第七話シノノメナギの恋煩い

「意外と出会いあって羨ましいわよォ」
と言うのは大学のサークルで一緒だった薫子(本名は薫、わたしと同じ心は女で派手な格好をしているドラグクイーンみたいなメイクアップアーティスト)。横で頷くのはサアヤ(彼女はわたしたちとは反対で中身と心と戸籍は女、ボーイッシュなヨガインストラクター)

サークルの仲良しメンバーだったこの3人で不定期に近場の酒屋で近況報告をしている。
3人とも結婚してない。薫子は外人

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第六話シノノメナギの恋煩い

第六話シノノメナギの恋煩い

数日後のこと。

今私は図書館前の落ち葉を掃除している。
図書館の入っている施設には図書館以外にもカルチャー教室や喫茶店が入っているし、施設全体を掃除する清掃会社の人もいるけどすぐ落ち葉でいっぱいになるから交代で清掃をするのだ。

今日はわたし。1人でこれだけ拾うのか、と思う人もいるだろうがわたしはそれでいい。
1人でただひたすら履いていればいい。その時間こそ妄想できる時間の一つ。

一つ落ち葉を

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第五話 シノノメナギの恋煩い

第五話 シノノメナギの恋煩い

「あなたー」
「おう」
門男のところに小柄の女性が駆けてきた。近くに住んでいるのであろう。スリッパである。見た感じ50前後。そしてわたしよりも背が低い。

「あなた、老眼鏡忘れている」
「ああ、助かった」
「今日は希美が帰ってくるから。莉乃ちゃんつれて」
「おう、そうだったか」
門男が少し声のトーンが上がった。

希美、莉乃……。

娘と孫の名前?

そうか、彼はおじいちゃんか……。そして小柄な可

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第四話 シノノメナギの恋煩い

第四話 シノノメナギの恋煩い

なんだかんだで今日も今日とて仕事だ。この図書館にはもう長く勤めている。

大学卒業してすぐだ。地元の図書館。
大学の時に研修としていた頃からだから……うむ、長い。

好きな本に囲まれとても幸せである。最新刊を利用者の方よりもいち早くスリスリ、いや、拝むことができる……だったら本屋でもよかったのであろうが図書館で、というのがわたしの夢であった。

カウンターでの貸し出し作業、イベントの企画運営、展示

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第三話シノノメナギの恋煩い

第三話シノノメナギの恋煩い

視力が低いことが助かってか本来の姿を薄目でみて現実逃避して湯船に浸かる。

わたし自身男の体を持って男という戸籍を持ちながらも心が女の子と自覚したのは結構早い時期だった。

両親がずっと不仲で小学校に上がった頃には離婚、母方の祖母に育てられていた。
その頃に気づき、祖母もわたしの考えを尊重してスカートやワンピースを与えてくれた。髪の毛も伸ばした。中学の頃には周りの友人や大人の理解があり女子の制服を

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第二話シノノメナギの恋煩い

第二話シノノメナギの恋煩い

これは数年前に遡る。

わたしは家で「新婚ちゃん、おいでやす」をごろんと見ていた。日曜昼の番組だがルームシェアをしている相方が好きな番組だと言うことで録画しているものが流れている。
わたしは普通にやっている番組もつまらないし、昔からやっている番組ともあって惰性で見ている。

最近司会者がベテラン落語家から若手の落語家に変わったとのことだがわたしはあまり興味はないが素人カップルたちとの年齢差が無くな

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第一話:シノノメナギの恋煩い

第一話:シノノメナギの恋煩い

とある収録スタジオ。
初めて訪れるテレビ局にわたしはとても緊張して手汗が止まらない。
そんなわたしのてにポン、と大きな手がのる。

「大丈夫やて、練習通りすりゃええわ」
安定の関西弁の彼のその載せた手も震えてる。

「わかってる……」
その関西弁につられてわたしの東濃弁はもともと関西弁に近いテイストだけどさらに関西弁ぽくなるけど彼が言うにはまだ違うらしい。

「すいません、本番ですー!」
呼ばれる

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