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片栗粉の袋を切り落とすまで

中学生の頃から自分のお弁当を作り始めて35年以上経つし、自炊生活だって33年になるわけだし、それなりに料理する時の要領はいいはずだ。

と思っていたら大間違い。ということが私はよくある。
今からするのは、ものすごく細かい話です。これは、私の家事人生の中で思い出深い出来事の1つだ。タメになる話でもなく、なんだそれと言う人もきっとたくさんいるだろう。

正解があると知らず気づかず、一人暮らしは始まった

私は、両親が共働きの核家庭で育った。たまに遊びに行く祖母の家にはきっとたくさんの根付いた知恵に溢れていたのだろうけれど、私は旅人のような気軽さと楽しさだけで過ごしていて、その価値を理解できる成熟さもなかった。大学進学をきっかけに一人暮らしを始めた頃には、いわゆる「暮らしの知恵」が備わっていなかったと思う。

以前「料理情報に疎いまま大きくなった、と言えない」にも書いたが、家に生活情報誌は一冊もなくテレビの生活情報番組もほとんど見たことがないまま始まった一人暮らしの家事は、トライ&エラーの連続だ。自分だけが「困ったなあ」「いやだなあ」と思いながら、めんどくささと天秤にかけながらよっぽど嫌になったら改善する術を探る、その繰り返しだ。
一人なので失敗しても誰かに咎められることもなく、どれが正解かなんて気にしなくてもいい。もしかしたら私が家事に対してあまりストレスを感じないのは、この開放的な環境の中でのスタートだったからかもしれない。

片栗粉をどう保管しておくか

片栗粉は、そんな私の家事人生ので象徴的なものの1つだ。
片栗粉は、一度で使いきれない量が細長い紙袋に収まっている。
私は大雑把でまめな方ではない。使い始める時に、袋の上の端っこを斜めに切って小さな口をつくり、そこから粉を出し、使い終わったら袋の口を輪ゴムを何重かにして閉じて保管していた。粉類をお揃いのラベルつき収納ビンに入れ替えて…なんてことはしない。
学生時代は何の疑いもなく常温でシンクの引き出しに保管していたが、子どもを産んで少し経ったある日、テレビかなにかで「粉にはダニが発生する」と言っているのを聞いてから、これはヤバいと、冷凍庫にしまうことにした。

そうして何年も経ったある日ついに
「片栗粉の粉を出す口が小さいと、不便だ…」
と認めた。
ずっと気付いては、いた。使う時に輪ゴムを外すのも意外と面倒だし、粉を出すときに袋の口を下にしてトントンと出しても一発で使いたい分の量は出ず、出づらいときにちょっと押し出すとプシュッと空気と共に粉が舞い、これもまた一発で使いたい分の量が出ない。
そもそも袋の端っこを小さく切って口にしたのは、小さければ粉もこぼれにくいし、虫も入りにくいんじゃないかと思ったからだ。でもずっと、使うたびに粉は出しにくく、しまう時も面倒じゃないか。

ここで初めて私は、片栗粉の袋の口を大きく切ることにした。大きな一歩だ。
輪ゴムで止める手間は変わらないが、口が大きいので計量スプーンをそのまま突っ込んで粉をすくうことができるようになった。飛躍的に作業が楽になった。

すると次の不都合が起きる。
片栗粉の袋が細長いので、粉が少なくなってくると、計量スプーンが届きにくくなる。袋の底の方にある粉を計量スプーンですくう間に、スプーンに余計な粉がついたりする。しまうとき、袋を指で軽く弾いて内側についた粉を落とし袋の中の余分な空気を抜いて口を折り曲げようとすると、またプシュッと空気と共に粉が舞う。
でも、口を小さく切っていた頃に比べたらずっとマシだ、と思いまた数年が経った。(この間に、キッチンクリップと出会うことで口を輪ゴムで止める面倒からは解放された)

そして、最適解を見つける

そして一人暮らしを始め15年ぐらい経った30代のある日、突然思いついた。
「粉が少なくなったら、その分、袋を切って小さくすればいいんじゃないか」と。

これだけのことに気づくのに10年かかった

何を固定観念に縛られていたんだ、私は。
買ってきた片栗粉の袋のまま保管しなくちゃいけない、そんなこと誰が言った。

3分の1にまで減っていた粉が飛びださずキッチンクリップで止まるぐらいの長さを残して、袋をチョキンとハサミで切ってみた。すると、片栗粉はとてもコンパクトになり、計量スプーンですくうたびに余計な粉がつくこともなく、袋の底まできれいにすくえて、口を閉じるときも粉が舞うこともなく、私は、思いつくほぼ全てのストレスから解放されたのだった。粉を入れ替える手間を回避したままで。
ささやかながら、日々の積み重ねの中で自分で最適解を見つけたときの喜びを、私は片栗粉から教わった。

それからさらに月日は経ち、今のところまだこのやり方が気に入っている。「片栗粉 保存の仕方」と検索したら、もっと合理的でスマートなやり方がわずか数秒で出てくるに違いない。でも、イライラするほど困ってもいないし、調べてまで早急に答えがほしいほどの優先度は全くない。
私はスマート化も合理化も嫌いではない。むしろ好きな方だろう。その一方で、こんなふうにアナログにトライ&エラーを繰り返して最適解を更新することの楽しさを、自分の暮らしの中にとっておくのもいいと思っている。
とりあえず、片栗粉との付き合いに関しては、日々をまた重ねていくうちに最適解が更新されるのを楽しみに待つことにしよう。

片栗粉のトロミが切れるのを防ぐには

片栗粉といえば、トロミ。トロミのお悩みといえば、時間が経ったら切れてしまうこと。NHK首都圏版のお昼の情報番組「ひるまえほっと」で、そのお悩みの解決方法をご提案しています。ついでに、スパゲティーサラダがダマにならないコツもご紹介しています。ご興味があったらぜひ読んでみてください。



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