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紫がたり 令和源氏物語 第百五十五話 絵合(一)

 絵合(一)

藤壺の女院は正式に故六条御息所の姫・先の斎宮に入内されるよう申し込まれました。
遣いとなって六条邸を訪れたのは源氏の君です。
「源氏の大臣、わたくしを主上(おかみ=帝)の女御にと仰せになりましたか?」
姫はとても驚かれました。
帝とはいえ、御年十三歳。
姫宮は二十二歳でいらっしゃるので、年齢差からいってもよもや入内はないと考えておられましたが、母を亡くし心細くあったので、いずれ宮仕えかどれかの縁談を受けるものと思っていたものの、女院からじきじきの申し入れがあるとは予想外だったのです。
喪も明け、母を亡くした御心はだいぶ穏やかになられましたが、自分の身の振り方や結婚についてはまだまだ先のことだと考えておられました。
「主上がお若いのが気になりますか?」
源氏は姫の心中を見透かすように問いました。
「わたくしに女御が務まるのかと案じております」
「私がここ数か月姫と交わらせていただいての感想ですが、姫の教養の高さ、物腰、どれをとっても女御として立派にやっていけるものだと感じました。それにお付きの方々もおりますし、心配はないでしょう。主上はお若くていらっしゃいますが、大人びておいでなので、姫のような方がいらしてくれるとありがたいと女院は思召しておられるようです。よく考えてお返事をください」

源氏が退出すると姫はぼんやりと考え込みました。
かつて亡き母は宮中での暮らしを懐かしみ、年中行事のことや四季折々の管弦の遊びなど遠い目をして楽しそうに語っていたものでした。
きらびやかな宮中での生活は若い姫宮にはとても魅力的に感じられます。
しかし一方では帝の寵愛を競って女同士の争いがあるのだと思うと物憂くなります。
それでもどの姫も帝と同じくらいの歳であるので、「お姉さまのような気分で気楽にお過ごし遊ばせ」という源氏の最後の言葉は強く印象に残りました。
天涯孤独で家同士の争いに巻き込まれるわけではないし、後見なくしての入内は頼りないものですが、天下の内大臣である源氏が後見をしてくれるのであればこれほど心強いものはないでしょう。
他に嫁ぐとなると、脳裏に浮かぶのは朱雀院ですが、あの伊勢へ下る日の優しげな院の御様子を思い出されると心が動かぬこともありません。しかしながら数多の女人がすでにお仕えしているということで、亡き母が懸念していたこともあります。
元来素直な気性の姫宮は、やはり女院の思し召しに従った方がよいのではないかと考えられ、数日後入内する意志を源氏に伝えました。

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