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【第3章-人間の仕組み-第3節】文字の発明とミーム

[はじめに、Memeとは何か?]

ミーム(Meme、模倣子)とは、リチャードドーキンスが1976年に「利己的な遺伝子」の中で初めて言及された概念である。人間をはじめとする生物は遺伝子(Gene)によって、次の世代(子孫)に生命の設計図や本能を継承するが、遺伝子情報には掲載されない情報も備えている。

例えば「文化、思想(宗教・マルクス主義)、言葉、音楽、科学理論」などは、「遺伝子には記録されない情報」であり、生まれつき習得することができない情報と言える。

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仏教の開祖である釈迦は、生誕時に「天上天下唯我独尊」と唱えたという伝説が残っているが、通常は生まれつき言葉を喋れる人間も居なければ、聖書や科学理論を記憶している人間は存在しない。そのため、人間はそれらの情報を「石版」「書物」「物語」という形で伝承してきた。

Memeが受け継がれるためには「情報を持つMemeの伝承者」「Memeを解読可能な継承者」の2つが必要となる。これを仲介するのが「文字」「言語」「踊り」「音楽」「模様」「書物」「石版」「物語」などであり、これを媒介して「Meme」は遺伝子(Gene)のように人から人へ伝えられる。

親から子へと、遺伝子情報(Gene)が伝わるように、ミーム(Meme)もまた、次の世代へ受け継がれるのだ。

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本節では、「ミーム(Meme、模倣子)」という概念を「文明」「文化」「人類史」「宗教」「社会的成功」「遺伝子」「自然淘汰」「才能と努力」「教育」「夫婦関係と子育て」「外部記憶装置」「デジタル情報」など、多岐の話題を交えて解説する。

ミームはある意味で「遺伝子」よりも、身近な存在でありながら、「世界を理解するために極めて重要な概念」と言えるだろう。この概念を知り、その意味を理解した時、あなたは世界に対する見方や価値観が一変するはずである。

本項は「自分とは一体何者か?」「自分が死んだらこの世界に何が残るのか?」「自分の生きた証を残したい」と考えている人間に最適な内容であるが、「子供を持つ親」「芸術家(画家、写真家、小説家、ライター)」「不妊に悩む母親」「社会的成功を夢見る若者」「人類史や文明に興味がある人」など・・・、老若男女問わず「ミームという概念をおもしろく読める内容」となっているはずだ。

(文字数:約27000文字)

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[Memeは文明社会を支える根源]

我々人間は日常生活の中で「文字」「数字」「言葉」「思想」「音楽」などを使用し、文明社会の中で暮らしている。先進国の識字率は90%を超えており、「書籍」「インターネット」などから日常的に情報を吸収している。戦争や社会状況により文字が読めない場合でも「言葉」「歌」「口伝(物語)」により、意思疎通を図ることは可能であり、アメリカの先住民であるインディアンは絵により、文化継承や意思疎通を行っていた。

しかし文明生活を送る上で必要なこれらの「情報」は、遺伝子(Gene)に書き込まれている訳はなく、幼少期からの教育により初めて使いこなすことができる

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イルカ、鳥、蜂、チンパンジーなどは、「言語」や「ボディランゲージ」などでコミュニケーションを行うことは知られている。しかし、基本的に自然界においては、人間のように「言葉」「文字」「絵」「映像」「音楽」「理論」などを使いこなす動物は存在しない。

高度な文明社会を成り立たせるためには、「食糧生産、高等教育、科学技術、芸術、建築、人材管理、情報伝達、軍事、医療、社会インフラ」などが必要となる。生物学的には「人間も動物の一部」に過ぎず、本能が剥き出しになれば、チンパジーと変わらない野生的な動物となることは間違いない。

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しかし、「人間と動物の違い」は、他種よりも圧倒的に優れた「知識/知性(Meme)」を持つことに他ならず、躾や教育を施されずに育った人間はある意味では動物と言えるだろう。「知識/知性(Meme)」の重要性を理解するためには、核戦争や自然災害によって、近代文明が徹底的に破壊された世界を想像してみればよいだろう。

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もしも核戦争や疫病によって人口の99.9999%が死滅するような「世界の終わり」が到来すれば、世界はどうなってしまうだろうか?

文明社会の維持に必要な、科学技術(社会インフラ)の知識と経験を持つ人間は死滅し、残された「文明の遺物」を再利用する世紀末のような世界となってしまうはずだ。生命維持に必要な食料生産技術は再建されるであろうが、「電気・水道・ガス・情報通信・教育・医療・政治」などのシステムは崩壊し、人間は0から新しい社会を再建しなければならない

かの有名なユダヤ人物理学者:アインシュタインは「第三次世界大戦がどのように行われるかは私にはわからない。しかし、第四次世界大戦が起こるとすれば、人類は石とこん棒で戦っているだろう」という言葉を残しているが、Memeが遺伝子情報に掲載されていない以上、Memeを継承できる人物が消滅すれば近代文明は「ロストテクノロジー」となり、誰も使用することができない技術(情報)と化すのだ。

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[偉人はMemeにより子孫を遺している]

アインシュタインと言えば、「E=mc^2」という方程式があまりにも有名である。この方程式は、物質の質量におけるエネルギー量が膨大であることを示した式であるが、内容を正確に理解せずとも世界中の人間に知られている。しかし、我々はアインシュタインの子孫でもなければ親戚でもない。

生物学的にはアインシュタインとは全く関係のない人間であっても、彼の考案した「E=mc^2」「相対性理論」という情報を記憶している。彼は1955年に死去しており、多くの者は学校教育や書籍、マスメディアによって「会ったことも無いアインシュタイン」の理論を知識として保有している。

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このような事例はアインシュタインに限らず、「プラトン」「アリストテレス」「ソクラテス」「ピタゴラス」「デカルト」「ダヴィンチ」「ガリレオ」「ニュートン」「シェイクスピア」「ベートーヴェン」「モーツァルト」「アダムスミス」「ダーウィン」「フロイト」「マルクス」「コナンドイル」「ウォルトディズニー」「スティーヴジョブズ」「葛飾北斎」「宮沢賢治」「太宰治」「芥川龍之介」・・・・など。

「科学・哲学・数学・音楽・芸術・文学・思想・経営」あらゆるジャンルにおける、人物の経歴と功績を我々は把握している。しかし当然のことながら、彼らが造り上げた理論(情報)は、決して遺伝情報には掲載されていない。哲学者デカルトが遺した「我思う故に我あり」という言葉は、誰もが知る有名な哲学であるが、多くの者はデカルトの子孫ではない。また、我々はシェイクスピアや宮沢賢治の子孫ではないが、彼らが生み出した物語は、多くの現代人に共有されている。

ユダヤの格言には「生きていても・・・死んでいる人がいる、死んでも・・・生きている人がいる」という言葉があるが、偉大な発明品を生み出した偉人の作品は、彼らの肉体が滅びようとも、「Meme」という形で世界に影響を与え続ける。

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美術館に行けば数百年前に描かれた絵画を生々しい姿で感傷することができるが、当然の事ながら作者は既に死亡している。しかし、「絵画というパッケージ」で遺された優秀なMemeは、資本家により丁重に扱われ保存される。絵画の場合には劣化や損壊が起きた場合でも、修復家の手によって補修が施され、描かれた当時の姿を維持することができる。

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これは絵画に限らず、ミケランジェロの彫刻、アイザックニュートンの「プリンキピア」、レオナルドダヴィンチの「レトランティコ手稿」、チャールダーウィンの「種の起源」、ベートーヴェンの「交響曲第5番」、シェイクスピアの「ハムレット」・・・など、時代を超えて継承されるMemeは数多く存在している。

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[優秀な遺伝子(GoodGene)と良き父親(GoogDad)]

古今東西、権力者たちは「一夫多妻制度」で多くの妻を抱えていた。金や権力を持つ人間は、一人で多くの女性を養うことが可能であり、女性にとっても「優秀なオス」と子孫を残すことで恩恵を授かることができる。現代社会においては、「結婚制度」により1つの夫婦関係しか持つことができないが、現実的には「容姿に優れた男性」「金や権力を持つ男性」「知名度の高い男性」「集団内で人気を集める男性」が、その他大勢よりも圧倒的に女性からモテる。

元外資系金融に務めた経歴を持つ、藤沢数希が提唱する「恋愛工学」では、このような男性を「GoodGene(アルファオス)」と呼んでいる。(ちなみに哺乳類の世界では、95%以上が一夫多妻である)

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「GoodGene(優秀な遺伝子)」を持つ男性は、多くの女性からモテる上に、容姿に優れた美女と結ばれることで、子孫を残すという生存戦略においてより有利な立場を確立する。残念ながら容姿や社会的成功に恵まれない男性は、女性を婚姻関係および子孫を継承することができず、子孫を残すことに失敗する。その一方で、安定した収入源を確立しており、子煩悩で伴侶への愛情を欠かさない「家庭の安定」を重視する男性については、「GoodDad(良き父親)」として結婚市場において高い価値を持つ。

しかし、女性からすれば容姿に優れた「GoodGene」と浮気して妊娠し、子育てを「GoodDad」に任せた方がもっとも有利に子孫を残すことができる。そのため、「他人の子供を自分の子供と知らずに育てる」という残酷な状況に、知らず知らずにうちに置かれている男性も存在しているはずだ。

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現代ではDNA検査を安価で手軽に依頼することが可能であるが、現実的には「血液型」で親子関係を確認するに留めるのが大半のケースである。人間は動物の一部であり、女性からすれば「最適な遺伝子(種)」を受け継いだ方が競争戦略において有利であるというのが事実である。これは心象的には、非常に不快であるが、「極めて合理的な選択」であるという現実を理解する必要がある。

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[優秀なMemeと絶滅するMeme]

これと同じように、Memeにも「優秀なMeme(GoodMeme)」「劣悪なMeme(BadMeme)」が存在している。Memeもまた、「言葉」「マスメディア」「外部記憶装置」を通して、人から人へと伝播する「自己複製機能」を持っているという点では、遺伝子と同じである。

科学者や小説家、芸術家が作り出した「優秀なMeme」は、これまで解説したように「時代」「場所」「文化」を超えて人々に拡散される。人の心(情動)に訴えかけることに成功すれば、強制せずともMemeは自然に拡散されるのだ。

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宗教も元々は一個人(モーセ、キリスト、ムハンマド、釈迦)が創造したMemeであったが、人々の心を捉え、改変を繰り返しながら世界中に拡散されることになる。

宗教は「布教活動」が無ければ世界に広まることはありえず、布教活動は遺伝子でいうところの「自己複製」に当たる。キリスト教においては「宣教師」がMemeの伝達という役割を担い、新興宗教においては信者が布教活動を熱心に行う。マルチ商法や営業職についても同様であり、自社の商品を第三者に「宣伝」することで、人から人へと情報(Meme)が伝達される。

「宗教」は歴史上もっとも優秀な伝播能力を持つMemeと言えるが、人の心を動かすことができれば「思想」「哲学」「科学理論」「作品」「物語」「商品」「プロパガンダ」についても、強力な拡散能力を持つ。その一方で、「人の心を動かさない劣ったMeme」については、一部の人間にしか共有されることはなく、その短い生涯を終える

Memeは古今東西ありとあらゆる場所で生み出されてきたが、歴史に名を残すことなく消え去ったMemeは沢山存在しているのだ。

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これは、2018年現在、もっとも幅広い国家・年齢層で利用されている「Twitter(SNS)」で例えると理解しやすい。Twitterにおいては、「おもしろい」「有益」「美しい」「笑える」「可愛い」「驚く」「共感できる」「許せない」と言ったすべての人間が備える「喜怒哀楽」の感情を刺激した投稿(Tweet)が、「RT(Retweet)」という形で拡散される。一個人が投稿した内容が、24時間で数十万〜数百万人の人々に共有され、人々の記憶の奥底に留まり続ける。

もちろん、共有されるのは一瞬であるが、現在の学説では人間は生まれてから習得した「全ての情報」を記憶しており、「きっかけ」があれば脳内(ニューロン結合)から記憶を引き出すことができる。記憶の引き出す能力には個人差があるが、似たようなツイートが投稿されれば、その投稿と類似する「数年前のツイート」が発掘される現象は、誰もが目撃しているはずである。このように、「拡散能力」という点においては、Meme(情報)はGene(遺伝子)よりも、強力な「自己複製能力」を有しているのだ。

しかし、数百万人の人間に拡散される(バズる)ツイートが存在する一歩で、99%以上のツイートがネットの闇に姿を消してしまうというのが現実だ。個人の日常的な日記や愚痴、独り言は一部の人間にしか閲覧されず、SNSにおける投稿の大部分は「極めて短かい期間」でその寿命を終えてしまう。

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これはインターネットの情報に限らず、毎月大量に出版される書籍、お笑い芸人、ミュージシャン、画家、小説家、アスリートなどにも該当する。数十億人の人口を抱える地球上においても、世界中でその名を知られている人物は極めて少数であり、国や時代を超えて「名前」や「作品」を遺せる人物は極めて少ないのが現実だ。

10代〜20代の若者は、「国民の誰もが知る大スター」「社会的成功者」に憧れ同じ道を歩み出すが、「Memeの拡散」に失敗した人間は誰にも存在を知られることなく、その生涯を終える

「アリストテレス」「ユークリッド」「アイザック・ニュートン」「アインシュタイン」「ロスチャイルド」「レオナルドダヴィンチ」「ウィリアム・シェイクスピア」「葛飾北斎」「スティーヴ・ジョブズ」「ビルゲイツ」「スピルバーグ」「スタンリー・キューブリック」などの著名人には誰もが憧れるが、彼らの背後には、社会的な成功を実現できなかった膨大な「屍の山(その他大勢)」が存在しているのだ。

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[遺伝子(Gene)と社会的成功]

ヒトゲノム(人間のDNA情報)の解析が進んでいる現代においては、「外見、知能、運動能力、気質、協調力、社交性、勤勉性、薬物依存性」などの能力の50%以上が「遺伝子の影響を受ける」とされている。遺伝子(Gene)が人間の基本的な能力を決定し、環境による影響は微々たるものとされ、社会的成功や学術的成功は「遺伝子が決定する」というのだ。

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この学説は、全く同一のDNAを持つ「一卵性双生児」に焦点を当てた「双生児法」を根拠にしている。もっとも著名な事例としては、「ジム・スプリンガー/ジム・ルイス」という双子のエピソードが有名である。

スプリンガーとルイスは、生誕後まもなく別々な家庭に養子として預けられたが、39歳の時に生き別れの兄弟を捜索する。数十年ぶりに再開した二人は、互いに驚くほど一致する「共通点」を発見することになる。

「爪を噛む癖」「不眠症」「心臓病」「喫煙者」と言った身体的特徴に限らず、初婚の妻の名前はどちらも「リンダ」、生まれた息子には「ジェームズ・アラン」と名付け、互いに離婚したのちに「リンダ」という女性を再婚、さらに同時期に犬を飼い「トイ」という名前を付けている点までまったく同じであった。職歴も「保安官捕→ガソリンスタンド店員→マクドナルド」と共通しており、趣味は「日曜大工」、自宅の地下に仕事場を持ち、夏季休暇はフロリダの海岸で過ごすという点に至るまで、同じである。

(※ちなみに、一卵性双生児でも異なった「指紋」を持つことは知られており、胎児が子宮内で成長する際の、微妙な変化によって別々な指紋が形成される。初期値の微妙な変動が、指紋という容姿に影響を与える以上、社会環境の微妙な違いが人生に影響を与えるというのが実際であろう)

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これは極端な事例ではあるものの、似たようなケースが世界中の一卵性双生児において確認されており、「行動遺伝学」という学術分野で研究が行われている。確かに人体の設計図である「遺伝子」が、人間の「能力/性格/容姿/習慣」に影響を与えるのは間違いないが、「社会的成功は完全に遺伝子が決定する」というのは大きな間違いである。

もし「遺伝子」が人生における成功を決定するものであれば、「スティーブ・ジョブズ」の娘である「リサ・ブレナン・ジョブズ」は世界的大企業のCEOとなっているはずだが、実際には父親の私生活を暴露した作家業で生活している。

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[天才の遺伝子を継承した子供達]

アインシュタインの長男である「ハンス・アルベルト・アインシュタイン」は、カリフォルニア大学バークレー校の水理学者として名を残しているものの、父親を超えるほどの天才とは言えない。次男の「エドゥアルト・アインシュタイン」は精神科医を目指して医学部に進学するが、統合失調症を発症して精神病院に収監されることになる。

自らを「銀座のユダヤ人」と称した天才経営者:藤田田(日本マクドナルド)の息子である「藤田元/藤田完」は、「藤田商店代表取締役社長」や「東京タワー蝋人形館 館長」などに就任するものの、日本を代表する経営者とは言えない

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このような実際の事例を確認しただけでも、膨大な統計データを学術的に解析した結果として「遺伝子が成功を決定するとは限らない」ということが良くわかる。どれだけ優秀な遺伝子を(父母から半分ずつ)継承したところで、社会的/経済的な成功が確約される保証は存在しないのだ。それがあらかじめ把握できるのであれば、ベンチャーキャピタルや投資家はこぞって、経営者に対して「遺伝子検査」を要求し、「遺伝的素質」のみで投資の可否を決定するであろう。

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「遺伝子と成功」をテーマにした映画としては、『ガダカ(GATTACA)』が有名である。この作品で描かれる近未来においては、「遺伝子操作」により優れた容姿や知能を持った人間は「適正者(優等種)」として、社会的にも丁重に扱われ、「自然妊娠」により誕生した人間は「不適正者(劣等種)」として不利な社会的地位に置かれている。

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「不適正者」である主人公は、遺伝子という生得的な制約を「努力(犯罪)」や「教育」という手段によって克服するというストーリーである。遺伝子により「強制的に人生が決定される」という社会には嫌悪感を抱く人も多いだろうが、「遺伝的優生学」や「遺伝的決定論」が世論に受け入れられれば、このような社会が現実化する可能性は十分にありえるのだ。

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[成功は社会的なMeme(価値観)に影響される]

遺伝子が必ずしも「社会的成功」を約束するとは限らない理由としては、「社会の価値観」「他人からの評価」が重要なポイントとなる。「科学的発見」においては「事実であるか否か」が重要なポイントであるが、「芸術」「音楽」「文学」「思想」「発明品」「商品」などについては、「製作者の能力」だけで成功することは不可能であり、「他者からの評価」や「社会(時代)の価値観」が重要である。

端的に言うならば「創造物(Meme)の価値を決めるのは他人」であり、「他人から認められること」で初めて社会的に成功することができるのだ。

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しかし、「価値基準」「評価者(権力者)」の判断基準は、時代や社会によって常に変動しており、どれだけ優秀な作品を作り上げたところで、その時代や社会の価値観にそぐわない「創造物(Meme)」であれば正当な評価を得ることはありえない。

例えば世界的に有名な印象派の「画家:フィンセント・ファン・ゴッホ」の作品は、生前はまったく評価されることはなく、彼の死後に絶大な評価を受けて絵画に高額な値段がつけられた。その一方で、「パブロ・ピカソ」は存命中に世界的な評価を確立し、14万点もの作品を制作しながら優雅な生活を満喫した。

つまり、「創造物(Meme)」による「評価」は、常に他人が下すものであり、多くの人々が「優れたMeme」だと認めなければ、Memeが世界中に拡散することも、製作者が社会的成功を達成することもありえないのだ。社会や権力者、一般大衆が「何を求めているのか?」を把握することは非常に難しく、時の流れと共に「ニーズ」も変動してしまう。

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これを事前に予知することは不可能であり、「遺伝的特性」と「社会的価値」がマッチしなければ、成功することは絶対にありえない。これはカオス理論で語られるように、「予測不可能性」を秘めており、どれだけ優秀な遺伝子を持ったところで、それを活用できるとは限らないのである。

また、遺伝的に「優れた素質」を生得していた場合でも、それを発揮できる「環境」が無ければ、まったく意味がない。

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例えば「サッカー選手に最適な超一流の遺伝子(肉体)」を持った人間が誕生した場合でも、彼がジャングルの秘境に生まれていれば、能力を開花させるトレーニングを受けることができず、「超一流の狩人/戦士」として、その生涯を終えていたことだろう。非凡な知性(遺伝的特性)を持って生まれた人間であっても、スラム街に生まれていれば、「頭の切れる薬の売人/ギャングの参謀」としてその生涯を終えてしまい、学者として成功する人生を歩むことは難しいはずだ。

しかし、近年ではインターネットの発達により、文化資本を持たない貧困地域でも、情報習得や発信を行うことが可能となった。お金や教育機会に恵まれない子供達でも、「図書館」「ネット通販」「インターネット辞典」「動画通信教育」などを利用して勉強し、「SNS」や「Blog」を通じて交流や発信を行うことが容易である。

ユダヤの格言にも「貧しい人の息子は、讃えられよう。人類に叡智をもたらすのは彼らだから」という言葉がある。インターネット網がさらに発達すれば、遺伝子レベルでの天才が、インターネットを活用し、社会的に「発掘」される時代も遠くないはずである。社会のネットワーク化は、「Memeの拡散」という意味では、非常に恵まれた時代であると言えるだろう。

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《教育という名のMemeの継承》

我々が普段利用している「日本語(言葉)」「文字」は、幼少期に「両親」や「教育機関」から受ける「教育」によって、初めて使いこなす事ができる。赤ちゃんの身体表現は「寝返り」「鳴き声」から始まり、周囲の環境から受ける情報(Meme)を吸収して「単純な言葉(パパ、ママ)」「ハイハイ」「二足歩行」などを習得していく。

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食事についても、赤ちゃんの場合には両親が口元までスプーンを持っていかなければ、一人で食事を摂取することもできないが、やがて「箸」「スプーン」「フォーク」の使い方を教育されることで、一人で食事を行うことが可能となる。「排泄」「着替え」「調理」などについても同様である。

「教育」とはまさに「Memeの伝達/継承」そのものであり、人間は他人から教育を施されなければ、正常な「社会生活」を営むことができない。人類がチンパンジーから分岐し、高度な知性を獲得した時点から、文明生活を築き上げた結果として、近代社会が形成されたが、これは「祖先から脈々とMemeが継承された結果」である。

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文字文化を持たない原始的社会においても、「口伝」という形で親から子へと文化や規律が継承され、「バトンリレー(Memeの伝達)」が行われて来たのだ。

教育の重要性を確認する仮想実験としては、「閉鎖空間に閉じ込められた子供」をイメージすると分かりやすい。世界トップレベルの頭脳を持つ両親から生まれた子供であっても、誕生直後に外部との接触を断たれた「閉鎖空間」に閉じ込めれば、識字はおろか、言葉を喋ることすら不可能であろう。

遺伝子情報に書き込まれた「本能(食欲・性欲・睡眠欲)」については、教育を受けずとも生得されているだろうが、文明社会に適応するのは不可能に近い。

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[外部から遮断された環境で育った虐待児]

人道的見地からこのような実験が公に開示されることはありえないと思うだろうが、実際に「ジーニー」という少女の事例が存在する。ジーニーはアメリカ合衆国カリフォルニア州で誕生し、医師から発達が遅れていると指摘された事が原因で父親から閉鎖空間に隔離された。彼女は暗い寝室で便器付きの椅子に縛り付けられ、音を立てることすれ許されず、生命を維持するのに必要な食物だけを与えられて育った。

母親はやがて罪悪感に駆られ、彼女が13歳の頃に夫に反発してジーニーを救出する。救出後のジーニーは言葉を話す事ができず、わずかな単語や命令文を理解できるのみであった。長年、拘束生活を強制されたおかげで正常に歩行することも難しく、所構わず唾を吐く、自慰行為を行うなど、「社会性」が完全に欠落した状態であった。

教育の重要性を訴える類似例としては、インドのジャングルでオオカミに育てられた「狼少女(アマラとカマラ)」が世界的に有名であるが、彼女たちは実際には「精神障害の孤児」であり、保護者である「キリスト教伝道師:シング」の証言には偽証が多いとされている。

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しかし、どんなに優秀な気質を持って生まれた子供であっても、能力を開花させるための「教育」「努力」「修練」が無ければ、才能を有効利用するのは不可能であるのは間違いない。Memeを受け継ぐための、「教育」や「環境」は極めて重要であり、世界的学者や経営者を生み出しているユダヤ民族においては「何よりも教育が重視」されている。

「親から子」へと世代を超えて語り紡がれる「教育」は、子供の素質や才能を育むために、極めて重要な「バトン」であり、子育てにおいてもっとも重要視するべき対象であると言える。

ユダヤの格言にも「我が子に仕事を教えないものは、盗みを教える結果となる」という言葉があるが、人間は「教育」を通して「社会性」や「付加価値の創造方法」を学ぶ動物であり、その意味では「遺伝子(gene)」よりも「教育というMeme」の方が重要であるのは間違いない。

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[産みの親より育ての親]

しかし、「教育」とは遺伝的に繋がりのある肉親から受ける必要があるとは限らない。肉親から捨てられ、養子として迎え入れられた子供であっても、「人格」「知識」「経験」「スキル」は、「教育(Meme)」を通して習得することができる。

「産みの親より育ての親」という言葉があるように、教育は必ずしも「遺伝的繋がり」を通して継承する必要はないのだ。むしろ10代の若者は、「両親の言葉」よりも「憧れの芸能人」「尊敬する偉人や経営者」から与えられた「Meme」を崇拝することが多く、知識の大半を遺伝的繋がりを持たない「他人」から与えられる。

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「友人」「先輩」「書籍」「テレビ」などから受け取るMemeは、人間の行動指針に大きな影響を与え、人生の方向性を変えるほどの影響力を持つ。Memeが人間に与える影響力は、遺伝子から与えらえる影響を遥かに凌駕しており、「1冊の本が人生を変えた」「1人の人間との出会いが人生を変えた」と証言する人間は数多く存在している。

「言葉」「思想」「文化」「芸術」などは、人の心の最も奥底に定着し、深い感動や共感を与えることで、その人の中でウィルスのように繁殖する。その思想(Meme)が社会的にネガティブなものである場合には、オウム真理教の「地下鉄サリン事件」のようなテロリズムに発展することもあり得るのだ。

人間の「道徳」「善悪の価値観」というものは、「人間の内面性(Meme)」が自己選択するものであり、外部からの影響によって「Memeは書き換えることが可能」である。これはある意味では「洗脳」と言えるだろうが、「学校教育」「マスメディア」「宗教」「アイドルグループ」「政治思想」など、すべての教育や思想は「Memeという媒体を通した洗脳」である。

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ある人間にとっては都合のよい価値観は、一方の人間にとっては都合の悪い価値観である。自然界には「善悪」という概念すら存在しておらず、「犯罪」「禁忌」という概念は「人間は作り上げた虚構」である。

これは既得権益や国家の管理者にとっては都合の悪い事実であるが、非常に残念ながらこれが「本質/真理」である。第三者からの洗脳によって、「一般常識」「既存の価値観」を破壊された人間は、平気で社会生活からの逸脱を選択し、場合によっては世界を破壊するために「集団の倫理」に従ってしまう。

しかし、人間の社会生活は「他者への愛」「道徳観念」「法律や規律」「相互補助」によって成り立っており、これが破壊されてしまえば、自然界のような弱肉強食の世界で生活を余儀なくされることになる。

「人を殺してはいけない」「法律は守らなければならない」「人が嫌がることをしてはならない」「困っている人は皆で助けなければならない」「皆で協力して組織を運営しなければならない」というMemeを多数の人間が守ることによって、初めて文明社会を維持することができるのだ。

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[文字という"外部記憶装置"の発明]

人体そのものには、生命活動を維持するための基本的な本能しか備わっておらず、遺伝子に掲載されない「Meme」という情報を習得しなければ、文化的な活動を行うことは不可能である。

「読み書き」「計算」「礼儀作法」「学習」「労働」などの活動は、先人が発明した「文字」「数字」「言葉」「儀礼」「文化」「思想」が、次の世代に継承されることで初めて、応用することができる。

これらの情報は「言葉」「書物」「マニュアル」「音楽」「物語」などによって継承され、一度習得すれば脳内に「記憶」として留めて置く事が可能である。しかし、情報を記憶した人間が死去した場合や、記憶を正常に引き出す事が困難である場合には、情報は正しく継承されない。

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そのため、人類は自然や物理現象を記録するための「絵文字」「文字」「数字」を発明した。これらの情報は壁画、石版、パピルス紙、羊皮紙などに記録され、破損しない限りは情報記憶を後世に語り継ぐことが可能となった。

文字が発明されたおかげで、情報の持ち主が不在であっても内容を他者に共有する事が可能となり、情報を物理的な記号で示すことにより、膨大な知識・経験・スキルを「保存」することが実現された。

保存された情報は、時間や場所を超えて「人→外部記憶装置→人」というルートで伝達することが可能であり、記録者の肉体が消滅した場合でも、「外部記憶装置」として情報を保つことができる。

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これは本来であれば、コンピュータの世界で用いられる用語であり、HDD、FD、DVD、USBメモリなどの記録媒体を「外部記憶装置」と呼ぶが、書籍や写真もまた、人間からすれば「脳内の記憶を外部に保存する」という意味では該当するであろう。

スマートフォンで撮影した写真や、SNSに投稿した内容についても、「景色」「思い出」「アイデア」「記憶」を保存するという行為に当たり、記憶だけでは正確に保持することができない情報の記録を実現するツールであると言える。

本書についても、私が教育を通して獲得した「識字能力」「執筆能力」「人生経験」「知識」「思い出」「アイデア」を「文字(文章)」という記号を通して記録したものであり、「文字」や「書物」という道具が発明されていなければ、共有されることはなかった。

「文字」「数字」「書物」という「Meme」は、言葉や絵の制約を超越した偉大な発明であると断言できる。

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[グーテンベルクの活版印刷]

1440年にドイツ出身の「金細工師:ヨハネス・グーテンベルク」が「活版印刷技術」を開発したことはよく知られている。彼が1455年に出版した『グーテンベルク聖書』は、書籍の出版コストを安価にし、流通数や速度を劇的に向上させた。

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その結果として、これまで教会や聖職者が独占していた「聖書の内容」「文字の読み書き」を一般庶民に開放することに繋がった。これまで解説したように、「書物」とは「Memeの複製物」に該当する重要なツールであり、「印刷技術」はMemeの拡散速度を飛躍的に向上させる重要な技術であった。

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印刷技術はイタリアに普及し、ギリシャやローマの古典書が大量に出版されたことが、ルネサンス(文化復興運動)の拡大に繋がる。宗教においてはマルティン・ルターの『95ヶ条の論題』が印刷され、普及したことで宗教改革の原動力となり、免罪符の批判文書は「新聞の起源」とされている。

活版印刷(書物)の発明は、人間の「Meme伝達能力」を飛躍的に高め、人類の歴史にも重大な影響を与えた。書物が無ければ私たちは学校教育において、「教科書」を安易に利用することができず、「高額な写本」を用いた「口頭での授業」を受ける教育を余儀なくされていたことだろう。

「哲学」「文学」「技術(工学)」についても、一部の上流階級しか「読み書き」の能力を獲得しておらず、近代文明は存在していなかったかもしれない。基本的な人体の構造は、縄文時代からさほど変化しておらず、変化したのは「Memeの伝達手段と能力のみ」である。

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この意味でも、Memeは遺伝子よりも人間や文明に対して、重大な影響を齎しているのだ。書籍とは著者の肉体(脳)から転写された「Meme」が集積された紙束である。ある意味では、著者の「Ghost(魂)」を封じ込めたパッケージであるとも考えることができる。書店や図書館に足を運べば、大量の書物を目にすることができるが、本棚には「人間のGhost(魂)」が宿っていると言えば大袈裟だろうか。

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[Memeは様々な形態を持つ]

Memeが記録される媒体は「書籍」という形に限らず、様々な形態でMemeが保存される。これまで述べてきた「物語」「思想」「宗教」については、もっと身近なMemeとしてイメージしやすく「日本昔話」「アンデルセン童話」「グリム童話」などについて、世界中の一般家庭で大人から子供へと遺伝子のように語り紡がれる。

なお「グリム童話」については、グリム兄弟が創作した訳ではなく、彼らが各地域に伝わる民話や童話を収集して編纂したMemeである。Memeの断片をつなぎ合わせて、新たなMemeを創造した結果として「グリム童話」が世界中に伝播することになったのだ。

物語は言葉を理解できる人間であれば、だれでにも理解できる「喜怒哀楽」「起承転結」をパッケージ化したMemeであり、なんども繰り返し語られることで、人々の記憶に定着する。

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「料理」における「レシピ」は、家庭料理においては母から娘へと「共同調理」を通して継承され、日本料理や寿司職人については、親方から弟子へと「修行」を通して伝達される。

生身の体験やアドバイスを通してMemeが伝達され、肉体や脳内に「経験とスキル」が蓄積され、記憶されていく。生身の肉体を動かすスポーツや、肉体労働については、ほとんどが「言葉」「ボディランゲージ」「先輩の物真似」によってMemeが受け継がれている。

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経験則として蓄積されたMemeは、文字や言葉を通して伝達するのが困難であるため、言語化するのが困難ではあるが、これも立派なMemeと言えるだろう。

人間が作り上げた「建築物」についても、物理的なMemeと言える。エジプト文明の遺産である「ピラミッド」の例で考えみても、ピラミッドの建造方法は遺伝子上には掲載されていない。

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数千年前に作られた建築物の存在は、世界中の人間たちに知られており、古代エジプトのファラオが建築を命じたピラミッドという「建造物」は、「物理的なMeme」であるとも考えられる。「ピラミッド」を題材にした物語や作品、「ピラミッドパワー」などで知られるオカルトやミステリーが数多く存在しており、建造されてから数千年にもわたり、世界中の人々に影響を与え続けている。

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外部記憶装置が多様化した現代社会においては、「写真」「イラスト」「映像」「音楽」などを通してMemeをパッケージ化することが可能となった。異国地の地で、外国人が創造したMemeが海を超えて伝達され、「ハリウッド映画」「海外ドラマ」「クラシック音楽」「EDM」などを「CD」「音楽配信サービス」「映画館」「DVD/Bluray」「動画配信サービス」を通して楽しむことができる。

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ブランドや装飾品についても、「一種のMeme」と考えることが可能であり、「コカコーラ」の例で考えてみても「ロゴマーク」「清涼飲料水」というMemeは世界中の人々に愛され、消費されていることがわかる。これは、初めは大衆消費社会の中の一商品であった「キャンベルのスープ缶」についても、アンディ・ウォーホルのポップアートにより、芸術品(Meme)として扱われるようになったことでも、理解できるだろう。

Memeの提唱者であるリチャード・ドーキンスは、『延長された表現系』のなかで「個体が作り上げたものもまた、その個体同様に遺伝子の表現系」という言葉を残している。これは自然界における「ビーバーが造るダム」や「蜘蛛の巣」について、生物が作り出す物理的な建築物を「その個体同様に遺伝子の表現系」であることを説明した言葉である。

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これは人間が作り出す「建築物」「工業製品」「都市」「国家」などの「人工物」についても該当し、文字や絵が含まれてなくとも、「物理的なMeme」であると考えられる。

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[Memeも遺伝子のように変化(突然変異/進化)する]

Memeは様々な形態(パッケージ)により保存され、次の世代に継承される情報であるが、必ずしも情報が正しく伝達されるとは限らない。記録された情報の「真偽」については100%正しいとは限らない上に、権力者や記録者にとって「都合の良い情報」を書き残している可能性も考えられる。

古代の文献や歴史書に記載されている内容は、権力者にとって都合の悪い情報は排除し、「事実を脚色/美化」した情報のみ記録されているはずだ。実績や成果は誇張されているはずだが、タイムマシンを利用して過去に戻らなければ真偽を確認することはできない。

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情報というMemeの完全性を保証するものは何も存在しておらず、「思い出をその記憶と分かつものは何もない」という言葉があるように、「書物」「石版」に記録された情報が真理を表しているとは限らないのだ。

また、情報を読み解き、書き写す場合にも、本物の遺伝子(Gene)のようにコピーミスが生じる。伝言ゲームを数十人で行えば、先頭者に伝えた情報が、最後尾でまったく違った情報に変化するのと同様に、情報は共有を繰り返すことがやがて変化していく。

遺伝子の突然変異により、新種の生物が誕生するように、Memeもまた変化(進化)していくのである。例えば私たち日本人は「日本語」という言語を使用しているが、平安時代に用いられていた日本語と、現代人が使う日本語とでは、発音や記述方法がまったく異なっている。戦後のニュース番組と現代のニュース番組を見ても、アナウンサーの抑揚、発声なども、かなり違っている。

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「それな」「エモい」「ワンチャン」など、説明されなければ意味を理解できない「理解不能な若者言葉」に戸惑い、「正しい日本語」を使えない若者に嫌悪感を抱く年配は少なくないだろう。

しかし、これは日本人に限ったことではなく、世界中で「新語」「造語」「若者言葉」「スラング」など、これまで存在しなかった言葉が次々に誕生している。上流階級の人間の言葉遣いと、社会の底辺が好んで使用する言葉遣いに差があるのが間違いないが、そもそも「正しい日本語」など存在しておらず、長い年月で考えれば、文明社会において言葉が変化するのは極めて自然な現象であると言える。

「美人の定義」についても国や地域、時代によって大きく異なっており、日本においては「飛鳥時代〜平安時代」「安土桃山時代〜江戸自体」「明治時代〜昭和時代」「平成前期〜平成後期」とでは、まったく「美人の定義」や流行は異なっている。

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「人間の価値観」という概念もMemeに他ならず、「昨日の正義は今日の悪」という状況がいつでも起こり得る。この世には「絶対的な価値基準」など存在しておらず、「Memeの変化」という現象によりおきるパラダイムシフトであると言えるのだ。

これは遺伝子が自己複製する過程で「突然変異」が発生し、その積み重ねとして「進化(種の多様化)」が実現されるのと、同様の現象である。個人から生み出されたMemeは、継承されるごとに姿形を変え、淘汰や変化を繰り返しながら進化するのだ。

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原始時代においては、「雷」「洪水」「台風」などの自然現象は「神の仕業(祟り)」として考えられてきたが、科学の発達により自然現象の原因をある程度理解できるようになった。これは「アミニズム」「シャーマニズム」「自然崇拝」という価値観を、「科学というMeme」が淘汰したことが原因である。占いやスピリチュアルについても、多くの現代人は本気では信じておらず、「宗教」や「神秘主義」というMemeは淘汰されつつある。

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[私たちは誰かのMemeを再利用している]

グリム童話が「他人の物語」を組み合わせた「再利用品」であるように、我々は日常生活の中で「誰かのMeme」を再利用して生きている。本書については、私は「文字」の発明者でも、「漢字」の発明者でもないが、文字と文字を組み合わせて「文章」というMemeを創造している。

しかし、習得した知識や情報についても、結局は「書物」「教育」「会話」などを通して吸収した「他人のMeme」であり、それぞれの情報について「私個人の経験のみ」を記している訳ではない。これは偉大なMemeを発明した偉人についても該当しており、人は必ず何らかの形で「誰かのMemeを再利用」している

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「0から1」を生み出した人間は、古今東西どこにも存在しておらず、「既存の1」と「既存の1」の組み合わせて、「新たなMeme」を創造しているのだ。学問の歴史を紐解いてみても、すべての科学や医学は「ギリシャ哲学」が由来であり、エジプトのアレクサンドリア図書館を経由してイスラム社会に浸透した。

やがて哲学は「医学」「論理学」「数学」「化学」へと発展し、ルネサンス時代のヨーロッパでガリレオ、ダヴィンチ、ニュートンらによって「科学」に展開されることになる。森羅万象の事象に対して真理を追求する「哲学は、すべての学問の基礎」であり、「物事を深く考える」というMemeが近代文明の礎を築いたと言えるのだ。

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私たちが日常的に利用している「文字」「数学」「科学」は、「シュメール文明(エジプト文明)→文字の発明→ギリシャ哲学→イスラーム哲学→ヨーロッパルネサンス→産業革命→近代資本主義→世界大戦→グローバリズム→ネットワーク社会」というように、Memeが継承され続けたことで発展を遂げることに成功した。生み出されたMemeは、誤りを修正されながら、進化発展し、より洗練されたMemeとなり、社会の発展を支えることになる。

農耕社会においては「天体現象」は、作物の種植えや収穫時期を判断するために、極めて重要な存在であり、世界中のありとあらゆる地域で重要視された。星の位置や気象現象は、「食物」という人間の生活を根本から支える重要な存在と密接に関連しており、「天体現象を予知」するために、膨大なリソースが費やされた。

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天体や気象現象の観測は「占星術」というMemeを生み出し、ヨハネス・ケプラーなどの偉大な占星術師を生み出すことになる。やがて占星術は、「天文学」という自然科学に発展し、人類が地球を飛び出し、月面着陸を達成するまでに至る。

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現代においても、夜空を見上げれば無数に輝く星の中に「星座」を発見することができるが、これは古代もメソポタミア文明において「羊飼い(厳密にはカルディア人)」が「点と点」を結ぶことで「創造したMeme」であり、自然界には決して存在しない「概念」である。

星座というMemeは、やがてギリシャ神話と融合し、「牡牛座」「魚座」「山羊座」といった、我々日本人も利用する概念へと発展した。特に疑問を感じることなく見上げている「夜空の星」の中にも、「Memeを継承した壮大な人類史」が秘められているのだ。

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ほんの些細な発明(Meme)が、人類の歴史に絶大な影響を与えた事例としては「火の発明」が挙げれる。初期人類は、チンパンジーのように生で食べられる食材のみを摂取していた。

しかし雷などが原因で発生する「山火事」を目撃した「我々の祖先(一個体)」は、これまで生で摂取していた食材が「火」により、見た目や硬さが変化していることを発見する。恐る恐る食してみると、生とは違った風味を感じて美味であり、体調を崩すこともない。

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初期の段階では「火の確保」が最大の障壁であっただろうが、やがて「火起こしというMeme」を発明した個体は、極めて有利な生存戦略を確立することになった。

火があれば、人体に有害な「寄生虫」「病原菌」などを加熱殺菌することが可能であり、摂取できる食料のバリエーションが劇的に向上した。「火」は夜間の照明確保や獣除けにも役立ち、「どんぐり」など灰汁が出る食材を加熱することで、摂取可能なカロリー量を増大させることに成功する。

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日本における「縄文土器」は、「どんぐりを煮るため」に発明されたと考えられており、「食器」というMemeの発明が、「調理」「保存容器」という新たなMemeの誕生に繋がった。このように「たった一つのMeme」は、長い年月をかけて連鎖反応と変化を繰り返すことにより、人類の歴史を激変させる大きな可能性を秘めているのだ。

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[Memeが伝播する手段は様々]

情報通信技術が発展するまでは、Memeの保存方法としては「書籍」「羊皮紙」「パピルス」「石版」などがメインであったが、現代においては過去に例のないレベルで「Memeが伝播」している。

「テレビ」「ラジオ」においては、電磁波を通して全国の一般家庭に同時複数的に情報配信することが可能となり、対面では絶対に不可能な「速度」で「広範囲」にMemeを伝播させることができる。つい最近までは「新聞」「雑誌」についても、広告宣伝においては重要なメディアであり、宣伝したい「思想」「商品」をターゲットに効率よく売り込みことができた。

マスメディアの重要性は、ユダヤ民族を大量殺戮した「ナチスドイツ」や「大日本帝国」も注目しており、政治思想を膨大な人数の国民に発信するための「プロパガンダ手段」として積極的に活用した。

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脳科学や認知科学の世界では、たとえそれが「偽りの情報」であったとしても、脳で認識された情報は「強力なリアリティ(現実)」として認知され、実態とはかけ離れた情報を「真実」として受け取ってしまう。古代におていは権力者が「歴史書」や「石版」において、書き記すよう命じた「歴史の改竄」をリアルタイムで実行することが可能となったのだ。

「都合の悪いミーム」は排除され、「偽りのミーム」だけが発信され続ける。大部分の国民が情報が嘘であると知ったのは、戦後以降であり、戦勝国からの受けた「戦後教育」の中で真実を知ることになる。

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しかし、戦勝国が与えた「真実の情報(Meme)」についても、全てが正しいとは限らず、真実は量産され続ける「戦争解釈」というミームで上書きされ続ける。第二次世界大戦の終結からたった73年しか経過していないにも関わらず、「戦争に対する解釈」は大きく分断され、ありとあらゆる戦争史が修正されようとしている。

物理現象として実在した「真実」は、「人間の記憶」「戦争写真」「戦争論」という「変容あるいは改竄可能なミーム」によって、解釈が完全に変わってしまうのだ。

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[デジタル社会におけるMeme]

歴史文献や書物については、「焚書」や「改竄」により、情報を歪めることが可能であるが、「0と1の二進数で記録されたデジタル情報」については保存媒体が破損しない限りは、半永久的に不滅である。インターネットなどにおけるこのような「デジタル情報」は、物理的な姿形を持たない情報であるが、書物や石板などの人工物と同様の「Meme」であると言える。

しかし、0と1で記述された「デジタル情報」は永遠に劣化すること無いとはいえ、あまりに利便性が高いことから「ジャンク情報」「ノイズ」にまみれているといのが現実である。

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SNSやBlogにおいては、「真偽が曖昧な噂話」「誹謗中傷」「スパムメールや広告」「愚痴や情報価値の少ない独り言」などに溢れており、世界中の何十億人という人間たちが、膨大な情報を「デジタル化」して記録している。

近年ではビッグデータとして、個人のライフスタイルや嗜好データの統計解析が進んでいるが、99%以上の情報はネットの闇に姿を消し、二度と参照されることは無いだろう。新聞社のニュース記事についても、数ヶ月〜数年で検索エンジンから姿を消し、会員登録した人間にしか参照できない「ディープウェブ」にアーカイブされる。

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時代によって変容する「情報の価値」や「検索優位性」に適応できない情報は、存在はしているが参照されることなく葬り去られる。デジタル世界においても、「有益なMeme」は子孫を遺し、「劣悪なMeme」は歴史から姿を消す・・・。自然界と同様の現象がインターネットにおいても該当するのだ。「Memeの拡散速度」は、インターネットの普及により爆発的に加速したが、これと反比例するように「情報の価値」も低下し、種を存続させるための必要条件は厳しくなった。

また、「児童ポルノ」「フェイクニュース」「著作権に違反したファイル共有」「テロリズムや犯罪」に関連したサイトについては厳しく検閲され、NSAやサイバーポリスによる監視が行われている。

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元NSAの職員:エドワード・スノーデンはスマホやPCに搭載されたWebカメラやマイクによって、ネット接続された端末を常時監視することが可能である「プリズム」という監視システムの存在を暴露した。

これは陰謀論でも何でもなく、日本においても公安警察が容疑者のスマホの位置情報(GPS)を犯罪操作に利用していることが暴露されている。インターネットは、もはや自由な空間ではなく、ネット接続可能なデバイスは、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』に登場する「テレスクリーン」のような「相互監視を可能にした情報端末」であると言える。

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インターネットという概念を一つの生命体に例えるならば、SNSの1アカウント、BlogやWebsiteは、「一つの細胞(Cell)」にあたる。個々の細胞が集積して「インターネット(Web)」という巨大な生命体(電脳空間)を構築している。時を重ねるごとに新たな細胞が誕生し、役目を終えた細胞は「アポトーシス(細胞死)」により消滅し、新陳代謝を繰り返してWebという生命活動を維持している。

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リチャード・ドーキンスの「個体が作り上げたものもまた、その個体同様に遺伝子の表現系」という言葉を借りるのであれば、「インターネットは巨大な生物そのもの」であり、それを構築する私たちは「1つの細胞」に過ぎない。地球全体と一つの生命体に例える「ガイア理論」を、デジタル化した象徴がまさに「インターネット」である。

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[デジタル情報は永久不滅ではない]

「0と1で記述されたデジタル情報は劣化せず、永久不滅である」というのは実は大きな間違いである。SNSやBlogサービスにおいては、コンテンツの製作者が投稿したデータが運営会社のサーバーに保存され、定期的なメンテナンスが行われることにより、情報を保持することができる。

しかし、運営会社の倒産などの理由でサービスが終了すれば、いとも簡単にデジタル情報は消滅してしまう。デジタル情報を維持するためには「運営会社のエンジニアによるメンテナンス」「コンテンツを制作する配信者」「コンテンツを利用するユーザー」「サービスに対価を支払う広告主」の存在が不可欠であり、生物学者の福岡伸一が提唱する「動的平衡」という概念は、まさにデジタルデータにおいて該当するのだ。

(動的平衡とは、生命は栄養摂取→栄養循環→新陳代謝→排泄などの生命の循環、つまり"流れ"によって平衡を保っている・・・・という考え方である)

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また、デジタル情報を保存するためには「HDD/SSD」「USBメモリ/フラッシュメモリ」「DVD/Blurayディスク」などの、記録媒体を利用する必要があるが、各データ媒体の寿命は数年〜数十年に過ぎず、メディアを読み取るためのハードウェアの製造が終了すれば、記憶されたデジタル情報を読み出すことができない。

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また、デジタルデバイスの影響は地球から遠く離れた「太陽活動」の影響も受ける。太陽活動において大規模な「太陽フレア(爆発)」が発生した場合には、「太陽嵐(磁場とプラズマ粒子の放射)」が地球に降り注ぎ、世界中の「送発電施設」「コンピュータ(電子回路)」が破壊されてしまう

1859年には史上最大の太陽フレア「キャリントン・イベント」が発生し、世界各国でオーロラが目撃され、電信用の鉄塔が火花を発し、電報用紙は自然発火した。このレベルの太陽フレアが現代で発生した場合には、「電気/水道/ガス/通信」「公共交通機関」「マスメディア」「自動車」といったコンピュータで制御されている社会インフラは完全に機能しなくなる。

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これは、あまり知られていない情報であるが、2012年7月23日に前述した「キャリントン・イベント」を遥かに超える、太陽フレアが発生しており、ギリギリのタイミングで地球を掠めていた。このフレアがもし地球を直撃していれば、世界中のありとあらゆるコンピュータは徹底的に破壊され、「現代文明を18世紀に後退させる」ほどの規模であったことをNASAが発表している。

これが現実となっていれば、現代文明は暗黒時代に逆戻りし、社会システムは完全に崩壊していたはずだ。NASAは直撃していた場合の経済的損失を「2兆ドル」と算出しており、2005年にアメリカを襲ったハリケーン「カトリーナ」の20倍の被害額にも及んでいたという。

産経ニュース:人類、危機一髪「太陽風」あわや200兆円損害 2年前に発生し1週間の差で直撃回避
https://www.sankei.com/life/news/140728/lif1407280021-n1.html

現代においては、ありとあらゆる情報(Meme)が「デジタル化」され、保存されている。しかし、前述した「太陽フレア」や高度成層圏での核爆発が発生した場合には、強力な「EMP(電磁パルス)」が発生し、コンピュータはいとも簡単に破壊されてしまう。

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高度な機密情報を保管する施設や社会インフラの重要設備においては、シールドを搭載してEMPの被害を予防しているが、一般家庭においては電子機器や配線にアルミホイルを巻きつける以外に予防策は存在しない。デジタル情報とは、「自然災害」や「テロリズム」によって簡単に消滅してしまう非常に「脆いMeme」であり、その意味では「書物(寿命:数百年)」や「石板(寿命:数千年)」に記録された「Meme」の方が、圧倒的に頑丈なのである。

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[Memeを共有するコミュニティ]

さまざまな媒体や手段で「記録」「伝承」されるミームであるが、これを維持/拡散するためには「Memeを共有するコミュニティ」の存在が不可欠である。宗教や国家を例に挙げると分かりやすいが、アフリカで誕生したホモ・サピエンスは、究極的には「みな兄弟」であり、遺伝学的には「人種の違い」は、大した差をもたない

しかし、人間は「文化」「国籍」「価値観」というMemeを共有する者たちで、同盟を結び、「アイデンティティ(自己同一性)」を確認し合う。「日本人」という概念は自然界には存在しておらず、歴史的偶然の中で生まれた「Meme」であると言える。江戸時代においては「日本国」は、諸藩に分割された国家の集合体であり、「居住地」が日本人におけるアイデンティティの象徴であった。

これは「宗教」においても言えることであり、人種も国籍もバラバラである「個人」が、「宗教というMeme」を共有することで、互いに結束している。宗教というミームが存在しなければ、個々人のアイデンティティを象徴する「特徴」が無くなり、人生において何よりも重視している「行動指針」が撤廃されてしまう。

人間は「Memeという名の幻想」を保持することにより、「私はどういった人間である」という自己統一性を確認しているのである。共通するMemeを共有する仲間たちは、子孫や知人にMemeの存在を伝達し、継承に成功した場合には、時代や地域を超えて「Memeの維持」に成功する。

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身近な例で例えるならば、「音楽(V系、ビートルズ、オーケストラ)」などを愛好する「バンギャ」や「音楽愛好家」。「学校」というコミュニティで「校則/校風/学歴」を共通する学生達。「ゲームやアニメ」の趣味を共有する「アニメオタク」「ゲームマニア」。「カリスマYoutuber」を崇拝してチャンネル登録を行い、新作動画を必ずチェックする「Youtuberファン」。

彼らは「Memeの創造者」を神のように尊敬し、崇拝している。彼らは宗教の信者の如く、「教典であるMeme」を消費し、「教典の素晴らしさ」を広めるために「布教活動」に専念する。彼らはMemeを伝播させるのに必要不可欠な存在であり、彼らがいることによってはじめて「Memeを維持」することができるのだ。

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しかし「世界でもっとも絶大な影響力を持つMeme」としては、「紙幣(通貨)」の存在が挙げられる。紙幣は「ただの紙切れ」に過ぎず、「紙切れを他人に渡せば対価を受け取れる」という「幻想(Meme)」を国民全てが信用していなければ成立しないシステムである。

金本位制度が崩壊した現代では、紙幣の価値を保証するものは「政府が定めた法律(強制通用力)」のみである。全国民が「紙幣には何の価値もない」と認識した途端に、経済システムは混乱し、物品の売買や取引が完全にストップしてしまう。

「通貨(紙幣)というシステム」は、「人間心理の最も奥深く」に植えつけられた「Meme(幻想)」であり、この幻想を撤廃することは不可能に近い。戦争や経済危機によりインフレや、政情不安があれば、紙幣に対する評価は失墜するが、「新紙幣」が誕生すれば、いとも簡単に人間は従ってしまうのだ。

※強制通用力とは、貨幣に記載された額面の価値で、最終決済を行うことを政府が保証した効力のことである。受け取る相手は、強制通用力を認められた貨幣を拒否することはできないと政府(法律)が保証している。一言で言うならば「1万円札には1万円札の価値があり、受取人は1万円分の対価を受け取ったと認めなさい」と国が強制する法律である。

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[Memeの正体はミラーニューロン?]

ここまで解説してみた「Memeという概念」は、実は生物学や脳科学の世界では解明されておらず、あくまでリチャードドーキンスが唱えた「新たな学説」「遺伝子を補完する概念」に過ぎなかった。

しかし、1996年イタリアの「神経科学者:ジャコモ・リッツォラッティ」によって発見された「ミラーニューロン」が、ミームの存在を物理的に証明するきっかけとして注目されている。

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「ミラーニューロン」とは、猿の脳みそに電極を設置し、「実験者(人間)が餌を拾い上げる動作を猿が観察してる際」に、「猿自身が餌を拾い上げたときと同じ脳部位が反応した」ことがきっかけで発見された。ミラーニューロンは脳における「下前頭皮質」と「下頭頂皮質」に存在することが判明され、人間においても同様にミラーニューロンが存在することが確認されている。

これを一言で解説するのであれば、人間を初めとする動物は、「自分が実際に同じ動作を行っていなくとも、相手の動作を観察するだけで、同じ脳の部位が活性化する」という科学的発見である。

これは人間における行動学習や共感能力、新生児における学習能力の発達に関わる重大なニューロン(脳神経細胞)であると推測されており、「ミームの物理的な存在を証明する神経細胞」である可能性があるのだ。「相手の言葉や行動を脳内で再現し、自分の行動として処理する」というミラーニューロンの存在は、記憶や学習における重要な存在である可能性が高く、神経科学者の間で研究が進められている。

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ミラーニューロンを活性化するための「観察」は、「生身の物理現象」である必要はなく、「テレビや映画」などの映像を通してもミラーニューロンを活性化することが可能である。

任侠映画や007を見たサラリーマンが、「自分も強くなった気がする」と感じたり、梅干しの写真を見ただけで「唾液が出てしまう」、アダルトビデオを見ただけで「性的興奮を感じる」、という現象もミラーニューロンの存在があれば説明がつく。

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テレビゲームや映画を通して吸収した「映像体験(Meme)」、教育機関や書籍から見聞きした「知識(Meme)」、著名人の講演会や対人関係で習得した「経験(Meme)」、などはミラーニューロンを経由して脳内に蓄積されている可能性がある。

人間の記憶とは、脳内にある「ニューロン(神経細胞)の結合(シナプス)」により保存されており、人間が「過去の情報/記憶」を再現できる理由としては、「神経細胞のネットワーク」が脳内で形成されているためである。

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どのように神経回路を結合すれば記憶が保存されるのか?神経回路の連結を変更すれば記憶を操作することも可能であるのか?という疑問は脳科学者の興味を掻き立てる内容であるが、新興宗教や政治プロパガンダにおていは「メディアによる洗脳」という手段でこれを実現している。

具体的なメカニズムは脳科学では解明されていないが、現実として「人間の倫理観」「人間の行動原理」を改造している組織が存在しているというのは間違いない。

「優れたMeme」は、「個人の価値観/行動原理」を根底から覆す力を秘めており、この力を「ポジティブ」な方面に利用すれば、社会的成功や経済的な成功を実現できるかもしれない。なんども繰り返すが、「模倣子(Meme)」とは、「遺伝子(Gene)」よりも圧倒的に絶大な力を秘めた存在なのである。

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【文字の発明とMemeの総括】

ミームという概念は、高度な知的能力を持つ「人間に固有の概念」であり、単純な言語やボディランゲージしか用いることができない動物の世界においては存在しない概念である。自然界においては「無意識の物理現象」が広がっているだけであり、人間は自然に対して「Memeというラベル」を貼り続けてきた。

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「名称」「名詞」という識別コードがあるために、私たちは無意識の自然物を識別して認識することができる。「雑草」という名前の草がないように、「日本人(国籍)」という概念も、我々人間が作り出した概念である。

物質を最小レベルまで分解してしまえば、分子や電子、素粒子の塊となるが、その集合物を「机」「花」「動物」というように識別している。本質的には、目に見えるすべての物質は、原子の集合体に過ぎず、どこまで「素粒子」で、どこまでが「電子」で、どこまでが「分子」なのかを明確に識別することは不可能に近い。

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そのため、人間に「都合の良い判断基準」で世界を解釈しているが、「人間というカメラ(フィルター)」を通して判断している世界が、「無意識の物理現象」を正確に表しているという保証はどこにも存在しない。

「一は全、全は一」という言葉があるが、「1つの個体や存在」が「宇宙や世界という全体」を構成しており、1つ1つの存在が相互に関係し合うことで、「世界という全体」が構成されている。

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「観察者」と「観察対象」がいることで、初めて「物を見る」「測定する」という行為を行うことが可能であり、物象を完全に1つに細分化することは不可能である。これを実現するための道具が「ミーム」であるとも考えられ、人間は「Memeという概念」を獲得することで、「世界を細分化すること」にある程度成功した。

冒頭で述べた通り、この概念は生物学者のリチャード・ドーキンスが提唱した概念であるが、この「Memeという概念もMemeそのもの」であると言える。しかし、「Memeの最小単位」「Memeの最大単位」はいまだに解明されておらず、「科学」や「哲学」という「Meme」を通して、永久に探求を行う必要があるのだ。

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この世の全てを解明する前に、地球や人類が滅びるかもしれない、「森羅万象を解明するのが先か、人間が滅びるのが先か」。この疑問さえも「探求」によってしか、解明することができない「無限回廊」と言える。「真理に辿り着きたくても、中途半端な状態しか把握することができない状態」というのは、地獄に閉じ込められ、永遠の苦しみを味わっているとも考えられる。

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だが我々は、「この世界で生活し、人生を全うする必要がある」以上は、「Memeという概念を修得/理解/継承する必要がある」のだ。

成功は遺伝子では100%決定しておらず、「優秀なMemeを創造すること」に成功すれば、ある意味での「永遠の命」を獲得することができる。

遺伝的に子孫を残すできない場合においても、「Memeを通じて子孫を残すこと」で、「自分が作り上げた創造物」を複数の人間に後世まで継承することができる。

「あなた」という肉体が滅びても、Memeが継承され続ける限り、「あなたという概念」は世界に存在して、生き続けることができる。

あなたは、「自分が生きた証/存在した証であるMeme」を、「どのように創造し」「だれに」「どのような手段で」「どのように」継承する?

よく考え見てほしい.....。

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