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企業に染み付いた組織文化を変えるには?「カルチャー」変革のための3つのレバレッジ・ポイント

前回の記事では、先行研究をもとにカルチャーの定義を紐解き、カルチャーが組織において果たす役割とその重要性について確認しました。

その後編となる本記事では、どのようにしてカルチャーがつくられるのか、どうすればカルチャーを変革できるのか、というテーマについて解説していきたいと思います。

とはいえ、あらかじめ断っておくと、組織に染み付いたカルチャーを変えるのは、簡単なことではありません。

そこで本記事では、具体的に注力すべきカルチャー変革の3つのレバレッジ・ポイントについてご紹介します。


カルチャーは成功体験からつくられる

組織に共有された指針・暗黙の価値規範としてのカルチャーとは、いったいどのようにして形づくられるのでしょうか。

あなたの職場に独特の文化や、あなたの個人的な習慣は、どのようなきっかけで生まれ、根付いたのか。ちょっと思い返して見てください。

カルチャーは突然生まれるものではなく、成功体験の蓄積によって形成されるものです。

たとえば、いつも一夜漬けでテスト勉強をする人は、誰かにそうしなさいと言われたのではなく、一夜漬けで勉強してうまくいったという過去の成功体験を繰り返すことで、「テスト勉強は一夜漬けでやるべきだ」という規範が身についてしまっています。

黄色信号で道路を渡って事故に遭ったことのある人は、「信号が黄色のときは渡らない」という規範を身につけますし、逆に黄色信号で道路を渡ったことで遅刻しなくて済んだという成功体験を積んだ人は、「黄色信号ならどんどん渡るべき」という規範を身につけるかもしれません。

組織も同じように、「こういうやり方をしたらうまくいった」「こうしたら揉め事が解消できた」といった成功体験を積み重ねることで、暗黙の価値規範をつくっていきます。

たとえば、新人の提案を採用したことで、商品の大ヒットにつながったという企業では、若い人の意見に積極的に耳を傾け、取り入れていく文化が醸成されていきます。

逆に、「ちょっと数字を誤魔化したけど、バレずに済んだ」という成功体験を積んでしまうと、粉飾決算が常態化し、不正会計事件のような深刻な事態にまで発展してしまうのです。

そして、これまで一夜漬けのテスト勉強で何とかなってきてしまった人に、「毎日コツコツ勉強した方がいいよ」と言ったところで響かないように、成功体験の積み重ねによって形成された暗黙の価値規範を変えるのは、非常に難しいことです。

かといって、あまりに強引にカルチャーを変えようとすると、従業員が変化についていけず、逆に組織としての求心力を失ってしまいます。

しかしながら、方法がないわけではありません。先行研究においても、トップダウンとボトムアップからの双方から、組織文化の変革は可能であると言われています。

そこで以下では、具体的にカルチャー変革を行うための3つのレバレッジ・ポイントについてご紹介していきます。

カルチャー変革のレバレッジ・ポイント①:理念を変更し、浸透をはかる

1つ目のレバレッジ・ポイントは、「理念を変更し、浸透をはかる」という方法です。

これは、経営陣が自ら明確な意思を持って組織文化を変えていこうというトップダウン・アプローチの王道的なやり方です。ビジョン・ミッション・バリューなど、経営理念や価値観として掲げられているものを変更し、その理念浸透をはかるという流れです。

前回記事でご紹介した組織心理学者のエドガー・シャインも、「標榜されている価値観」を変更することが、最も現実的な組織文化変革の方法であると述べています。

しかしながら、組織に染み付いた価値規範を変えることには、誰しも違和感や抵抗感を覚えるものです。トップがつくった新たな理念を一方的に通達するだけでは、浸透していかない場合がほとんどです。

そこで、つくった理念を浸透させていくために重要なのが、ミドルマネージャーをプロジェクトの中心・起点にすることです。

MIMIGURIでは以前、資生堂の社員46,000人に行動指針「TRUST8」を浸透させるというミッションのもとでワークショップを開発させていただきましたが、このときもすべての部署のミドルマネージャーをプロジェクトに巻き込み、起点となることで成功が導かれました。

公式プロジェクトとしてミドルマネージャーを巻き込み、理念浸透にきちんとコストをかけることで、はじめてカルチャー変革が可能になるのです。

カルチャー変革のレバレッジ・ポイント②:ルールをデザインする

企業の理念を変えるには、それなりに大掛かりな取り組みが必要になりますが、もう少し部分的なアプローチによる変革の方法もあります。

それが2つ目のレバレッジ・ポイント、「ルールをデザインする」という方法です。

ルールとは、従業員の行動や思考を方向づける規範であり、同じく組織に共有された規範である組織文化とは親戚関係にあります。たとえば、「副業OK」というルールがあることによって、本業以外にも多様な活動を行うことを推奨する文化が醸成されることがあるように、ルールは文化に影響します。

一方で、「育休産休」という制度があるにも関わらず、男性は育休産休を申請してはならないという暗黙のルールがあったり、事前に上司に相談をして自分の仕事の引き継ぎを行ってから取らないと周囲の人にブチギレられる、というケースもあったりすると思います。

そうした場合には「育休は男性も遠慮なく取得してください」「育休を申請する場合には、2ヶ月前に相談してください」とはっきり明文化することによって、暗黙のルールやカルチャーに揺さぶりをかけ、悪しき風習を断ち切ることが可能になります。カルチャーに直接触れるのは難しいからこそ、ルール側からハックしていくというイメージです。

また、組織文化にも明文化されたものから暗黙的なものまでさまざまなレベルがあったように、ルールにも公式ルールから非公式なルール、厳しいルール、緩いルールなど、さまざまな種類があります。

トップダウンでルールに変更を加えていく際には、「なくせるルールはないか?」という観点で考えることも有効です。

ルールには、人の行動を促進する攻めのルールと、人の行動を抑制する守りのルールがありますが、会社が大きくなっていくと、リスクを回避するために、自然と人の行動を抑制する守りのルールが増えていくからです。

あるいは、「こういう場合は許可をとらなくてもいいよ」「こういうことはやってもいいよ」と、組織の可能性を広げるような攻めのルールをつくったり、思考や試行錯誤を誘発するようなルールをつくったりすることで、組織の硬直化を緩和し、新たな文化をつくっていくことが可能になります。

ボトムアップでルールを変えていく際には、ローカル(非公式)ルールをグランド(公式)ルール化していく、という方向性になります。優れたローカルルールを生み出し、それを広げて組織のグランドルールとして定着させることで、ボトムアップでカルチャーをつくっていくことが可能になるのです。

ルールのデザインに関しては、別の記事でも詳しく書いたことがあるので、さらに知りたいという方はご参照ください。

カルチャー変革のレバレッジ・ポイント③:「勉強会」による変革

ボトムアップでカルチャー変革を行う場合、先行研究においては、現場のミドルマネージャーが主体となって行うのがセオリーであるとされています。

しかしながら、変革の主体が必ずしもミドルマネージャーであるとは限りませんし、そもそもガチガチのトップダウンカルチャーのある組織では、ボトムアップで何か新しいことを行うのは難しいものです。

そこでおすすめしたいのが3つ目のレバレッジ・ポイント、「勉強会」を通じたカルチャー変革のアプローチです。

現場でどれだけ新たなチャレンジへの機運が生まれていたとしても、そうしたチャレンジを奨励する制度や文化がなければ、業務として取り組むのは難しい。

そこでまずは、何らかのテーマや課題意識のもとで、部署の垣根を超えた非公式な勉強会を開催するのです。

たとえば、何かしらの新規事業をやりたいのであれば、「新規事業を成功させるにはどうしたらいいか」というテーマを設定し、興味がある人を集めて勉強会を開きます。

最初は3人でも5人でも構いません。複数回勉強会を開催する中で、徐々に巻き込む人を増やし、規模を大きくしていきます。

そして、ある程度規模が大きくなってきたり、メンバーにミドルマネージャーなどのキーパーソンが加わってきたタイミングで、「現在こうした取り組みをやっているんですが、社内イントラで告知してもよいでしょうか」「就業時間外だと参加できる人が限られているので、就業時間内でやってもいいでしょうか」「こういうゲストを呼びたいんですが、予算を取れませんか」と、マネージャーや人事に相談し、当初は非公式で始まった勉強会を、徐々に公式化させていくのです。

ある程度取り組みが膨らんでくると、何かの拍子で経営層やトップマネージャーの目に入ることがあります。そこで「実はこういうことやってほしかったんだよね」と公式のサポートが得られると、一気に潮目が変わります。

勉強会による変革において、「経営の視界に入る」という点はきわめて重要です。

「いいね」と賞賛してもらえることによって正当性を得られたり、場合によっては直接的なサポートを受けられたりすることで、草の根の取り組みが公式の取り組みに昇華していくからです。

こうした勉強会にゲストとして呼んでいただく機会も多いのですが、実際に最初は数人から始まった勉強会のコミュニティが、1000人規模になり、最終的には社内のインキュベーションコミュニティとして公式に採用されるという事例がありました。
勉強会であれば、マネージャーに限らず誰でも始めることができますし、いまはトップダウンカルチャーの強い組織であっても、ボトムアップで着実に変化を起こすことができるので、非常におすすめです。

ただ、勉強会が単なる勉強の場で終わってしまっては、あまり意味がありません。

そこで、勉強会をカルチャー変革につなげるために重要になってくるのが、やはり「周囲の巻き込み」です。放っておくと参加するメンバーが固定化してしまうため、コミュニティをつくっていくようなイメージで、常に新しい風を吹き込み続けることが重要です。

また、組織に変革を起こしていくんだという目的意識を持つことが、賛同する仲間を増やし、社内に影響を与えていくことにつながります。



ここまで、カルチャー変革の3つのレバレッジ・ポイントについてご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。特に「勉強会」は、現在の企業文化や職位に関わらず誰でも実践できるという点で、非常におすすめの方法です。

また、勉強会というアプローチは、組織のメンバーの「学び」にアプローチできる点も魅力的です。組織のカルチャーを変革する上で、組織の中に「学び」を起こすことや、そもそも「学びとはどういうものか」の価値観そのものをアップデートしていくことは、とても有効です。旧来的な研修やOJT以外にも、刺激的な学びの在り方があるのだと示す意味でも、勉強会アプローチは、カルチャー変革に二重に寄与するのです。

ぜひ、カルチャー変革の第一歩として、取り入れてみていただけましたら幸いです。


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