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安楽死研究

 5月某日。とある研究所に、安楽死を求める5人が集まった。

 会長職の老年男性。バスケ部の女子高生。新卒二年目の男性。セクシャルマイノリティである事を隠している売れっ子アイドル。17歳と15歳の子を持つ主婦。

 全員が研究所の前に集まると、映画に出てくるようなやたらと真っ白な屋に通された。


 5分ほど経っただろうか。
 部屋よりも白い白衣を着た男性が、冷たい足音を奏でながら入室してきた。科学者らしき男性の落ち着いた目と折り重なる皺は名俳優のそれだ。

「 初めまして。渡と申します。今からあなた方には安楽死を迎えるに当たって、誓約書を書いて頂きます。 」

 その淀みない文言に、参加者たちは自身の目的を思い出したのか瞳の彩を強くした。


 誓約書

□ 1.本研究での一切の出来事は被験者本人が全責任を負うものとする
□ 2.安楽死の際に、他者と交流を図ってはならない
□ 3.安楽死の方法は、研究者の提示している方法に準拠する。(カプセルに入り、高濃度の睡眠ガスを注入していく)
□ 4.他言しない
               ・
               ・


 参加者たちは配られた誓約書に対し、瞳の光を薄めながら機械的に項目にチェックを入れていく。

「 全て了承して頂けましたら、安楽死を始めさせて頂きます。もしも了承できない場合は、後ろのドアから――――――― 」

 渡が案内を始めた。参加者たちは、雑音とでも言わんばかりに無視をして誓約書にチェックを入れ続けた。


 しかし、残りの項目が一つになると、女子高生の手がピタッと止まった。続いて、管理職の男性、売れっ子アイドルと5人ともがペンを止めてしまった。

 すると渡がまた同じ文言を唱える。
「 ご了承できない場合は、後ろのドアからご退出ください。 」

 目の前にある冷酷な誓約書は、参加者全員に踵を返させた。


「 いやぁ。やはり、この文言を入れるとみなさん安楽死を断念していきますねぇ。」

 やり過ぎなほど真っ白な部屋で、5枚の誓約書を囲み、学者たちが議論をしている。

「 人間の心理の根幹は、やっぱり感情ですね 」
 心理学者・渡が結論を出した。


□ 10.安楽死した方の身体は、全て家畜の餌にさせて頂きます。


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