ちぇすた

チェスター・バーナードと機械学習プロジェクト

この記事は、LeapMind Advent Calendar 2019の24日目の記事です。

@yuki_mimuです。LeapMindという会社でSales TeamのManagerをやっています。顧客と様々な機械学習プロジェクトをやる中で、「プロジェクトチームの創りってかなり大事じゃね」ということを最近つくづく感じるので、チーム創りにおいて大事だと思っている考え方をご紹介できればと思います。

なぜチーム創りが大事か

これは機械学習プロジェクトに限らず、どんなことをやるにしても重要だと思います。

最近のTweetでチーム創りについて分かりやすいなと思ったのがこちらの動画

ここでリンクアンドモチベーションの麻野さんが言っていることで私が凄く共感した部分が下記です。

今まではチームは与えられるものだった
与えられるものから自分でつくるものに変わっていってるんですよ

上のような本でも紹介されているGoogleやAppleの働き方を見ても「まず良いチーム創りができている」ことが分かり、それを管理職に任命された人が受動的にやるのではなく、リーダーシップを発揮して能動的に行うことが物事を進める上で重要なのだと考えました。

では、チーム創りができていないとどうなるのでしょうか。機械学習プロジェクトで考えてみましょう。

- 各担当が考えてる目的がバラバラでPoCで終わる
- メリットの異なる関係での摩擦(スーツ vs ギーク)が起きる
- ステークホルダー(上長など)の理解を得られずプロジェクトが進まない

などが考えられるかと思います。

きちんとしたチーム創りが行われていないと、せっかく実証実験を行なっていても先に進まなかったり、プロジェクトの途中で摩擦が起きて炎上してしまったり、など色んな障害が起こるかもしれません。

そこで今回は、経営学者 "チェスター・バーナード" が提唱した「組織の成立の3要素」からチーム創りに必要な具体的観点を提示できればと考えています。

そもそもチームとは...

そもそもチームってなんでしょうか?

満員電車にぎゅうぎゅうになっている人たちはチームでしょうか?違うでしょう。

画像1

たとえば、そんな満員電車で「う・・・産まれそう」と優先座席に座っている妊婦の方がなっていたらどうなるでしょう。

画像2

多分周辺の人たちは
「大丈夫ですか?」
「病院に連絡しますね!」
「この姿勢になると楽ですよ」
みたいな感じになるでしょう。

この時、周辺の人たちはチームになっているのではないでしょうか? 妊婦さんを助けるという目的に向かって、全員が行動しています。その他にも単に満員電車に揺られている状況では起こり得ないこともあると思います。

チームとは何で成り立っているのでしょうか?

"チェスター・バーナード" とは

タイトルにも出したチェスター・バーナードという人物についてです。

チェスター・アーヴィング・バーナードはハーバード大学を卒業後、アメリカ最大手の電話会社AT&Tで働き始め、1927年にAT&Tの事業子会社である「ニュージャージ・ベル」の社長になった人物です。

事業者だけでなく科学的管理法を提唱したフレデリック・テイラーと並ぶ経営学者という一面もあります。

そんな彼の著書に『経営者の役割』という本があります。

正直この本はそもそも抽象度高く書かれていて、かつ翻訳されていることもあり、かなり読むの疲れます。英語が大丈夫な方は原文の方が良いかもしれません。

これはチェスター・バーナードが、自身の経営経験を主軸に組織論について述べた本です。この本では、組織は「意識的に調整された個人的な活動や力のシステム」として定義されており(※原文は下記)、組織はどのように運営されるべきかについて書かれています。

An organization is defined as a system of consciously coordinated personal activities or forces.

そしてこの本の中に組織が成立するための3要素というのがあります。これは非常に有名なので、『経営者の役割』を読んだことない人でも知っているかもしれません。こんな記事もいっぱいあったりするので。

その3要素からチーム(組織)を紐解いてみましょう。

組織の成立の3要素

バーナードは下記のように述べています。

An organization comes into being when (1) there are persons able to communicate with each other (2) who are willing to contribute action (3) to accomplish a common purpose. The elements of an organization are therefore (1) communication; (2) willingness to serve; and (3) common purpose. These elements are necessary and sufficient conditions initially, and they are found in all such organizations.

組織は、
- 人々がコミュニケーションをでき
- 能動的に貢献しようとしていて
- 共通の目的を成し遂げる
時にできる。

つまり組織の要素は、
- コミュニケーション
- 貢献意欲
- 共通の目的

である。

ということですかね。"組織成立の3要素" とかでググると色んな図が出てくるので見てみてください。図になったから何か新しいことを言ってるというわけではないと思うので、こちらでは割愛します。

さっきの電車の例に当てはめてみると下記のようになります。
- 妊婦さんを助けるという共通の目的
- 妊婦さんや他の人への声かけというコミュニケーション
- 駅員さんに知らせる人や妊婦さんを直接サポートするなどそれぞれの貢献

プロジェクトが上手くいかない時は、この3つのうちどこかが疎かになりチーム力が弱まっていることがあるのではないかと考えました。

今回は機械学習プロジェクトの場合を考察していきます。なんとなく話しやすいので、1.共通の目的 2.貢献意欲 3.コミュニケーションの順番で書きます。

1. 共通の目的がズレる

機械学習に関わらずどんなプロジェクトも「解決したい課題」があります。しかし、この課題概要が丸っきりプロジェクトチーム内でズレることはまずないでしょう。つまり「ざっくりとした課題感」みたいなものはそう簡単にはズレないということです。予兆検知したいとか、異常箇所を検出したいとか、顧客動線を把握したいとか。では何がズレるのか。

私は、「機械学習のアウトプットに対する期待値がズレてしまってチーム力が弱くなってしまう」ことがあると考えています。機械学習プロジェクトにおいては色んな手法を試すことが多くあるかと思います。DNNによる物体検出(Object Detection)を行うにしても、2stageの大きなモデルを適用して小さな対象物まで検出するのか、1stageのモデルを使ってスピードに振るのか、などいくつか方針があるかと思います。そんな中、高い精度(mAP)が出たから2stageのモデルを使いたい機械学習エンジニアと検出スピードやデバイスの消費電力が気になるデモハードウェア製作者の折り合いがつかなかったり、PMも説得に時間がかかってしまったりすることがあるかと思います。

挙げたようなケースは、1社内で完結するプロジェクトであれば、起こる確率はかなり低いかもしれません。複数社にまたがって行われるプロジェクトではしばしば目撃されるのではないでしょうか。文字に起こしてしまうと「いや、そんなん企画担当とPMがきちんと擦り合わせておけや」と思うような事柄なんですが、結構あったりします。

別のケースとしては、目的達成を測る指標がズレたり課題解決に沿っていない指標で計測しているケースもあります。一般的に機械学習で用いられる指標(Recall, Precision, F値など)では現場で運用に乗るかどうかの判断ができずに、「うーん、良いのか分からん」となっていることもあったり。

経産省が出している『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』にもウォーターフォール型の開発ではなく試行錯誤型の開発を推奨することが記載されており、実際に試行錯誤型で進めるプロジェクトも多いためそれなりに共通の目的がズレる可能性が高いと考えています。

私としては、目的はチーム創りにおいて一番大事だと思っているので、「探索型で進めていくにしろ節目を能動的に作りながら振り返りをする」ことが重要だと思っています。

2. 貢献意欲が消滅する

文字面からして論外な気がしますね。メンバーがプロジェクトに貢献する気がないのですから。

さて、『経営者の役割』ではこんなことが述べられています。

We shall say that an action is effective if it accomplishes its specific objective aim. We shall also say it is efficient if it satisfies the motives of that aim, wether it is effective or not, and the process does not create offsetting dissatisfactions.

「特定の目的を達成するのであれば行動は有効的である。たとえ有効的でなかろうと、行動が目的の動機を満たして過程が不満の相殺を生み出さなければ、行動は能率的である。」とでも訳しておきましょう。

さらにこんなことも述べられています。

The efficiency of a cooperative system is the resultant of the efficiencies of the individuals furnishing the constituent efforts, that is, as viewed by them.

「協働システムの能率は、システムを構成する努力の提供元である個人の能率の合計であり、つまりはその個人から見られるものである。」とでも訳しておきましょう。

私はこの部分を「個人の能率を高めることでチームという協働システム全体の能率を高められる」という風に解釈しました。

プロジェクトを遂行するには色んな役割の人が必要ですよね。そして、最初に貼ったTweetの動画に「各個人が強い役割を担うことができるからチームを創ると強い」という主旨の発言があったことを考えると、個人(メンバー)の強みが活きるような役割アサインが貢献意欲を消滅させないためには大事なのではないかと思ったのです。

「いや、そんなの当たり前じゃん」と書いてて自分自身も思いました。

しかし、「エンジニアがデータ意味付けをツールでひたすらやっている」とか「現場の運用者がPythonを一から勉強し始めている」とか、そのような現実も小耳に挟まりまくっています。

かなり昔は「自分でマンモスを狩って肉加工から調理までして食べてゴミの処理までやらないとダメだった」というところから「レストランで出てきた肉を食うだけ」という風に変わっていることから、文明の進歩は分業することによって発展していったということを考えると、機械学習はまだ分業が進んでいない領域の1つかと思います。(一方、全部自分でやるスーパーマンは多いイメージ)

その中でプロジェクトチームの貢献意欲を消滅させないためにも、「企画/データ作成/モデル調査/開発/検証/システム結合/運用...」といった多くの役割のJob Descriptionを定義して、得意な人にアサインすることが大事なのではないかと思います。

3. コミュニケーションが不足する

そりゃ誰でも「コミュニケーションがないとチームじゃないよ」って思いますよね。プロジェクトチーム云々よりも、ベンチャー企業が拡大していく中でコミュニケーションを取りやすい組織にするために必要なこと、などは色んなHRカンファレンスで語られていると思うので、記事を探してみてください。

さて、コミュニケーションとは少し離れる気がしますが、『経営者の役割』では権威についてこんなことが述べられています。

Authority is the character of a communication (order) in a formal organization by virtue of which it is accepted by a contributor to or "member" of the organization as governing the action he contributes; that is, as governing or determining what he does or is not to do so far as the organization is concerned.

「権威とは、フォーマルな組織でのコミュニケーション(命令)の性質であり、それにより組織への貢献者または組織の"メンバー"が貢献する行動を管理するものとして受け入れられる。つまり組織が関わる限りのことで貢献者やメンバーのやることややらないことを管理したり決めるものである。」という感じでしょうか。

ここで私が言いたいこととしては、コミュニケーションを行った結果為される事象の1つとして、何かしらの意思決定がされ命令(なんか古い言い方ですが)として言い渡されるということがあり、そういった側面から「フォーマルな組織でのコミュニケーションはしづらいことも個人(メンバー)から見るとある」ということです。

これに関連するワードで最近よく耳にするのは「心理的安全性」じゃないでしょうか。非常に勉強になる "Google re:Work" にも記載があります。

機械学習プロジェクトにおいてもやはりコミュニケーションは大事です。Google re:Workの言葉を借りると「効果的なチーム」を創ることは大事です。

機械学習を実用させようと思うと、企画面でも技術面でも法務面など色んな側面で外してはいけないポイントはたくさんあります。しかし、それを1人でカバーするのは大変ですので、前述のようなポイントをコミュニケーションを取りながら相互認識しておく必要があります。

具体的に書くと下記のような感じでしょうか。
- こんなUse Experienceがないと絶対に使われないよ
- こんなdataの量じゃ良い結果は得られないよ
- こんな契約の内容じゃ知財を守れないよ

昨今は「AI技術」というような言葉で語られることが多いため、探索型でプロジェクトを進めると技術面以外のテーマについてコミュニケーションが取られていないこともあるかと感じています。そして、それには心理的安全性をはじめとした信頼し合える関係下でのコミュニケーションが大事なのではないかと思います。

個人的には、企画やビジネスの人が簡単なプログラムを動かしてみたり、エンジニアの人がユーザーのリアルな声を聞くような機会を作ってみたりすることで、プロジェクトチームメンバー内の良質なコミュニケーションも増えていくのではないかと思っています。

最後に

現在の業務内容から機械学習プロジェクトを取り上げて今回は書きましたが、別にこれはどんなプロジェクトでも、会社でも、スポーツチームでも、バンドでも一緒だと思っています。

なので、ここまで読んでいただいた方の「意識的にチーム創りについて考えて行動してみる回数」が増えると嬉しいです。

改めてですが、バーナードが提唱した組織の要素は、
- コミュニケーション
- 貢献意欲
- 共通の目的

です。

今自分のいるプロジェクトチームや組織/会社が単なる満員電車に揺られている集団になっていないか。目的を捉えて、コミュニケーションを取り、能率を高めながら成果に向かえているか。

そんなことを考えるきっかけになると嬉しいです。

・・・・

LeapMind Advent Calendar

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