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発達障害を考えるときのキホン3〜自閉スペクトラム症(ASD)〜 

この記事では、発達障害かもしれないと考えて受診される方やそのご家族、さらに発達障害を持つ方を支援する方、あるいはご本人が、発達障害を理解するための基本になる考え方をわかりやすく説明します。先に以下のリンクの記事をお読みください。

・発達障害を考えるときのキホン1 〜知的障害(知的発達症)〜
・発達障害を考えるときのキホン2 〜ADHD(注意欠如・多動症)〜


 キホン1では知的発達症について、キホン2ではADHDについて書きましたが、この記事では自閉スペクトラム症(ASD)を中心に、コミュニケーションについて説明したいと思います。

 コミュニケーションが苦手であることも、受診を考えるきっかけになることが多い特性です。友達とうまくコミュニケーションを取るためには、色々な能力が必要になります。言葉を理解する力、相手の話に集中する力、相手の表情を読み取る力、文脈を理解する力、相手の気持ちを慮る《おもんばかる》力、適度に距離を取ったり間合いを考えたりする力など、色々な能力を総動員して「普通の」コミュニケーションをようやく取ることができます。

 ADHDの特性があるこどもは、自分の思ったことをすぐに言いたくなってしまうので、まだ相手が喋っているのに自分が喋り出してしまいます。相手の気持ちがわかっていないわけではないのですが、喋りたい気持ちを抑えることができません。一方で自閉スペクトラム症の特性のあるこどもは、相手の気持ちが理解しにくく、自分の興味のあることばかりを悪気なく話してしまうため、うまく相手と会話のキャッチボールができなくなってしまうことがあります。

 よく「空気が読めない」という表現がつかわれることがありますが、「空気が読めない」場合は、すべてが自閉スペクトラム症が原因というわけではなく、自閉スペクトラム症のように相手の気持ちを理解すること自体が難しい場合や、ADHDのように相手の気持ちはわかっているものの自分の衝動を抑えきれない場合などがあり、実は背景にある特性が違うことがあるので注意が必要です。そして実際には、そのどちらかというよりも、どちらの特性も少しずつ持っていて、そのせいで「空気が読めない」ということもよくあります。

 また、不安の強いこどもは、自分が話をすると相手はどう思うだろうか、変に思われないだろうかと心配になってしまって、言いたいことが言えなかったり、コミュニケーション自体を避けたりすることがあります。不安になりやすいかどうかはいわゆる発達障害の枠組みには含まれていませんが、特に不安が強いタイプのこどもは、選択緘黙(場面緘黙)といって、家族や家など、慣れて安心できる相手とは話ができるけれど、知らない人や集団の中、学校などでは言葉を話すことができないといった症状になることもあります。そういった子の支援をしていく上でも、不安になりやすいかどうかを見極めることは重要です。選択緘黙のような場合は、無理に喋らせようとするのではなく、最初は筆談でのコミュニケーションが可能なら使えるようにしてあげたり、ある程度本人が考えそうなことをこちらから伝えてあげて、うなずいたり首を振ったりすることでコミュニケーションと取ったりするなど、「この人と話すときには、喋らないといけないようなことになる」といった心配を本人に抱かせないように注意しながら支援をしてあげる必要があります。

 このように、コミュニケーションの苦手さについては、いろいろな要素が含まれているため、どのような背景でその子がコミュニケーションの苦手さがあるのかよく見極める必要があります。ただ一般的にはコミュニケーションの苦手がある場合、自閉スペクトラム症ではないかと疑われることが多いです。

 自閉スペクトラム症のこどもは、一般的な発達のこどもとは、世界の見え方が違っているといえるでしょう。コミュニケーションの観点では、他の人の気持ちを相手の気持ちを慮る《おもんばかる》、つまり、こういう状況だと相手がどう考えているだろうかと推測して、それをふまえて話をしたり行動するのが苦手という特性があります。特にその特性が強く、かつ言葉の遅れもあるケースは自閉症という診断になりますが、そういったお子さんの場合は、幼いうちは人と物の区別がうまくついていないこともあります。そこまで特性が強くなくても、他者の心理に配慮した行動ができないと、集団での生活が難しくなってしまいます。

 また他にも、自閉スペクトラム症では「こだわりが強い」という特性があります。この特性は、裏返すと「変化や刺激が苦手」ともいえるもので、いつも同じもの、同じパターンだと安心するので、こだわりが強いように見えるとも言えます。実際に聴覚や視覚的な刺激にとても過敏なこどもも多いです。私たちは、生活の中で無意識に少し先の未来を予想しながら生きています。「ドアを開けたら向こう側はこんなだろうな」とか「あの人がきたからこういうことを言われそうだな」とか。そしてその予想の幅はある程度広いので、多少予想から外れたことがおこってもそこまで驚いたり、不快になったりはしません。ただ、どんな人でも急に雷が真横に落ちてきたら怖いし驚くでしょう。自閉スペクトラム症のこどもは、先のことをある程度ふまえたり、想像したりしながら生活するのが難しいので、ちょっと予想外のことが起こるだけで、まるで雷が落ちたかのようにびっくりしたり不快になってしまったりするのです。そう考えてもらえると、その子たちの世界の見え方が想像しやすいのではないでしょうか。例えば、集団が苦手で不登校になっていた自閉スペクトラム症のこどもが、「今日は頑張って算数の授業だけでてみよう」と言われて頑張って登校して、割と調子よく算数の授業を受けられたので「じゃあついでに、次の国語の授業もでようか!」と誘われしまうと「思っていたのと違う・・・」とびっくりしてしまって、次からまた学校に行くのが嫌になってしまうという、といったことは主治医としてよく経験します。自閉スペクトラム症のこどもに対しては、あらかじめ今日はどういう予定なのか説明してあげて、できればその状況を絵や写真で見せてあげて、予想しやすいようにしておいてあげてから、予定通りに物事をこなさせてあげることが大切なのはそのためです。

 もちろん、成長にともなってそのような対応できることの幅を広げていくことは大切ですが、できるだけ見通しをしやすくしてあげる(構造化と言います)ことは、まだ不安が強いうちはとても重要な作業になります。こども自身が自分で「コミュニケーションの苦手さを何とかしたい」と理解できるようになれば、放課後等デイサービスなどで行われているソーシャルスキルトレーニング(SST)という、コミュニケーションの練習プログラムに参加してみることも有意義です。学校だけでなく、もう少し緩やかで少人数で、柔軟性のあるような集団の居場所を確保してあげるという意味でも、そういった福祉サービスを利用することは役に立ちます。

 動画でキホンの内容を見てみたい方は、下記のYoutubeをぜひご覧ください。


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