見出し画像

嫌われ松子の一生

2006年公開。この時、私は25歳だった。
確か友達と観に行ったと思う。

中島哲也監督の前々作である『下妻物語』(2004年公開)を、その時はまだ観ていなかったが、土屋アンナと深田恭子の共演で世間の注目度は高かったし、評価も良かったように記憶している。
あのビビットな色彩とド派手な衣装や世界観のインパクトは強かった。
そのヒットに続くように『嫌われ松子の一生』は公開前から注目されていた。
そして、主演が中谷美紀。
彼女が女優で一番美しいと思っていたので(今も思っている)この映画は観たいと思い、映画館に行った。原作は読まずに。

結果、どハマリした。

左:中谷美紀の撮影時の日記エッセイ  右:DVD
左:この映画の撮影後インドを一人旅した中谷美紀の記録 右:嫌われ松子の一生のその後を描いた、原作者の小説


図書館で原作者の本をほぼ読み、そこからミステリーや、暗くて重めのバックグラウンド強めの本を借りて色々と読んだ。この時、私の好きなジャンルが定まったのだと思う。

【以下、ネタバレです】

松子の転落人生の話。
と、一言で言ってしまえばそうなのだが、そうなる起点がある。
父親に認められたい。愛されていると実感したい。幼少期の健気な松子。
父(柄本明)は、病弱で入退院を繰り返す妹(市川実日子)のことを常に気にかけ、元気な松子のことは後回し。松子のことを、見ても見ていないような空気のような接し方で、次第に松子は虚しさと妹への嫉妬心を抱くようになる。
ネジ曲がった感情がずっと松子の心の根本にはあり、自分に自信も持てない。表面上だけを繕う人間になってしまった。
松子は父親の理想通り、中学校の教師になったのだが、修学旅行中の盗難事件の犯人として教え子(不良)の龍洋一が疑われたことから、よくないやり方でその場を取り繕ったことで、依願退職という形の辞職に追い込まれる。

ここから転落が始まる。

出会う男達はろくでもないのだが、愛に飢えた松子がさらに男達を追い詰める形となり、最悪な結果へと導かれる。
暴力的で残虐な描写もありながら、中島監督ならではのビビットで派手な色合いと、ミュージカル調も混じえることで、松子のイタさがより強調される気がして、なんだこの手法は!と、私にはかなり刺さった。
そして何と言っても、中谷美紀が美しい。
「独りぼっちよりはまし。」
「地獄でも何処へでもついて行く。あなたのそばにいられれば。」
と言う終盤へと向かっていくシーンでは、追い詰められた人の表情は美しさと表裏一体なんだと思わせられる程。
今であれば、パワハラに認定されそうな監督とのやり取りも赤裸々にエッセイには書かれていて、撮影時にあの大女優がかなり追い詰められた様子も伺える。
でも、そこを引き出した監督はやはり素晴らしい。

口コミなんかを読むと、刺さる人と全く受け付けない人の両極端な映画だと思う。
これでもかというくらい、どん底へと突き進むのだが、要所要所に松子が救われそうな、観ている私達を救ってくれそうな瞬間がある。

特に、監獄で出会った沢村めぐみ(黒沢あすか)という女性は二度にも渡って偶然に松子と再開しその度に救いの手を伸ばす。
素直に受け入れることができず跳ね除けてしまうのだが…やっと再起を思わせておいて、最後の呆気なさ。

映画の冒頭は、松子の死後甥にあたる笙(瑛太)の視点から始まる。
松子のアパートを片付けながら関わりのある人達に出会い、松子という人を受け止めていくという、二つの視点から描かれており、松子の死の真相も徐々に明らかになっていく。

殆ど語ってしまった気もするが、見ていない人は見てほしいと思える映画。

最後に。

エッセイの中には映画撮影時の写真が数々載っている
中島哲也監督やスタッフ陣の様子も映されている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?