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会えない[800]

秋の虫の羽音をきくと、
幼い頃の記憶がよみがえる。

お父さんと、下手なうたを歌った。
替え歌をつくった。輪唱で遊んだ。

頭まであるススキ野を歩いた。
目線を落とさなくても、甲が輝いているのがわかった。

千切れてしまいそうな足や羽を肌色に透かして
鑑賞していた。

肌寒い風が、ひんやりとした月明かり。
昼には栗イガでサッカーをした。


春には、ヘビが出た。シロツメクサの上で何時間も過ごした。
カマキリの繁殖は、蝶の孵化は目を見張るものだった。

梅雨になれば、ナメクジとカタツムリを描きわけた。
オタマジャクシは毎日、手足を伸ばしていた。

夏だって、同じように思い出はあるはずだ。
カブトムシ用のゼリーを食べたこと。
人肌のミミズを数えたこと。


セミのこえを聞いた。
セミの抜けがらを集めた。


夏休みに帰るおばあちゃんちは、いつも静かだった。
お盆に、終戦記念日。ねっとりした熱さが家を包み込んでいた。



ポケットから出てきた、乾いたダンゴムシ。
スポーツドリンクでベタベタになったアリ地獄。

そんなわけと笑われたのが、悔しかった。
あの日から蝉の声が聞こえる。

頭の中で反響する。


規則的な踏切のリズム、耳をつんざく急ブレーキ。
救急車のサイレン、人々の話し声、繰り返しの機械音声。

ミィンミィンと、静寂の中でセミが鳴き始めた。



それは二回目だった。
共通の知り合いが飛び込んだ時、君は目撃したことひどく後悔して、
傷心していて、たった数年前なのに


同じ言葉、だったのかもしれない。
わかってくれなくてもいいから、笑わないで欲しかった。

私は、嘘つきじゃなかった。


今まで「人身事故」のたった四文字で片付けていた事実は
「蝉の声」の認識と重なった。


一回目、僕は眠れなくなった。車の音や話し声がうるさくてたまらなくなった。それは治らなかった。

二回目、あの日の君みたいに僕は君にすぐに連絡した。一日連れ回して、残りわずかのバッテリーで、急いでメッセージを送った。

たすけてほしい。



迷惑はかけられないから。君ならわかってくるかと思った!
君にしか言えない。

-2023年8月8日 01:08-



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