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潮騒/三島由紀夫〈読書レポート〉

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読書メモ

読了日:2020/2/24(月)
タイトル:潮騒
著者:三島由紀夫
出会い:東京・あんず文庫
2020年累計:1冊目

感想

職場の同僚と好きな本について話していた時に出てきたもので、三島由紀夫らしくない爽やかな純愛物語だと聞いて、気になっていた一冊。純文学はあまり読んでこなかったけれど、爽やかな純愛物語なら私でも読めるかな、と思ったから。

実際に読んでみて、「三島由紀夫らしくない」かどうかは他作品を読んだことがないからわからないけれど、爽やかな純愛物語であることは間違いなかった。

小さな島で出会った若い男女が、周りに邪魔をされながらも苦難を乗り越えついに結ばれる。私の大好きなハッピーエンド!!

最後に初江の父親が新治との結婚を認めることを話すシーンでは、思わず喜びで涙が滲んだ。(おばちゃん涙もろいのよ。)

爽やかなストーリーも素敵なのだけど、ところどころの描写もすごいな〜と思うところがたくさんあった。

まず冒頭の、今回の舞台となる島の地形や歴史を描写するところ。

歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。

から始まって、丸々3ページ島の描写に費やしている。おかげでまるで行ったことがあるかのように脳内に島の風景が浮かんできた。

▲三重県神島が舞台らしい(灯台想像と全然ちがった!かわいい!!)

それから、私が好きなシーンのひとつである、新治の母親が初江の父親・照吉の元に意を決して行こうと奮起する場面。クロアゲハが海に向かって羽ばたき、戻ってくる様子を見ているうちに、なぜか勇気が生まれてくるのだけど、そのときのクロアゲハの描写もものすごく丁寧だった。

母親は一羽の蝶が、ひろげてある網のほうから、気まぐれに突堤へむかってとんでくるのを見た。大きな美しい黒揚羽である。蝶はこの漁具と砂とコンクリートの上に、何か新奇な花を探しに来たのであろうか。漁師の家には庭らしい庭はなく、石で囲まれた小さな道ぞいの花壇があるだけで、蝶はそれらのけちけちした花に愛想を尽かして浜へ下りて来たものらしい。
突堤の外には波がいつも底土をかきわますので、萌黄いろの濁りが澱んでいた。波が来るとその濁りは笹くれ立った。母親は蝶がやがて突堤を離れ、濁っている海面近く、羽を休めようとしてまた高く舞い上がるのを見た。
(中略)
蝶は高く舞い上り、潮風に逆らって島を離れようとしていた。風はおだやかにみえても、蝶の柔らかい羽にはきつく当った。それでも蝶は島を空高く遠ざかった。母親は蝶が黒い一点になるまで眩ゆい空をみつめた。いつまでも蝶は視界の一角に羽搏いていたが、海のひろさと燦めきに眩惑され、おそらくその目に映っていた隣りの島影の、近そうで遠い距離に絶望して、今度は低く海の上をたゆたいながら突堤まで戻って来た。そして干されている縄のえがく影に、太い結び目のような影を添えて、羽を息めた。

長い!蝶が海に向かって飛んで行って戻って来ただけなのに、ここまで詳細に長々と書けますか…。すごい。最後、「干されている縄に止まった」で良いところを「干されている縄のえがく影に、太い結び目のような影を添えて、羽を息めた」って。おしゃれか!!

それからこの島の若い女たちが海女の季節が来るのを嫌がるときの描写もすごかった。

冷たさ、息苦しさ、水中眼鏡に水が入って来るときのいいしれぬ苦痛、もう二三寸で鮑に手がとどくというところで全身を襲う恐怖と虚脱感、それからさまざまな怪我、海底を蹴って浮き上るときに鋭い貝殻が指先にあたえる傷、無理を犯した潜水のあとの鉛のようなけだるさ、……こういうものが記憶のなかでますます研ぎすまされ、反復によって恐怖は一そう募り、夢の入る余地もない深い熟睡のなかからさえ、突然悪夢が娘たちをよびさまして、深夜、自分の掌が握っている夥しい汗を、何事もない平和な寝床のまわりの闇に、透かし見させたりすることが屡々あった。

読んでいるだけで、海女漁ってめっちゃ大変なんだなぁ〜〜〜と息苦しくなった。(幼稚な表現しかできない)ここも最後「悪夢で掌が汗でびっしょりになった」で良いところを「悪夢が娘たちをよびさまして、深夜、自分の掌が握っている夥しい汗を、何事もない平和な寝床のまわりの闇に、透かし見せたりすることが屡々あった」って。おしゃれか!!!!

主人公カップルの二人や既出の両者の親の他にも魅力的なキャラクターはたくさんいて、中でも新治の弟・宏なんかはかわいくてめっちゃお気に入り。

修学旅行で初めて島を離れたとき、母親にあてた手紙がもうほんとに好き。

「京都でさいしょの晩、自由行動がゆるされたから、近くの大きな映画館へ、さっそく宗やんと勝やんと三人で行きました。とてもりっぱで、御殿のようです。ところが椅子がとてもせまくて、固くて、腰かけると、とまり木にとまったようで、尻は痛いし、ちっともおちつきません。しばらくすると、うしろの人が、坐れ、坐れ、といいます。坐っているのに、へんだね、と思ったら、うしろの人がわざわざ教えてくれました。それは折畳椅子で、下ろすと、椅子になるのです。三人は失敗して、頭をかきました。おろしてみたら、フワフワした、天皇様の坐るような椅子で、お母さんも一度こんな椅子に坐らしてやりたいと思いました」
新治にこの葉書を読んでもらうと、おしまいの一句で母親は泣き出した。

私も泣いてます(涙)
宏、ええこやの〜〜〜(涙)うちの弟もこういう母親たらしなところがあるから、勝手に弟を重ねて余計に感情移入してしまうのかもしれん。あと宏が友達と西部劇ごっこをするところも微笑ましくて懐かしくてかわいかった。

新治が普段一緒に仕事をしている十吉と龍二も、本当に嫌味のない優しい方々で、この三人のシーンはどこも癒されたなぁ。

魅力的なキャラクターに溢れていて、ハッピーエンドで、好きな作品のひとつになりました!

潮騒のメモリーの歌詞

そういえばこの本を買ったあんず文庫さんに、朝ドラ『あまちゃん』を観ていたなら、小説を読み終えた後に『潮騒のメモリー』を聴くと良いと言われていたのを思い出した。

ってことで聴いてみた。(まず久しぶりすぎてめちゃエモい)

そしたら!いきなり冒頭の歌詞が「来てよ その火を 飛び越えて」って!!!
これかー!ってなりました。間違いなくあのシーンのことを言っている!クドカン…ほんと粋だなぁ。。

こんな人におすすめ

・恋愛物語が好きな人
・純文学に挑戦したい人
・朝ドラ『あまちゃん』が好きな人
・ハッピーエンドなお話が好きな人
・三島由紀夫文学を読んだことがないけど興味がある人

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