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『ビヨンド・ユートピア 脱北』鑑賞

「ビヨンド・ユートピア 脱北」を鑑賞しました。


あらすじ
韓国で脱北者を支援するキム・ソンウン牧師の携帯電話には、日々何件もの連絡が入る。これまでに1000人以上の脱北者を手助けしてきた彼が直面する緊急のミッションは、北朝鮮から中国へ渡り、山間部で路頭に迷うロ一家の脱北だ。幼い子ども2人と80代の老婆を含めた5人もの人たちを一度に脱北させることはとてつもない危険と困難を伴う。キム牧師の指揮の下、各地に身を潜める50人ものブローカーが連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国を目指す決死の脱出作戦が行われる――。

"再現映像なし"を冒頭で示すようにその全てが生々しい映像で撮られている。
手ブレが多い映像にはナマの強度をさらに強めていて、ハッとなる。
スマートフォンからハンディカム、おそらく様々な機種で撮られた映像が積み重ねられているのだけど、整音や編集の素晴らしさもあって、画が全く安くない印象なのが凄い。特に編集は短いカットでテンポよく繋がれている。間延びするようなシーンがなく、緊迫感を素早い編集でキープするという劇映画さながらの方法のように感じた。つまり脱北をよりサスペンスに仕上げているのよね。圧倒的に魅せられる。見れてしまう。ベタだけど緊迫感を増すためにそれに見合うサウンドトラックを配置するとか、凄く効果的なのよ。脱北というとんでもない題材に対して、映画の作り自体はとても王道でありベタ。これが本作最大のミソであり、隠し味になっていると感じた。

現地のブローカーの人たちによって撮られた映像ということだが、アマチュアが撮影した映像でも編集のテンポが良ければ観れてしまうし、映画の文法になっていくのだということにまずこの映画の発見がある。

本作の恐ろしい部分は北朝鮮という国をこれでもかと炙り出していく。
テレビもチャンネルは一つだけ、北朝鮮以外の国の情報は間違った歴史を伝えていき、洗脳していく。
選択の幅が少ない、選択の幅を狭めることでより洗脳が出来てしまうという何よりもの証明だ。

我々は日々、膨大の情報に囲まれ、見ることも、それを行動にすることも選択の幅がある。(いつの間にか狭めていることに気付かない日常とも隣り合わせだ)

主人公は脱北をしようと試みる家族たち。
中にはおばあちゃんもいる。70年間、外の世界を見ることが出来なかったと語る姿はとても印象的。
もっと若かったら・・という重みがずっしりくる。
綿密に練られて、タイを経由して辿り着いた韓国。
街は経済の発展を感じさせ、歩行者たちは皆各々が好きなファッションをして自分を表現している。
車、電車、全てが見たことのなかった光景。
そのなんてことのないモンタージュがまるで人類が新たな文明に出会ったかのように映し出される。

囚われるとは何か、洗脳とは何か、信じるものとは何か。
危険過ぎる撮影によって紡がれた物語は、まるでフィクションのような強度を持ちながら、圧倒的な現実としてスクリーンに現れる。
必見だ。見て欲しい。

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