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フクロウ・ノート(9)確証バイアスと経営判断

大学院1学期目の重要なコンセプトとして、どのようなバイアスが存在し、それはどのような仕組みで発生し、バイアスによる悪影響を最小限に抑えるにはどうしたら良いか、というものがありました。バイアスにも感情バイアスだったり、記憶のバイアスだったり幾つか種類があるのですが、そのなかでも確証バイアスと経営判断について授業で議論した内容がとても共感できるものだったので、授業で使われたHarvard Business Reviewの記事の紹介も兼ねて忘れないうちに書こうと思います。

確証バイアスとは、自分の先入観や仮説を肯定するために都合がいい情報ばかりを意識的・無意識的に集めてしまう傾向のことです。その結果、非合理的な判断をしてしまうことがあります。ただし、判断が非合理的であるか否かと、その結果の良し悪しは別問題です。

私たちは仕事で自ら提案を作ったり、他人の提案を採用するか判断することがよくあると思います。その判断が確証バイアスに影響されることは多く、提案をする立場・提案を受けて判断する立場のひと、それぞれ一歩立ち止まり、このようなチェックリストを作って自問自答したり、相手に質問してみると良いかもしれない、というアメリカの行動経済学の第一人者であるダニエル・カーネマン教授率いるチームが書いた記事 " Before You Make That Big Decision" にあった判断の質をチェックするリストのご紹介です。

提案の良し悪しを判断する役割の人が自分への問いとして確認すること

1)提案者がその提案をするにあたって、私利私欲に駆られた動機はありそう?その提案が通ることによって提案者たちだけめちゃめちゃ得することはある?特に「現実的な」選択肢が一つしかないという時は要注意。

2)提案者は成功を盲信していない?リスクやコスト認識が充分なされた提案になってる?これは戦略的な決断を下すときに重要な質問になりそう。

3)反対意見も充分検討されたうえでの提案になっている?リスクの存在やそれが顕在化する可能性、顕在化した場合の影響規模など、充分な検証がなく提案者たちの間で安易にそして思考停止気味にコンセンサス形成されていない?

提案するチームに対して質問をして確認すること

4)解決しようとしている問題の現状把握をするにあたり過去に起きた類似する問題に影響を受けすぎていない?他の角度から問題を把握してみた?例えば他のステークホルダーの立場から見た問題は異なるかもしれない。

5)現実的に使えそうな代替案は検討された?いま残されている時間軸にもよるけど、可能な限り全ての選択肢を検討したほうが判断の確度があがるので追加で2−3個は代替案をアウトプットするのもおすすめ。

6)1年後に同じ判断・提案をする場合、どのような情報が追加でほしい?その追加情報によって今回の判断はどのように影響されると推定される? 

7)提案の根拠となる数値の出典はどこか認識している?その出典元は信頼できる先?情報の信頼性を確認した上で提案の根拠として使っている?

8)ハロー効果によって解決しようとしている問題の目立つ特徴に判断が左右され過ぎて歪んだ提案をしていない?提案者の立場だと、どうしても最初に思いついた案に固執してしまっている場合もあるので目線を広く多角的に持つことが大切。

9)過去の経験に引きずられ過ぎた提案をしていない?特に過去の経験が失敗だった場合、現在の提案に与える悪影響は甚大。

提案の良し悪しについて最終判断を下すときに確認すること

10)ベースケースが楽観的すぎない?会社で決裁に上がってくる提案は得てしてバラ色で楽観的過ぎるものだと思ったほうが判断を誤りづらい。他社による似たような経営判断や、マクロ的視点で本当に良い提案か広くみたうえで提案がされてる?

11)提案者たちが言う「最悪ケース」は本当に最悪?更に悪い状況とは何が起きた時か提案者に聞いてみてさらに深く考えさせるのも一案。

12)逆に提案者は保守的になり過ぎていない?機会損失についてきちんと考えている?失敗して経営幹部にカッコ悪い面を見せられない、出世できないと困るからと保守的に見積もって身を守ろうとしていない?

個人的な感想

私は最初「確証バイアスが何かわかってさえいれば自分は大丈夫でしょう!」って思っていたのですが大きな間違いでした。調べれば調べるほど人間なら自然と起きてしまうことで、完全に無くすことは無理だし、バイアスがかかっても自分の能力を疑う必要はないのだと理解しました。大事なのは自分がバイアスにかかっていることを認識して対処をする仕組みを持っていることだと気づきました。それがご紹介したようなチェックリストだったり、反対意見のロジックを考えてみたり、代替案を敢えて出してみることだったりします。

更に今回の学びが自分の往年の弱み・悩みにつながっていたことに今さら気づきました。その悩みは私は「つい意見が一つのポイントに集中し過ぎて偏っていたり、視野が狭すぎる時がある」というものです。自分でも大学時代あたりから薄々気になっていたことを総合商社にいた頃に参加させて貰った良い(そしてキツい)研修の仲間たちが言語化してくれて、でもどうしたら良いかイマイチよく分からず、ずーっと心に引っ掛かっていました。たぶん原因は確証バイアスだと特定できて対処する方法があると思うと嬉しい🙌

記事

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↑の記事をまとめた簡易版。こちらは無料サイト。
https://erm.ncsu.edu/library/article/avoiding-confirmation-bias-in-decision-making

Citation

Kahneman, Lovallo, Sibony, D. K. D. L. O. S. (2021, July 13). The Big Idea: Before You Make That Big Decision. . .. Harvard Business Review. https://hbr.org/2011/06/the-big-idea-before-you-make-that-big-decision

Faculty, A. O. S. A. A. B. E. I. (2011, August 1). Avoiding Confirmation Bias in Decision Making. ERM - Enterprise Risk Management Initiative | NC State Poole College of Management. https://erm.ncsu.edu/library/article/avoiding-confirmation-bias-in-decision-making


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