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アクセサリーを探して⑥

「同じもの頂けますか?」

店に到着し軽めの挨拶を済ませた後、店内に唯一いる男性にカフェラテを注文した。


私自身、カフェをすること自体は慣れている。

しかし、男性とカフェをする事が慣れていない事と、思ってた以上に落ち着いた雰囲気のある店内で、周りをきょろきょろしてしまった。

先ほどのオーナーらしき男性が気に入ってそうなアンティーク調の家具に、レコードから流れるジャズミュージック。

思っていたよりも暗めな照明だが、コロナ禍のおかげで5組ぐらいしか入れないようにしている為か、それぞれのテーブルにも明るめの照明とアクリル板が置いてあった。

ザ・喫茶店だからか、ターゲットは明らかにご年配で、この時期の経営が難しそうな、そんな問題が残る雰囲気だった。


アクセサリー



店側には申し訳ないがそんなことよりも、目の前の阿部さん問題がある。


意識していなかったら「かっこいい」なんて事をぼそっと言ってしまいそうになるほどに眩しい。

やっぱりYouTubeを見るべきではなかったかも知れない、と今更ながら後悔し、にやにやしてしまいそうになる顔をマスクで精一杯隠した。


しかし、私ばかりがそわそわしても仕方ないので、一旦は落ち着こうと
”阿部さんもただの人間。阿部さんもただの人間”
と心の中で唱えながら、タイミングよく持って来てくれたグラス一杯の水を一口飲み、すぐにマスクを付け直した。


もともと冷静沈着な私だからか、それとも水によって心が潤ったのか、すぐに冷静さを取り戻し、
普段通りに接する事が出来そうだと一安心し、大きく深呼吸をした頃だった。

”ジャニーズ感というか、なんというか、今日は一段とオーラが目立つなぁ”

そんなことを思いながら顔を見ていたら、「どうした?」と言われてしまった。


”あれ?
いつもなら『どうしたの?』とか、『ん?』とか首を傾げてくるのに、何故今日はちょっと男前口調?”


「あ、いえ、何でも無いです」

「そう・・・。あ、これ先に渡しておく」

そう言って鞄の中から出てきたのは、彼が今日あげると言ってくれていた、SNOWMANの1stシングルと2ndシングルの初回限定版だった。

ありがとうございます。
そう呟きながら受け取り、これが初回限定版というやつか、と口に出していた。

そうだよ、と重ねて補足情報をいろいろ話しかけてくれていたが、聞こえなかった。

そんなことよりも、
表紙に写る彼の顔と、目の前に居る彼の顔を見比べる事の方が優先だった。

「ちょっと恥ずかしいから、あんまり見ないで」

そう少し照れたような顔をしながらも、今日はやはり今までとは違う対応で、目や口元を手で隠したりせず、堂々としていた。


”かっこつけてるのか、な?”

でもやはり、そこを言及する事よりも
「これが、これか」と口に出しながら、
CDに写る彼の写真を指差し、顔をまじまじと見続ける事の方が重要だった。


「・・・全然違いますね」
と、別に意味も無く、単なる感想として含み笑いをしながら言った時だった。

「そうだよな、俺もこんなにかっこよくないと自負してる」

とCDを一緒に見ながら、少し落ち込んだ雰囲気のある発言をされた。

すぐに、「いや十分にかっこいいですよ今も」と付け加えたが、社交辞令で喜ぶ程度で、
少し気を悪くしてしまったかも知れないと思ってしまった。


”思っていたよりも、ネガティブ?自己肯定力低めなのか?”

そう思っていた時にカフェラテが運ばれてきた。

慌ててCDを隠そうとしたが、
「大丈夫だよ、ここのオーナは俺の従兄弟のおじさんだから」と言われ、
そうなんですね、と言いながらオーナーへ会釈をした。
”どおりで、こんな路地裏にある喫茶店を知っていたのか”と思った。




「・・・そのCDにサインしようかと思っていたんだけど、妹さんにあげるって言ってたから流出はしないと思うけど、
メンバーに俺らの関係性が薄いから危ないかもよって言われて、書いて無いんだ」

ごめんと申し訳そうに言われたが、
正直サインまでもされたら、妹にどう説明したらいいか分からなくなるので、むしろ有難かった。

「サインは別に大丈夫です。確かに私たちの関係性もそんなに無いですし、頂けるだけで、もうほんとお腹いっぱいです」

ありがとうございます。というと、「こちらこそ」と頭を下げられた。


私もカフェオレを頂こうとマスクを外した時
「あ、そんな顔だったんだ」と呟かれた。

「え、あ。はい。あ、恥ずかしいんでそんな見ないで下さい」

と伝えると、
さっき俺の顔じろじろ見てたのに、といじけながら他所を見てくれた。
が、たまにチラッと見られている感は否めなかった。



そこからはたわいもない話を繰り返し、主に私の事を聞き出された。

どういう仕事なのか、東京は慣れたか、自粛期間でも在宅ではなったんだとか。

年明けからの趣味はSNOWMANのYouTubeを見る事だった、と言うと
「うわ、見て欲しくなかった」と言われてしまった。

「え、見なかった方が良かったですか?」

「うん。だって、俺のおもんないところとかダサいところとかバレるじゃん」

「まぁ、はい・・・」それは確実に否めない。そう思いながらも

「でも賢いところや、メンバー想いなところも分かりましたよ」

そう素直に目を見て伝えると
「嬉しいけど、今日俺がかっこつけてたの無意味みたいじゃん」

と言われ、やはりかっこつけていたのかー、と口には出さなかったけれど、目を閉じて大きく納得した。


「今日思ったんですけど阿部さんは普段通りの、可愛い感じ?が良いかなと思います」

「かわいいかんじ?」

「あー、愛されキャラてきな?」

「それは佐久間だ」

「佐久間くん・・・たしかに。いや、でも、そのー、あざといキャラ?」

「ちょっとそれ。ガチで見てくれてる証拠じゃん」

と、若干困惑しながらも笑っていて、
”自分の仕事の事、本当に好きで誇りの思っているんだな”と、聞いていてしっかり伝わった。


その後も、お互い手を叩いて笑ったりと熱くなればなるほどに盛り上がり、
YouTubeのあの回はもう見た?とか、あそこに行くなら絶対にあれは食べておいたほうが良いよとか教えてくれた。

ただ決して裏側の事は触れずに、
でも、ただの友達のような感じでラフに話してくれている事は、意識せずとも理解できた。


「久しぶりにメンバー以外の人といる時にこんなに笑ったわ」

そう伝えられると、私もですよ、とすぐに返答出来るほどに楽しい時間だと思った。


お互いの空気感は全く嫌らしくなく、まるで昔からの友達かの様に気軽に話していた。

気を使われている感も無くは無いが、きっとこれは彼の持ち前の性格だろうと納得できる部分が多くあり、
”一般人なら、超エリートクラスの、最優良物件だな”とまで思ってしまった。



「あ、お姉さんに渡したいものがもう一つあって」

「あ、その、”お姉さん”の呼び名なんですが・・・」

彼はもう一度何かを取り出そうと鞄を膝の上に乗せながら、ん?とこちらを向いた。


「Googleで調べたら、阿部さんの事はすぐに出てきて、プロフィール読みました」

あ、そうなんだ。と笑い事も無く、納得している表情だった。

「調べて気づいたんですけど、私、阿部さんと同い年でした」

「え、そうなの?」
彼は鞄に入れていた手を止め、そうなんだと呟かれた。


”芸能人だからプロフィールを全国民に知られる事は仕方が無いだろうが、
私は彼を知らずに知り合ったわけだから、プロフィールは彼から聞いた方が良かったよね”
と思い、しくじったなと思わされた。




少し、沈黙の時間が急に訪れ、一瞬にしてさっきまでの柔らかい空間が固くなる。


「俺さ、1年前にデビューしてさ、もう目まぐるしいくらい忙しくて」
そう言いながら、彼は私の顔を見ず、少なくなっていたグラスの水を飲み干した。

「お姉さんと・・・、本田さんと交差点でばったり会った時に話しかけられた時も、
握手してくださいとか言われるかと思ったら、名刺だけ渡してすぐ帰ろうとするし、
ジャニーズに興味がない子と話すことが無くて新鮮だったんだ」

冷静すぎるぐらいに話してくるから”怒っているのか”と思い
すみません、とすぐに伝えたが、

「いや、本当に良い意味で言ってるんだけどね。
もう会う事は無いなって思っていたけど、たまに道路で見かけてたんだ。
本田さんは全く気付いてなかったけど」

そう笑いながら、緩やかに話す彼を見て、
人に見られているなんて考えたことが無かったと恥ずかしくなり、
「うそでしょ」と言いながら今度は私が水を飲み干した。


「それで、うちの問題でホテルの事でもめていた時、一番に思い出したんだよね本田さんの事を。
そしたら、電話でも俺の事理解してないのか、30人もいるのに旅行楽しんでって言われてさぁ」

だんだん楽しくなってきたのか早口になる彼を見て、聞けば聞くほどにすみません、と思い続けた。

10か月ほどの前の出会いが懐かしい様な、でも、確かにその経緯があったから今があるんだと思わずにいられないほどに、ちゃんと私達だけの特別な共通点だった。


「そしたら年明けに、SNOWMANのCD買ってるじゃんか。もう、意味が分からなかったよね」

それでさ、と彼は楽しそうに話し続ける。

オーナーは水が無い事に気づいたのか、注ぐためにテーブルまで来ていた。


「今日会ったら、テンション上がったりとか興奮してとかあるのかなぁと思ったら、すっごい普通だし。
なんか、ジャニーズとしてかっこつけないと負けた気がして」

そう言われた直後、不貞腐れた様な顔をしながら話す彼を見て、
私は笑いをこらえるようにするしか無くて、
この人絶対に愛されキャラだよ、と思わずにはいられなかった。


笑いも落ち着いたころ、笑い過ぎと怒られたが、

「私、阿部さんがかっこよすぎて冷静さを保つのに必死でしたよ今日。
寒かったからホットを頼みましたけど、汗が止まらないほどに緊張していたのでアイスにしたら良かったな、とまで思っていたんですよ」

負けじと私も早口で話したら、
良かったと嬉しそうに、照れくさそうに、YouTubeやテレビでは見たことが無い表情を浮かべながら、目を見ながら話してくれた。




鞄の存在を思い出したのか、「あ」と呟いた後、ビニールに包まれた小さく薄いものを裏面にしてテーブルにそっと置かれた。

本当はあげたらダメみたいなんだけど、そう言いながら

「ずっと嵐さんのストラップつけてたじゃん。厚かましいけど、そこに一緒に付けておいてくれると嬉しいなと思って」

言いながら表側に向けてくれると、そこにはストラップがあった。


「あ、ストラップですか?」

「そう、俺たちの」

「・・・SNOWMANの?」

「そう。まだ販売されていない、むしろ販売されないかも知れない非売品」

「・・・ん??」

またわけわからない事言っている。
非売品を一般人に渡したらダメじゃないのかな?
そう社会人的に思っていたら、私が発言する間もなく

「・・・貰って貰えないなら、持って帰る・・・」と言われてしまった。


”・・・この人は本当に、なんというか・・・”
そう呆れたような感じになったが、いや実際に呆れたが、でも嬉しくない訳はなかった。


”急な末っ子感すごいな”そう思いながら
「分かりました。付けます。付けます」と伝えた。

「え、嫌々じゃん」

「・・・まぁ、別にすごくすごく嬉しい事は無いかな」

ストラップを見ながら半笑いでそう伝えると、
「なんだよー」とたまにYouTubeで見るわざと可愛らしくしている感じに変わっていた。


”うわー芸能人感出してきやがった”
そう思いながら、そう思わないように、グラスに手を出したところだった。



「まぁ、そう思うと思って」とにやりとした表情で語ってきた。

「こちらも差し上げます」
そう言いながら鞄から取り出し、手渡されたのはブレスレットだった。


「え?」

「いつも見かける度にアクセサリー付けていなかったから、もしかしたら持って無いんじゃないかと思って」

「・・・え?」

「なにかアクセサリーあげようと思ったけど、ネックレスとか意味ありげかなぁと思って。
”ゆり組”に聞いたら、ブレスレットには意味がないんじゃないかって言ってたから、YouTubeのロケした時に探して、買ったの」


脳内の思考が停止したかのような感覚で、
彼が話している時も意識せずに「え」と何度も相づちを打っていた。


「その、だから、きっと本田さんはストラップを要らないと言うと思ったから、代わりにこれをあげようと思って」

「・・・いや、そこまでしてもらう義理が無い、というか」

「そんなこと女の子は考えなくていいの」

「いや、だって、ほら。CD2枚も頂いてるのに、私何も持って来てない・・・」


そうだねー、と彼は満足そうに笑いながら

「たまーに見る本田さんが、結構俺の中でツボで。
あ、今日も颯爽と歩いてるなとか、全く俺を意識してないところとか、でも冷徹とかでは無くって、
こう、なんというか・・・、芸能人にとっては有難い存在で居てくれて、ありがとうって思って」

だからだよ、そう言いながら彼はまた水を一口飲んでいた。



チョコレートに牛乳



今まででダントツで長い文章になりました。
しくったなぁ。


途中出てきた”ゆり組”は、SNOWMANの渡辺翔太さんと宮舘亮太さんの事です。

渡辺さんは、本文では妹がファンという事で一度出演してました。
塩顔×メインボーカルのしょっぴーですね。

宮舘さんは、セクシーロイヤル美しくをモットーに貴族キャラで、
笑う事と発言数が非常に少ないSNOWMANに欠かせない存在の方です。

何故ゆり組というのかは、気になった方だけググってください。笑


佐久間くんも2話で出てきてましたね。
佐久間大介さん。
あべさく、というくらい阿部さんとは仲良いみたいで、見てて気持ちいいです。

グッズ販売の事など全く知らないので、ググってみましたが
ファンの方お手製のキーホルダーとかあり、
公式でどれが売られているのか分からなかったので、非売品としました。

まぁ、コンサートが始まればきっと公式で発売される事でしょう。
早くコロナが落ち着いて、コンサートが始まればいいですね。



アクセサリーをどうしたものかと悩みましたが、こういった形にしました。



あと1回だけ、続きます。




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