マンプクな旅

「はぁ~! マンプクだぁ~」
 言うやいなや、彼女が後ろに倒れ込み、畳の上で大の字になった。
 こんなお行儀の悪いことができるのも、部屋食のある旅館ならでは。なので彼女との旅はもっぱら旅館泊だ。
「そういや、マンプクってどう書くか知ってる?」
 所狭しと並んでいた、地のものをふんだんに使った料理の空き皿を眺めながら、ふとそんなことを彼女に問いかける。
「モッチロン! 満たされるに、お腹でしょ?」
「うん。でもね、もうひとつあるんだよ」
 興味をそそられたのか上半身を起こした彼女を見つめて、ボクは続ける。
「ヨロズに幸福の福で、万福。ハンパなく幸せってこと」
「へぇ~。それいいね。とてもイイ!」
 ぱぁっと笑顔になった彼女が器用に膝立ちでにじり寄ると、ボクの腕に抱きつく。
「お腹は満腹、心も万福。旅って幸せだね」
 そして、心から幸せそうに囁いた。
「来年も、ふたりでマンプクな旅、しようね」

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