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映画「ぐるりのこと」感想

深津絵理演じる祥子と、リリーフランキー演じるカナオの夫婦を主人公とした、10年間の穏やかで激しい物語。

「ぐるり」とは、身の回りでおこる様々な出来事のこと。

(ネタバレあり、以下感想です)

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「離れていっちゃうのはわかってるのに、どうしていいかわからない」

ほぼ強迫観念みたいな、「ちゃんとしなくちゃ」という思いに囚われ泣きじゃくる祥子の姿が忘れられない。


ちゃんと大学を出て、
ちゃんと仕事をして、
ちゃんと結婚をして、
ちゃんと子どもを産んで、
そして毎日ちゃんとご飯をつくっ
てちゃんとお掃除もしないと。

すべては「ちゃんと」せねば。
人並みに、ううん、人並み以上に。


はたから見たら、何にそこまで追われてるのか、何をそんなに悩んでるのか、わからないだろう。本人ですら、なんで「ちゃんと」しなきゃいけないのかは説明出来ないはずだ。


本人の性格と、周りの環境と、ちょっとした偶然や、親からの言葉。おそらくはそういう様々なもので出来上がった「ちゃんとしなくちゃ症候群」は、意外と手強い。明確な対処法も治療法もない。


自分の中のルールに囚われて、ネガティブになっている人を「メンヘラ」と呼んで隔離するのは簡単だ。この映画の中でも、義姉が暴言を吐くシーンがある。


でも、世の中そんな心無い人ばかりじゃない。

どのシーンでも、祥子を見つめるカナオの目がとても優しくて、それだけで何度も泣きそうになった。リリーさん、かっこよすぎるよ。ケンカのシーンでお互いを叩くのだけは、良くないと思ったけど。

そのあとの慰め方は、彼の素敵さがぎゅっと詰まった名シーンだった。「真実の愛」の絵本のシーンに出てくる人々の滑稽さ、大仰さとは対照的。カナオは、出しゃばらない。そっと慈しむように妻を愛する。そこにユーモアも込めて。


後半、絵を描くようになってから祥子の表情はだんだん明るくなっていく。ごはんが美味しそうに描かれるようになるのも印象的。


どんなに悲しくても落ち込んでも、大事な人とささやかな食事をして、おいしいねって言う時間は大切にしたいものだなと思いました。

サポートいただけたら、旅に出たときのごはん代にさせていただきます。旅のあいだの栄養状態が、ちょっと良くなります。