水を溜めやすい山なのか:小谷城が堅牢なワケpart4【お城と地形&地質 其の四-4】
日本の「お城」を地形・地質的観点から見ていくシリーズ。
其の四では「小谷城」が堅牢な理由として「細長い尾根」と「水の確保」についてお話ししています。
前回は地形的な観点から水確保の可能性について検証しました。
水を溜め込める地質か?
小谷山山頂と小谷城では、標高に約150mも差があることから、沢から十分に導水が可能だと考えられます。
しかし沢の水は渇水期には減少するので、貯蔵する等の対応が必要だったでしょう。
とは言え、人間が溜められる水の量は限られます。
そのため「湧水量は天候に左右されにくい」のが理想。
つまり「山そのものが水を溜められる天然のタンクになっているか?」も重要です。
「水が浸みこみやすく、かつ流出しにくい」
これが理想です。
山(地面)がそのような性質を持つか否か?については「地質」がカギを握ることになります。
地質図です。詳細については以下記事を参照ください。
オレンジ色がチャートで灰色がメランジュです。
それぞれの「水」に対する性質を考えてみましょう。
チャート
チャートはとても硬い地質ですが、長い年月の間に割れ目(節理)があちこちにできています。場所によっては開口しているものもあるでしょう。
ですので、水は浸み込みやすいです。
しかしガラスのような材質ですので、割れ目に入った水が流出するのも早いです。
メランジュ
メランジュは主に泥岩でできています。
泥岩は細かい粒子が固まったものなので、遮水性があります。
また風化が進むと粘土化しやすく、さらに遮水性が増します。
しかもメランジュはギュウギュウに押されてグチャグチャになった地質なので、大なり小なりの断層が多く発達しています。
断層が動いた時に周囲の地層が破壊されるので、ガサガサの礫状の地質になったり、細かい割れ目も沢山あります。つまり水が浸みこみやすい。
しかも断層粘土と呼ばれる粘土層もあり、そこで遮水されます。
つまりメランジュは水が浸みこみやすい場所もありつつ、泥岩部分や断層粘土で遮水されやすいという特徴を持ちます。
浸み込んだ水があっという間に流出することなく、溜まりやすいと言うことになります。
そのような性質であるため、実はメランジュは地すべりになることがあります。
実際にメランジュの地すべりの調査をしたことがありますが、断層が沢山あり、全体的に水が浸みこんだ地質で、あちこちに湧水がありました。
チャートとメランジュの関係
もう1度、地質図を見てみましょう。
チャートの範囲はブーメランのようなかたちになっていて、両端はとんがってますよね。
これは「チャートが地層として広い範囲に分布しているわけではなく、メランジュの中に入っている」ことを示しています。
つまり、このチャートは周囲をメランジュに囲まれているということ。
地表に露出している場所以外は、メランジュで遮水されます。
想像してみましょう。
ケーキのスポンジに何かジュースを浸み込ませても、ジワジワと出ていきますよね。でも周囲をクリームやチョコレートでコーティングすれば、ジュースはスポンジの中に保持されたままですよね。
つまりチャートに入った水は、一部はすぐ流出したとしても、その他はメランジュに遮水され、保持されると考えられます。
漫画を描いてみました。
地質図をもとに私が想定した地質断面図です。
チャート(オレンジ色)には「開いた割れ目」が入っており、メランジュ(灰色)には細かい断層や割れ目が入っています。
チャートの割れ目には水が入りやすく、どんどん浸み込みます。
しかし、この時点では地下に落ち込むだけで湧水としては出てきません。
一方、メランジュは粘土分に遮水されながらも、細かい割れ目に徐々に水が浸み込んでいきます。
一度浸み込んだ水は、周囲の粘土に遮水されるため地下へ落ち込みにくく、徐々に周囲に水が浸透して溜め込みます。
チャートの割れ目を通った水も、周囲のメランジュに浸み込んでいきます。
メランジュが水で飽和すると、溢れた水が湧水として地表に出てきます。
地下水は地層内に豊富に溜め込まれているので、湧水は枯れにくいでしょう。
以上のように、小谷山は水が豊富なため、小谷城は水に困ることはなく、それが織田軍の攻撃から4年も持ちこたえた理由の1つだったかも知れません。
もちろん、これは地形や地質から私が想定したもので、真実かはわかりません。でもこのように、地形・地質情報から様々な可能性を想定できると楽しいですよね。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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