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流行を知らない子供

子供の頃の我が家は、あまり音楽番組を見ない家だった。

小学生の頃に見たテレビで記憶に残っているのは、アニメ系を除けば金曜ロードショーのような映画番組、連続ドラマ、火曜サスペンス劇場、バラエティやクイズ番組…そこに音楽番組という物は存在しない。チャンネル権のほとんどを持っている親が音楽に興味のない方だったのかもしれない。

だから、所謂J-POPと呼ばれる音楽については長らく知らないままだった。

その存在に明確に気がついたのは小学6年生の時、修学旅行に行くバスの中で「イントロクイズ」をやった時だ。自分が聞いたこともない音楽を皆が知っており、流れる曲を聴いては次々にタイトルを当てていく。そして知っているのが当たり前だというのだ。衝撃的な体験だった。皆が普通にやっていることがさっぱりわからない自分が恥ずかしかった。

当時の自分が知っていたのは、アニメソングと学校で習う歌やみんなのうたに習っていたピアノで弾く曲。それから父が車で流していた古い古い歌、「戦争を知らない子供たち」「りんごのひとりごと」「夢路より帰りて」くらいだ。流行の邦楽なんて本当に何ひとつ知らない、無知な子供だった。

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小学生の間はそれでも、別に困ることはなかった。友達との主な話題は学校で起こったことやアニメや山の秘密基地や廃校に忍び込んで遊ぶことや飼っている犬の話で、歌謡曲の話題なんて出てこなかったから。

しかし中学生になってみると、勝手が違った。

小学生の頃と違って自由に街に出られるようになったおかげで、「カラオケへの誘い」という難問が立ちはだかったのだ。友達の「今度みんなでカラオケ行きたいね」の言葉に、サッと小学生の頃のあの恥ずかしさが蘇った。これは危険だと即座に理解した自分は、どうすれば皆のようになれるのか探りを入れてみることにした。

まず、さりげなく友達にどこで曲を覚えているのか話題を振ってみた。そこで「ミュージックステーション」なる音楽番組がある事を初めて知った。母に宣言して、毎週これを見ることにした。それから歌詞についても「明星」という雑誌を買うと、歌本という新曲の歌詞が載った付録がついてくるという情報を得た。「皆はこういうもので情報を手にしていたのか…!」と、知らない世界の扉を開くことで新たな成長を遂げたような気分になった。

そこからは近所の本屋で毎月雑誌を買っては歌本を手に入れ、音楽番組を録音して、ラジオを聞いて…とひたすらに努力を重ねる日々を続けて。下手なりに友達とのカラオケにも付き合えるようになった。

子供なりに"普通の子"でいる為には、これは必要な行動だと感じていたから必死だった。


長くなったので、また明日。
「流行を捨てた大人」に続きます。


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ユルリラム
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