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味覚オンチ


「おとうさんの、ウソつき」


だって、この焼き鮭、パサパサしてるよ。
トマトグラタンは水浸しだし。
カブの煮物は素材の味しかしない(たぶん味をつけ忘れた)。


それなのに。


「うん、おいしいよ」

って。


へんなの。

おとうさんはきっと味覚オンチなんだ。


こんなまずい料理を「おいしい」って言いながら全部食べちゃうなんて。うん、味覚オンチだ。ぜったいそうに違いない。



子どものころはずっと、そう思っていた。けど、どうやら違ったみたい。


最近の父の口癖は、

おかあさんがつくる料理はなんでもおいしいから。


で、わたしが「そんなわけないじゃーん」というと、今度は、

そう言わなきゃダメって結婚した時からしつけられてるから笑

といって茶化す。


やっぱり、ね。

しつけられている=マズイと思ってることもあるってことじゃん。

現に、父が買ってくるスイーツは味も美味しいし、見た目もおしゃれで、めちゃセンスがいい。そんな父が味覚オンチであるわけがないのだ。



ちなみに母の料理に対する父の発言や行動には、もうひとつ不審な行動や発言がある。


わたしがちっちゃいころ、父は家に帰る前に会社から電話してくるのが常だった。


「ゆきちゃん、おとうさん今から帰るね」

「うん、わかった。何時につくの?」

「21時20分ごろかな。おかあさんにも言っといてね」

「うん!じゃあね!」

「あ、ゆきちゃん。今日のごはんなに?」

「えっとね、サバだよ。味噌で煮たやつ」

「…ゆきちゃん、おとうさん、もうちょっと遅くなるって言っといてくれる?」

「うん、いいよ」


いやいやいやいや。


明らかにサバを避けてるでしょ。


でも決して父は「サバが嫌い」「サバを食べたくない」とは言わない。


夜ごはんが食べれないくらい帰るのが遅くなるか、お昼を食べすぎて食べれないか、母が大好きなスイーツを買ってくるか。サバ(とくに味噌煮)の日は、この3つのハプニングのうちひとつがかならず起こるようになっていた。


そういえば、キノコもだ。


しいたけ、なめこ、しめじ、まいたけ。今も昔も、わたしはキノコが食べられない。「食べれるまでお外に遊びにいっちゃだめ」というほど厳しくはなかったけれど、しつけの一環っぽいことはあった。冬にお鍋をするたびにキノコを盛り付けられ「ゆきちゃん、しいたけもおいしいよ」となかば暗示のように父から言われていたのだ。


その父が、実はキノコ嫌いだったということが判明したのだ。


それもたった2年前に。

旅館の夕食でキノコづくしコース(キノコの前菜にはじまり、キノコ鍋からキノコごはんまで、あらゆる料理にキノコが入っていた)なるものが出てはじめて狼狽している父の顔をみて問い詰めたところ、判明したのだ。

キノコが嫌いで食べられないわたしに比べ、父の場合はキノコを食べることはできる(かろうじて)。だから今まで隠しおおせていたというわけだ。



ここまでのことをまとめると。こと食べものに関しては、父はとんでもないうそつきということになる。


もはや父のいう「おいしい」は信用ならない。



けど。

わたしは、そんな父を憎めない。


だって。どんな料理も「おいしい」と言って食べるのは母の笑顔がみたいからだと思うから。自分が嫌いなものを秘密にしておくのは子どものお手本(もしくはヒーロー)になりたいからだと思うから。


だからお父さん。

これからもずっと、うそをつき続けてね。



「愛」とか「好き」とか直接的な言葉を使わずに、父から母・子への愛、私の父への愛を伝える、という実験をしてみた文章です。

まじめに伝えるのが苦手で、ところどころ(ごめんなさい、大部分でした)ふざけてますが…笑 「愛」が少しでも伝わっていたら嬉しいです♡





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