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すべては知らぬが仏の大博打

先月末、海をゆく者を観てきました。
アイルランドの海沿いの町で、クリスマスイヴに呑んだくれなおじさまたちがぐだぐだしながらポーカーしたりするよ、と聞いては観ないわけにはいかない(真顔)
上演時間は、3時間くらい、あっという間でした。

*以下、ネタバレを避けたい方はそっと画面を閉じてください。


高橋克実さん、平田満さん、浅野和之さん、大谷亮介さん、小日向文世さん。
これでもか、と、錚々たる役者さんたちでがっちりかためられてるので、何というかもうほんとに肩に力の入ってない、もはや演技なのか?くらい力抜けまくりナチュラル呑んだくれたち。
そして台詞が多いぜ…めっちゃ喋るぜ…すごいぜ…(語彙喪失)
2階席だったのですが、言葉がしっかり届く、滑っていかない。
声を張り上げなくともこちらに届く、あまりにも自然体に、なんてことないようでいて脅威的。
吹き出すおもしろさと、でろでろの情けなさと、鼻息荒いシュールさと、しんしんとした哀切が、冷たい石床の上を滔々とあっちにこっちに流されながら滑っていく。
合間に、底に敷かれている愛情がふいに顔を出すので、深みが増す。
この感じ、既視感があるな、と、思ったら、ブレイディみかこさんの『ワイルドサイドをほっつき歩け』だと思いあたりました。
舞台もものすごく好みで、ヨーロッパの半地下の家の中のセットで仄暗くはあるけど、外の天気や時間帯とかがちゃんとわかるような演出をされてて、アイルランドの田舎の錆び錆びした粗雑な海町感がしっかり漂ってて好き。
でもどこかほんのちょっとだけ清らかで。
…超ほんのちょこーっとだけですけど。
マリアさま(イエスさま?遠くてよく見えず)の絵とキャンドルの灯りのおかげかしら。
役者さんのおかげで、見えないはずのバストイレの汚さとか荒らされまくったきったない裏口のドアとかもめちゃめちゃリアルに想像できてしまう笑
とにかくどうしようもない愛すべき呑んだくれおじたち。
私が観たかったのはこれよ…これ…(満足)
リチャード克実さんが弟シャーキーを呼ぶ「シャあぁぁキいぃぃ!」がクセになり、その後しばらくめっちゃ耳に残ってた笑
子どものようにクリスマスめちゃくちゃ楽しもうとしてるの、良いよね。
やりたい放題なリチャード兄ちゃんに文句たらたら甲斐甲斐しく世話焼いちゃう平田さんシャーキー。
浅野さんアイヴァン、可愛い、癒し、いてくださるだけで和む、とりあえず部屋のどこかで呑んでてください。
大谷さんニッキー、力いっぱい空気読まねぇ、けどどこかしら気遣いがあって憎めない。
小日向さんロックハート、読めない笑顔のサスペンス要員ですが、結局どっか抜けてておもしろい。

何度かダークな感じにお話の流れが傾きそうになるのに、呑んだくれ天然おじたちはすぐおもしろい方に持ってっちゃう(´∀`*)フフ
なんなんでしょうね、現実でもああいうぐだぐだのおじたちがよくわからん漫画みたいな、植木等みたいな感じでミラクル展開を起こしちゃうんですよね、マジで。
人生って不思議…
そんなわけで、ラストも良い意味でなんだかぽっかりあっけなくて、平田さんと一緒に「え…ほんまに…何やったんや…」と、ぽかん…としてしまいました。
(その直前は小日向さんと一緒に「……は?」ってぽかんとしましたけど笑)
最後に、クリスマスの朝、冴え冴えとした静けさの中で、ふっと気が緩んで微笑んでしまう。

カーテンコール、きゅっと5人のおじさまたちがひっついてはけてくのがまた何だかとても可愛らしくて、栄養価の高い観劇だったなぁとにこにこしてしまいました。

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