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Jリーグ 観戦記|Jの灯火|2021年J1第1節 川崎F vs 横浜FM

 白縹(しろはなだ)に空が、空気が染められていた。遠くからグリーン・デイの『Basket Case』が耳に流れてくる。「待ちに待った」と表現するのは大袈裟だ。しかし、二カ月ぶりのJは僕の心拍数を浮き立たせる。

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 空白のスタンドが日本の現状を語る。横たわる熱源からの距離。そして、冷めゆく熱。しかし、その火が消えることはない。世界は静かだ。だからこそ、小さいながらも燃え盛る、炎心の強さを感じずにはいられない。感情の渦がここにある。じかに触れ、僕の眼を涙が薄く包む。

 試合を遠く感じた。久しぶりだからか。仕事に意識が奪われているからか。いつもとは異なる席だからか。無数の考えが頭に浮かぶ。僕の勝手な感想だが、幕開けの試合特有の浮遊感が肌を流れる。

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 山根の裏をロングボールがえぐる。マリノスの流儀に反する戦いぶりに、勝利への意欲を見せつけられた気がした。その勢いを跳ね返すかのように、レアンドロ・ダミアンが狼のごとくマリノスの守備陣に向かって疾走する。その光景は十二月に見た光景と何も変わらない。川崎は今年も川崎だ。

 パスが繰り出される。同時に周囲の選手たちがスペースへと侵入する。脇坂と田中がパスをつなぎ、山根がマリノスの喉元とも言えるペナルティエリアの角へと駆ける。脇坂からの正確なロブ、山根による高精度のヒール、家長のボレー。マリノスが築いた白の牙城を完全に崩した。そのゴールは美しい。それは長年の鍛錬が香り、才能の輝きによって裏打ちされているからだ。

 僕はマリノスのサッカーが好きだ。得点を奪うことを志向する攻撃的姿勢。「攻守」と分けることなく、すべての一挙手一投足はゴールを目標とする。血をたぎらせるロックンロール。しかし、眼に映るマリノスはその音量を下げたかのようだ。マルコス・ジュニオールの不在。そして、エリキとジュニール・サントスの退団。昨季の記憶は脳裏に鮮やかな色を残す。

 川崎は重心を下げても、相手ゴールとの距離が開くことはない。自陣でボールを奪う。刹那、ボールはマリノスの陣地へと運ばれる。ボール奪取と飛び出しの一体化。ゴールを奪うために作られた機械のような連動性。その流れるような動きに、僕は小さな唸りを上げる。

 登里の傷は癒えず、守田はチームを去った。川崎は変わった。ボールの流れに滑らかさと勢いをもたらした名手たち。同一の動きを見ることはないだろう。しかし、左サイドを埋めた旗手は果敢に駆け上がり、時にゴール前へと身を移し、攻撃を加速させた。新加入のシミッチは巧みな動きと足捌きで試合に地色を敷いた。

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 今年もJリーグが始まった。それは、日常に新たな彩りが加わることを意味する。試合ごとに紡がれる新たなストーリー。無数の物語が待ち受ける日々を思い、季節の移ろいを感じていきたい。

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川崎F 2-0 横浜FM 

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