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ロシアW杯 観戦記|日本 vs ポーランド|1

 ヴォルゴグラード・アリーナの前でパヴェルと別れ、道筋を探しながら、指定されたゲートへと向かう。一つしかないのか、僕と蓮木くんのチケットには同じゲートが記されている。今回は席も近いようだ。時刻は三時七分、観光は思ったよりも早く終わった。柵で仕切られた長い通路を右に左に進んでいき、ゲートへと辿り着く。今までと同じように、チケットとファンIDを見せ、荷物の検査を受ける。確認は厳しくもなく、すぐに場内へと入ることができた。ルジニキ・スタジアムで体験した苛烈さから比べると、同じ大会とは思えない。

 青い空をバックにヴォルゴグラード・アリーナの全景が広がる。網目模様のファサードが特徴的で、北欧デザインのランプシェードのようだ。細かい網目模様を見て、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した、北京の国家体育場が脳裏をよぎった。太陽に当たっていても仕方がないので、スタジアムの中へと進んでいく。中はまだ閑散としていた。天井が高く、ファサードが客席を覆うように作られていることを知る。スタジアム外でも感じたのだが、ポーランドがすでに敗退している状況もあってか、ぴりぴりとした雰囲気はまったくなく、日曜日の野外ライブ会場にでもいるような錯覚に陥る。そんな雰囲気に、日本が引っ張られないことを僕は願う。

 正確な位置を確認するため、席へと向かう。チケットに示された門を見つけ、そこを抜ける。僕たちはバックスタンド、メインスタンドから見て右のコーナーフラッグの近くだ。蓮木くんはピッチにかなり近い。緑の芝生が太陽を浴びて、背伸びでもするように輝きを放っている。バックスタンド全体に太陽が牙を向く。眩しいを通り越して、白い世界がそこにはあった。薄い白のフィルターが僕と世界との間に横たわっている。まるでフライパンの上で焼かれているパティのような気分だ。肉汁が滴るように、汗がじんわりと身体中の毛穴から噴き出していくのが感じられる。僕たちはそこから避難するように門の外へと駆け出した。近くの売店でバドワイザーとミネラルウォーターを購入し、一息つく。蓮木くんは元気がない。熱にやられているのだろう。

「試合が始まっても、太陽が差していたら、他に空いている席を探します」と口にする。

断固たる意志を感じる。それは体調のことを考えれば、賢明な判断と言えなくもない。真夏の高校球児でもあるまいし、灼熱の太陽が差す中でじっと座って観戦するのは、自分から熱中症にかかりにいくようなものだ。それに加えて、この試合はポーランドにとっては消化試合となるため、満員になることはないだろう。しかし、試合の直前で席探しに右往左往するのも気が引けたし、自分が手に入れた席で試合を観戦したいという気持ちが僕にはあり、素直に蓮木くんの申し出に頷くことができずにいた。

「そうですね。とりあえず、様子を見ましょうか」と僕は結論を先に延ばした。

続く


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