米球界を悩ませるイスラエルとハマスの軍事衝突

去る10月31日(火)、日刊ゲンダイの2023年11月1日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第149回「米球界を悩ませるイスラエルとハマスの軍事衝突」が掲載されました[1]。

今回は、今年10月7日に起きた武装勢力ハマスによるイスラエルへの奇襲とその後の状況の推移が米球界に与える影響を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


米球界を悩ませるイスラエルとハマスの軍事衝突
鈴村裕輔

今年10月7日に起きた、武装組織ハマスによるイスラエルへの奇襲は、現在も解決の兆しが見えない。

自国に対する攻撃に徹底して報復することで、相手によるさらなる侵攻を抑止する効果があると信じるのがイスラエルである。

一方、ハマスによる侵攻を受けて動員した予備役も、普段はそれぞれの仕事がある中での召集となる。そのため、長期にわたる動員はイスラエル社会の日常生活の混乱をさらに加速させることになりかねない。

こうした状況から、一時休戦を経ながら、イスラエルがハマスへの攻撃を再開したことは不思議ではないと言える。

一方、このような情勢は、米国のスポーツ界とも無縁ではない。

例えば、メジャー・リーグ・サッカー(MLS)は、イスラエルとハマスの武力衝突を受け、観客が競技場内で中東情勢に関する何らかの主張を記した旗やティフォ、バナー、あるいは何らかの印などを掲示することを禁止する暫定措置をとっている。

特に欧州や南米のリーグで些細なことから観客同士の衝突が起こる光景が珍しくないサッカーだけに、MLSも事前に無用の混乱を回避する目的で試合会場の統制を図っていることが分かる。

また、大リーグも例外ではない。

球団経営者の多くが支持する共和党も、一定の割合の選手が期待を寄せる民主党やバイデン政権も、いずれも親イスラエルという点では共通しているし、球界にはユダヤ系の経営者や選手も少なくない。

しかし、例えばアラブ首長国連合、インド、パキスタンを本拠地とする4球団により中東初のプロ野球リーグ「ベースボール・ユナイテッド」が発足し、今年11月に最初の試合を開催したという現状を考えるだけでも、球界の対応は難しいものとなる。

すなわち、大リーグ機構が直接関与していないものの、機構が望む未開拓の地での野球の普及が緒に就く中でどちらか一方に肩入れすれば、その機運もしぼみかねないのである。

それだけに、侵攻開始から3日後にハマスによるイスラエルへの侵攻を非難しつつ、あらゆる暴力や憎悪を否定するとすることで間接的にイスラエルにも自重を促した声明を機構が出したことは、球界の苦悩を示しているのである。


[1]鈴村裕輔, 米球界を悩ませるイスラエルとハマスの軍事衝突. 日刊ゲンダイ, 2023年11月1日号27面.

<Executive Summary>
The MLB Is on the Horns of a Dilemma about the Israel-Gaza War (Yusuke Suzumura)

My article titled "The MLB Is on the Horns of a Dilemma about the Israel-Gaza War" was run at The Nikkan Gendai on 31st October 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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