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AIを用いて降圧のメリットの大きい人を直接見つけて治療した方が、高血圧の人の血圧を下げるよりも合併症を防げる可能性が明らかに

私達の研究グループからの最新の論文が公開になりました。この研究では、血圧の高い人を降圧(=血圧を下げる)する現在の医療のアプローチよりも、最新の機械学習(因果フォレスト法)を用いて降圧の推定されるメリットの大きい人を降圧するアプローチの方が、高血圧の合併症になる人を減らす効果が約5倍大きいことが明らかになりました。

AI・機械学習の時代において医療の根本的な考え方を変えるポテンシャルのある研究だと思われます。

京都大学大学の井上浩輔先生(筆頭著者)、スタンフォード大学のスーザン・エイシー先生(因果フォレスト法を開発した経済学者)と行った研究結果になります。

従来の医療において治療する対象集団を選定する際、心血管疾患や死亡などの発生率の高い “高リスク患者”の治療を優先してきました。「高リスク」患者に注力するという意味で、これを高リスク・アプローチと呼びます。一方で、近年急速な発展を遂げている機械学習を応用することで、個人レベルの治療効果を推定することができ、推定される治療効果の高い集団(高ベネフィット患者=高メリット患者)にターゲットを絞ったアプローチが可能となってきました。本研究チームはこのアプローチを高ベネフィット・アプローチと命名し、その有用性を高血圧診療における2つのランダム化比較試験(SPRINTおよびACCORD-BP)と米国の一般集団コホート(NHANES)のデータを用いて検討しました。

本研究では、心血管イベント発症リスクの高い人(高リスク患者)が必ずしも厳格な降圧管理(収縮期血圧を120mmHg未満に下げる管理)による効果が高いわけではないことがわかりました。また、高ベネフィット・アプローチによって治療集団を選んで介入することで、従来の高リスク・アプローチよりも患者集団全体で享受できる治療効果が5倍程度大きくなることが明らかとなりました。これにより、高ベネフィット・アプローチを応用することで、厳格な降圧管理を受けるべき個人を効率的に同定し、介入によって得られる効果を最大化できる可能性が示唆されました。

本研究成果は、個人の治療効果に着目した高ベネフィット・アプローチのコンセプトを確立し、その有用性を示した点で、機械学習を応用した次世代の個別化医療の礎になると期待されます。

(出典:Inoue, Athey, Tsugawa IJE 2023

本研究成果は、国際学術誌「International Journal of Epidemiology」(オンライン)に公開されました。

https://academic.oup.com/ije/advance-article/doi/10.1093/ije/dyad037/7102233


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