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宝島の救急搬送の話

2017年の年末。私が教えていた柔道クラブの子供も増えてきていた。保護者や、遊びに旅行者にも参加してもらう。

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美江子さんの体調不良

そんなある日。美江子さんが熱を出した。

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滅多に体調を崩さない美江子さんだが、朝からどうも様子がおかしく、熱っぽい。事業所にて安静にし、タイミングよく来た巡回診療で来島していたドクターの往診を待った。

「美江子さん、具合はどう?」スタッフが心配そうに声をかける。熱っぽい表情で目だけ向ける。反応がよくない。腹部に手を当てると、美江子さんの表情は苦痛で歪んだ。

救急車は来ない

往診したドクターの表情は優れない。(内臓が炎症を起こしているかもしれない)「ここでは診れないから、診療所に行きましょう。」救急車はない。

消防団を要請して、美江子さんを搬送した。

診療所へ着いた美江子さんは、目に力がなくなっていた。(食事がまともに食べられていない。これは、低血糖の症状かもしれない。)すぐに点滴が開始された。
美江子さんには、脳梗塞の既往歴がある。意識障害を見て、ドクターは迷った。(これは、もしかしたら、頭の方かもしれない…)

今日は、船は来ない。

ドクターは、ドクターヘリの要請を決めた。2016年の年末から、宝島へのドクターヘリは、奄美大島から飛んでくる。これまでの鹿児島への搬送時間と比べれば、格段に早く搬送できる。(脳に原因があるとすれば、早い方がいい。)

あっという間に、ヘリは飛んでくる。看護師は、ヘリの要請を前に大急ぎで記録書類を揃えた。娘であるあつ子さんは、美江子さんと一緒にヘリに乗るために、入院に備え支度をした。

その間、美江子さんは意識は戻ってはいたが、見当識障害が出ていた。ドクターやを「船長さん」と呼び、うわ言のような言葉を繰り返す。娘であるあつ子さんも、はっきりとは認識できていない様子だった。

僕は搬送中の公用車の中で点滴を持ち上げながら、美江子さんの表情を見ていた。美江子さんの目は不安でいっぱいだった。しばらくして、ヘリが到着。

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救急隊員に引き渡される。すぐに申し送りが済まされ、大きな音と風の中、ヘリは再度離陸していった。

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