ストレッチは何秒やるのがいいのか?

こんにちは!

フィジカルトレーナーの酒井です。

現在私はフィットネスジムでパーソナルトレーナーとして勤務しています。

先日、フィットネスジムの従業員の方から、以下のような質問をいただきました。

「ストレッチは何秒やるのがいいのでしょうか?」

「ストレッチは何セットやればいいのでしょうか?やればやるほどいいのでしょうか?」

このような質問でした。

私の返答としては、

・間接可動域の改善目的であれば、スタティックストレッチは20〜30秒


そこで今回は、上記の質問について答えるべく、根拠になりうる論文を掲載していこうと思います。


まず、厚生労働省の生活習慣病予防のための健康情報サイト

「e-ヘルスネット」によると、

時間を20秒以上かけて伸ばすこと。
最初の5-10秒程度は適度な伸展度合いに定めるための「ムダな時間」だからです。

と書かれています。

また、このHPの参考文献としては、

「Bandy WD, Irion JM, Briggler M.
The effect of time and frequency of static stretching on flexibility of the hamstring muscles.
Phys Ther 1997; 77: 1090-6.」

が掲載されています。

以下、Bandy WDらの論文の要旨をGoogle翻訳したものです。

「ハムストリング筋の柔軟性に対する静的ストレッチの時間と頻度の影響」
概要 背景と目的:静的ストレッチの頻度と期間は、広範囲にわたって調査されていません。さらに、1日あたりの複数のストレッチの効果は評価されていません。この研究の目的は、膝伸展可動域(ROM)で測定した、ハムストリング筋の柔軟性を高めるための静的ストレッチの最適な時間と頻度を決定することでした。被験者:21歳から39歳までの範囲でハムストリング筋の柔軟性が制限されている93人の被験者(男性61人、女性32人)が5つのグループの1つにランダムに割り当てられました。 4つのストレッチグループは週5日6週間ストレッチしました。コントロールとして機能した5番目のグループは伸びませんでした。方法:データは、1つの変数(テスト)で反復測定を行うための5 x 2(グループxテスト)の二元配置分散分析で分析されました。結果:柔軟性の変化は、ストレッチの持続時間と頻度に依存しているように見えました。データのさらなる統計分析は、ストレッチしたグループがコントロールグループよりも多くのROMを持っていることを示しましたが、ストレッチグループ間で違いは見つかりませんでした。結論と考察:この研究の結果は、ROMを増加させるためにハムストリング筋のストレッチを維持するのに30秒の持続時間が効果的な時間であることを示唆しています。ストレッチの持続時間が30秒から60秒に増加した場合、またはストレッチの頻度が1日1回から3回に増加した場合、柔軟性の増加は発生しませんでした。


つまり、ストレッチは30秒の持続が関節可動域の改善に効果的であり、それ以上長時間のストレッチをしても、更なる関節可動域の改善は期待できないとのことです。


次に、獨協医科大学越谷病院の谷澤 真先生らは、

「短時間の静的ストレッチングが柔軟性および筋出力に及ぼす影響」について研究・報告されています。


以下、要旨です。

【目的】短時間の静的ストレッチングが柔軟性や筋機能にどのような影響をもたらすかについて,未だ一定の見解 が得られておらず,最も効果的な伸張時間も確立されていない。そこで,静的ストレッチングにおける伸張時間の違い が柔軟性および筋出力に及ぼす影響について検討した。【方法】健常成人 20 名を対象とした。伸張時間を 30 秒間と 6 秒 間の 2 条件に定め,柔軟性の評価として SLR を測定し,筋出力の評価として BIODEX を用いて等尺性膝屈伸筋力,等速 性膝屈伸筋力を測定した。【結果】伸張時間が 6 秒間では関節可動域は拡大しないものの筋出力は向上し,30 秒間では関 節可動域は拡大したものの筋出力は低下した。【結論】静的ストレッチングは伸張時間の違いにより効果が異なり,目的・ 用途に合わせて伸張時間を選択する必要があることが示唆された。

これは面白い内容ですね。

上記論文によると、

30 秒間の静的ストレッチングは、神経-筋系に対する沈静作用が大きく、リラクセーション効果として柔軟性が向上、筋出力が低下するそうです。

一方、6 秒間 の静的ストレッチングは、神経 ‒ 筋系に対する沈静作用効果は低いと考えられ,ウォームアップ効果として筋出力を向上させる効果の方が大きいことのことです。

静的ストレッチングの伸張時間の違いによって効果が異なるとは興味深いですね。


また、渡邉 博史先生らはストレッチの持続時間とその効果について検討した研究を報告されています。

「静的ストレッチングの効果的な持続時間について」

渡邉先生らによると、

・10秒のストレッチでは、大腿四頭筋緊張度に有意な低下を認めなかった。
・このことから、ストレッチの持続時間として 10 秒では、不十分であ ることが示唆された。
・20秒、60秒ストレッチでは、大腿四頭筋緊張度に有意な低下を認め、ストレッチの持続時間として20 秒〜60秒は有効であることが考えられた。
・20秒と60秒ストレッチとの効果の差については明確にすることはできなかった。
・60 秒のストレッチは長すぎると思われ、一般的に20 秒程度を適当としていることは妥当と考える。

とあります。

厚生労働省のe-ヘルスネットに記載されている、

”時間を20秒以上かけて伸ばすこと。”

という文言は、上記の研究からも妥当と言えると思います。


次に、水野 貴正先生の「ストレッチング・サイエンス」から内容を一部引用させていただきます。

Boyce らはハムストリングに対して 15 秒のストレッチングを 10 セット行い、関節可動域 の変化を検討した。その結果、1 セッ トのみでも関節可動域は増加すること、5 セッ ト目まではセット数の増加とともに可動域の増 加量が大きくなること、6 セット目以降はプラ トーに達し 5 セット目以上の可動域の増加がな いことを明らかにした。つまり、ハムストリン グの可動域を増加させるためには、15 秒を 1~ 5 セット行えばよいのである。しかしながら、 ストレッチングを行う部位によって、ストレッ チング時間を変えなければいけないかもしれな い。同じストレッチング時間であっても、ハム ストリングは下腿三頭筋や大腿四頭筋に比べて 可動域の増加量が大きい傾向が見られる。 つまり、下腿三頭筋や大腿四頭筋はハムストリ ングよりも長い時間ストレッチングすべきであ る。

ストレッチのセット数は1〜5セットが効果的であるとされているそうです。

インターネットサイトで検索すると、多くは3セットと記載されていることが多かったのですが、これは上記の1〜5セットの間をとって3セットと記載しているのでしょうか…?


最後に、市橋則明先生の「ストレッチのエビデンス」から、内容を一部引用させていただこうと思います。


1)ストレッチングにより筋力は変化するのか?

筋力や筋パワーに関してはストレッチングにより低下するとの報告が多くみられる。
ストレッチングの持続時間を比較すると,ひとつの筋群に対するストレッチング時間が 90 秒を超 えると,それ以下と比較して筋力の低下があきらかとなると報告されている。
それより短い時間のストレッチング については結果にばらつきがあるものの,短時間(45 秒以下) のスタティックストレッチングは,ほとんど筋力を低下させな い(‒ 3.2%)のに対し,46 ~ 90 秒では ‒ 5.6%,90 秒以上では ‒ 6.1%とあきらかな低下を示すなど,短時間のストレッチ ングでは筋力低下の影響は少ないといわれている。
ダイナミックストレッチング においても時間と等尺性筋力,等速性パワー,1 RM の関係についてのレビューが あり,スタティックストレッチングの場合とは異なり,ストレッチングによる低下は見られず,長時間のストレッチングでは筋力が向上するとしている。

長時間(90秒以上)のスタティックストレッチでは筋力は低下し、短時間(45秒以下)では筋力はほとんど低下しなかったそうです。

また、ダイナミックストレッチにおいては筋力の低下はみられず、長時間実施することで逆に筋力が向上するとしています。

2)ストレッチングによりパフォーマンスは変化するのか

Behm らは,スタティックストレッチングがジャンプ,短距離走やランニング効率に与える影響に関するレビューを行い,ジャンプに ついて機能が低下すると報告しているものが有意差なし,あるいは改善を報告しているものよりはるかに多く,平均で 2.7% の低下がみられたと報告している。
さらにジャンプパフォーマンスとストレッチング時間の関係についても検討し,90 秒以上のストレッチングで,それ 以下と比較して有意にジャンプ高が低下するとしている。
短距離走やランニング効率については,変化なしと報告するものが多く,ストレッチングが悪影響であるとはいえない。このように,パフォーマンスによってストレッチングの影響は異なるようである。
ダイナミックストレッチングに関しては, パフォーマンスを低下させない,あるいは向上させると報告されている。
パフォーマンスや筋力も向上する可能性のあるダイナミックス トレッチングをウォームアップに取り入れるのは合理的なことであろう。
Behm ら 4)は,速い動きや爆発的な動きが必要な場合,少しのパフォーマンスの低下も問題となる状況ではスタティックストレッチングの実施には十分な注意が 必要であること,スタティックストレッチングによる関節可動域の改善はあきらかなため,特に静的柔軟性が要求されるス ポーツや健康増進のためにはスタティックストレッチングもよいこと,特に長時間のダイナミックストレッチングは神経筋シ ステムを賦活化させ,パフォーマンスを向上させると結論づけ ている。

90秒以上のスタティックストレッチでジャンプ力は低下するが、短距離走やランニング効率については変化がみられず、パフォーマンスによってストレッチングの影響は異なることが分かったそうです。

ダイナミックストレッチについてはパフォーマンスや筋力向上の可能性があるため、ウォームアップにはダイナミックストレッチが進められています。

3)ストレッチングは傷害予防に効果があるのか


ストレッチングの傷害予防効果についても,近年では否定的 なレビューがみられる。
現時点では,ウォーミングアップとストレッチングに加え, 筋力トレーニングやプライオメトリックス,固有感覚トレーニ ングを実施した場合にパフォーマンスの向上,一定の傷害予防効果があるという説が有力である。

ストレッチングの障害予防効果については否定的なレビューや不明な点も多いが、現時点では一定の障害予防効果があるという説が有力とのことです。

4)ストレッチングは遅発性筋肉痛を防止するのか

ストレッチングにより遅発性筋痛を軽減できることを示唆している。しかし,レビューでは,ストレッチング による痛みの軽減効果はわずかであり,臨床的に意味のある差 ではないと結論づけている。ただし,遅発性筋痛の機序は依然 未解明であり,筋線維中のサルコメアの過伸張が遅発性筋痛の 原因であるとの Proske ら 31)の説が正しいと仮定すると,特 に筋の短縮の見られる者に対しては,サルコメアの数を増やす ようなストレッチングは有効である可能性もある。

いわゆる筋肉痛に対してのストレッチングの効果は、臨床的には実証されていません。しかし有効である可能性もあるようです。

まとめ

今回は

「ストレッチ行うのが良いのか?」

という疑問について、根拠となりうる研究・報告論文を掲載してみました。

まとめると、

・関節可動域改善目的のスタティックストレッチは20〜30秒×1〜5セット

・それより長時間、高セットのストレッチをしても可動域や柔軟性が改善するわけではない

・長時間のスタティックストレッチは筋力の低下を招く可能性がある

・筋力向上目的にはダイナミックストレッチが合理的といわれている

・競技前のウォーミングアップなどにはダイナミックストレッチが勧められている


以上となります。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。


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