大人になると失うもの。得られるもの。

「例えば、自由とか?」

「自由もそゆ意味だとそだね。ちょっと広いかな。」

「ん、具体的にイメージしてみると、せやな、自由って感覚とか、なんでもできる感とか、守ってもらえてる感とか。つまり安心?とか。俺はちっこい時から内向きやったから、そんなに強い方ではなかったけど、できる感。むしろ今の方が出来る感は強い。」

「またそういう言い方してw 安心ねえ、確かに。なんでも自分でしなくちゃならないからね。家に帰ればご飯あるし、洗濯もしてくれるし、私は今も変わらず。上げ膳据え膳甘えてますw」

「外に出て初めて実家の有り難みが分かるよね。1人で外に出ても甘えてると部屋はどんどん散らかるし、飯も作らんと身体にも悪い、酒におぼれて財布も軽くなり、冴えないおじさんまっしぐらw」

「あんたは大丈夫ですよw 真面目だから。」

「うん、もちろん。 自由、できる感。子供の時の自由感と、大人になっての自由感はだいぶ質が違う気がする。あとはなんかあるやろかな。

・・・自由に近いけど、表現とか、自分を出すとか、ああ、これは子供の時のが強いんやろうね大多数の人は。めっちゃちっこい時って、なんも考えんでよかったからな。思ったこと自由にやってみて、怒られたら泣く。他人の目を意識しだして、徐々に出せなくなる。日本人だと空気読むようになる。」

「確かに、空気はめんどくさいね。でも表現って経験積めば洗練されてくるじゃん。描くにしても喋るにしても、感じたこと、学んだこと、その人の歴史が全部付いてくるんだよ。」

「そうそ、出来る感もそういう意味だと同じやね。表現って意味だと、何年か前にさ、社長に言われた言葉があるんですよ。」

「どんなこと?」

「うん、仕事がすげー上手くいかんくて疲労してた時。なんで疲労してるかって、仕事自体というよりも上司との関係やったけど。」

「なになに?いじめられてたの?w」

「まー、自分が仕事出来んかったってのはあるけどね。仕事始めて2、3年くらいかな。詰め詰めされてたんですよ。一回り上のちっちゃいおじさんに」

「ちっちゃいおじさん、君もその入り口にたってるよw」

「せやな、『ちっちゃい』と『おじさん』は不可避やからな。到達が早いかどうかは時間の問題やから。でも悪あがきは出来る限りするつもり。

・・・ じゃなくて、そう、当時の上司がなかなか厄介な人で、なんちゅうんかなー。なんかこう、相手に都合よく都合よく、言われっぱなしになるんよね。」

「まあ、君が真面目に話聞き過ぎってのもあるんでしょ。話聞いてくれる人は貴重だからさ。与えるものも多いけど、取られるものも多いからね。」

「与える、と取られるって、減るだけやんけ!」

「あはは、自覚してるでしょ」

「まあね。その分得られるものは自分の器、みたいなw」

「そうそ、自分の器広げて自分で満たせるうちは良いんだよ。器がカラカラになって、ひび割れなければ大丈夫」

「そうね、たまにそゆ時あるわー。ビシッとヒビ割れてエネルギーダダ漏れになる時もあるしね。年に2回くらい。でもなんやかんや大丈夫なんよね。話聞いてると、時々継ぎ足してもらえる瞬間ってのがあって、すげーハッピーな気分になるんだわ。ありがたいことに。器が潤う感じ。」

「いい受け取り方してるってことだよ。」

「かな?、、、なんの話してたっけ。

・・・ そうそう、当時のちっこいおじさん上司にネチネチ詰め詰めされててさ、なんも言い返せんかったんよね。言い返すと余計めんどくさい事になって。一個すげームカついたのがあったんですよ。なんかでトラブってさ、こっちが気いまわしてフォローした仕事やから話してて。明らかあんたのミスでしょってのをなぜかネチネチ詰められたんよね。言い返すと、『キレたでしょ。今キレたでしょ。』って楽しそうに嫌らしく言ってくるんですよ。『めんどくさ、キレてねーよ』って腹ん中で抱えてだんまりしてた。」

「うわー、めんどくさ。まあ1組織に1人はいるよね。」

「そう、そんな感じで一年くらい仕事してたら、まーきつくなってさ。社長が気にして飲みに連れてってくれたんですよ。」

「優しい社長じゃん。」

「うん、当時はすげーお世話になった。飲みながら仕事のこと話してて、やっぱ社長もその上司には手を焼いてたみたいなんだわ。」

「へー、逆にその上司大変だね。下からも上からもそんな風に見られて」

「横からも、斜め下からもねw

それはそれとして、社長が鋭く俺にも問いかけてくるわけですよ。『あいつに癖があるのはわかるけど。抱えて黙っちゃうのなんでだ?思ってること、知ってること、持ってる情報、思ってる事伝えないと、仕事も進まなくなってストレスも溜まるだろ』って。『相手が怖いからですかね』って返したけど、『まあ仕事は相手があるからな、それでも思ってることをキャッチボールするだけだぞ、相手がどう感じようと、ボールは返さないとだめだ』って。で『単に、自分を出すのが怖いんですかね?』って返して。『なんで自分を出すのが怖いんだ?』って次の問いがきて、それ言われて、なんでやろうって、、、しばらく答え出ずにダンマリしちゃったんよね。『なんででしょうねー、、、』って」

「ああー、そういう時あったんだね。なんとなくわかるよ、性格だねって片付けられるけど、たまにいるね。新人だとそういう感じで苦労する人」

「そそ、で、ちょっと社長の話も辛くなってきてさ。自分に問いかけまくるわけですよ、なんでかなあ、なんでやろう、緊張してきて。『ああ、自分ってやっぱ仕事できんし、会社にあってへんのかなあ、早く楽になりたい解放されたいグルグル』みたいな感じ。」

「あはは、よっぽど疲れてたんだね」

「そう、で、しばらくだんまりしてたら言われた一言があってさ。結構影響受けてる。『きっと、お前の中で自分を出す能力が2歳児で止まってるんだ』って。」

「うわあ、、結構、キツめな言い方するね、社長」

「やろ。結構ショックで、『そんな事ない』ってのと『そっか、そうやったんや』って感情が両方出てきて、モヤモヤっと考えてた。したら社長が続けて『まあ、たまたま自分を出す力が2歳児で止まってるだけだ。それが全てじゃないし、お前が俺より先を行っているものもある。たまたま出遅れているだけだ。出遅れているなら、追いつけば良いじゃないか。今気づいたんだから。他の人に20年遅れているなら、10年かけて追いつけば良い。もしかしたら、3年、5年で追いつけるかもしれない』って。言われて、なんか涙出そうになった。今喋ってても出そうやけど」

「社長、すっごく気にかけてくれてるね。ある意味愛だよ。」

「そうね。有難いと思ってる。そっから5年くらいたったかな、多分、だいぶ追いついてきてる気はする。」

「大人の成長だね。年齢重ねて人との関わりが増えると、客観的に見えるようになるんだよ。子供ってさ、真っ白じゃん。生を受けて、お母さんのお腹の中で育って、外の世界に出てるまでは感覚器も未熟なまま。ずっと真っ暗、音は聞こえているのだろうけど、生まれ落ちてしばらくは本能のまま。声をあげて、音を聞いて、光、お母さんの表情を見て、抱きかかえられ、少し経つと愛情受けたり躾られて育ってく。一つ一つの刺激の与える影響が物凄く大きい。余計なことを考えずに全力を注ぐことができる。動き疲れて眠るまで。もしくはお腹すいて泣き出すまで」

「2歳児は言い過ぎかもしれんけど、子供の自由なエネルギーって、方向性がどこ向くかわからんくて、俺の場合は自制する方向に多分舵を切ったんやろうな。」

「悟るの早すぎでしょ!w  そういう人って、エネルギーを内側にウニャウニャって向けて閉じこもる傾向にあると思うんだけど。」

「閉じこもってるよw  閉じこもってるけど、多分親のおかげかな。適度に放任に育てられたことが良かったんかなあって思うわ。バランスとれたかなって」

「なるほどね。アウフヘーベンだよね。」

「アウフヘーベンって、、、あれか、矛盾を受け入れるみたいなやつ?」

「そそ。アウフヘーベン。自由に使って良いエネルギーを自制に使う。卑屈になりそうだけど」

「あー、わかる。自分の持ってるものって、全部誰かからもらったものだと思っててさ、言葉とか、仕草とか、好きなものとか。もらったものを全部抜いたらなにが残るか考えた事があって、残ったのは素直さと卑屈さ、なんよね。めっちゃしっくりきた。アウフヘーベンって、便利な言葉やな。頑張るために頑張らない、みたいな」

「便利に使う言葉じゃないってw理屈っぽくてモテないぞ」

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20180331 会話劇

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