🍥燻製レモンケーキ🍥
ショートケーキでもなく、チョコレートケーキでも、タルトでもない。
レモンケーキを誕生日にリクエストするあたりが妻らしい。
当たり前だが、夫婦とは生涯を共にする相手である。
ここは丁寧に美味しくこしらえて、夫としての株を上げておきたいところだ。
しかし、私は夫であると同時に煙属性でもある。
いくら大切な妻の誕生日といえども、
燻製をせずにはいられない。
ヘンドリックスがストラトキャスターと出逢わずにはいられないようにだ。
いつの間にかジミヘン夫婦の話になってしまった。私の伴侶の話に戻そう。
早速、材料を燻製にしていく。
卵とグラニュー糖をミキサーで泡立てる
ふるった小麦粉、おろしたレモンの表皮を加え混ぜる
湯煎で溶かした燻製バターを加えて混ぜる
上記のジェノワーズ法で作った生地を焼いていく。
あたかも玄人のようにジェノワっているが、たった今ググって得た知識だ。素人のおっさんにもちょっとぐらい賢ぶらせてくれ。
中年男性の情念とともに180℃で焼いた生地の粗熱を取り、
濾したアプリコットジャムを塗る
粉糖とレモン果汁を混ぜたアイシングを塗る
砕いた燻製ピスタチオとレモンの皮をあしらう
お菓子作りに熟練した人物には、目を瞑って般若心経を唱えながらでも作れるほどのイージーなケーキかもしれない。
しかし、私は煙にまみれた不器用な素人だ。
代謝能力の低下に悩む中年男性だ。
このレモンケーキをひとつ作るだけでも脈が乱れ、毛髪は抜け落ち、寒い朝には膝が痛んで二日酔いに苦しむほどの大仕事なのだ。
このケーキが出来上がったのは、レシピでも材料でもなく、はたまた手際でも道具でもない。
妻への心ばかりの感謝と、
執念だ。
ふんわりとしすきず、キメが細かく適度に充実したケーキで、バターとピスタチオの豊かな風味と、ほのかなスモーキーさが漂う。
そして、何よりもレモンの香りが抜群だ。
当たり前である。
皮も果汁もたっぷりと使っているのだ。これでイカスミの風味が口いっぱいに拡がるようなら、七代前の先祖がイカと血で血を洗い墨で墨を濯ぐ争いを繰り広げていた可能性が高い。
イカ呪いはさて置こう。
ケーキに溶け込んだ柔らかいレモン。アイシングの鮮烈なレモン。
さわやかで、どこを切り取ってもさわやかで、得も言われぬさわやかさがあって、何というか、こう、さわやかだ。
この燻製さわやか執念ケーキで、妻も無病息災で一年を過ごせるにちがいない。
余談だが、レモンゼスターで皮をすり下ろす工程で、果汁が跳ねて目に入り悶絶した。
料理や飲み物にと使い方は多岐にわたり、世界中で愛されるレモンだが、目に入った途端に牙を剥き、その獰猛さを垣間見せた。
なるほど、檸檬と獰猛の字面はよく似ている。
そして、檸檬はドウモウとも読むそうだ。
レモンに寝首をかかれないよう、せいぜい気をつけるんだな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?