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あれから一年が経ちました。

親愛なる母へ

お元気ですか。もう一年も会っていませんが、新しい生活には慣れましたか?

この手紙は、例によってこのインターネットの大海原に流すことで、もしかしたら天国にいるあなたのもとまで届くのではないか、という私のごく淡い期待によってここに公開されています。昨今は飛行機の中でもインターネットが使えるようになっているので、天国でもそろそろいけるのではないか…なんて私は思うのですが、どうでしょう。

ところで私は、飛行機の中ではインターネットは使わないようにしています。地上にいるとついついスマートフォンをいじってしまうので、空を飛んでいるときくらいはそこから離れておきたいのです。便利になりすぎるのも考えものですよね。ただ天国でもインターネットが使えるようになる日がくるのは大歓迎ですよ。


あなたは2023年3月26日の朝4時半ごろに旅立ちました。この手紙はそこからちょうど一年経ったタイミングで“投函”しようと考えています。ちゃんと間に合うかな。


あれから一年、色々なことがあったような気がします。

まだ「たったの一年」です。私には時間というものはゆっくり流れているように感じられます。

前半は正直しんどかったです。私にはあなたが本当にいなくなってしまったことがうまく受け入れられませんでした。いつも「なぜあなたはいないのだろう」という問いに、「死んでしまったから」という至極当然な回答を出せずにいました。それはその回答を避けていた、という意味ではありません。私は本当に、その回答に“たどり着けなかった”のです。

それが徐々に、あなたの「不在」を理解できるようになりました。私はちゃんと、「あなたがいた世界」から「あなたがいない世界」へと移動することができたのです。それは思いがけず難しいことでした。とても複雑な“知恵の輪”をしているような気分になりました。

それでも、今でもどうしても拭いされないことがあります。飛行機を降りて、再びインターネットに接続されたとき、私はついついあなたに電話をかけようとしてしまうのです。「到着したよ」という一報をまず最初に入れる相手はいつもあなたでしたから。

思えばこの習慣は中学生の時から始まっていましたね。佐賀県の全寮制の学校に通っていた私が、帰省のために羽田空港に到着した時、まず最初にしたのがあなたへの電話でした。公衆電話だったので、今とはだいぶ風情が違っていましたが、あれはあれでよかったように感じています。

そう、公衆電話。中高時代は毎晩のようにあなたに寮から公衆電話で話していましたね。何枚のテレホンカードが消費されたことでしょう。6年間の習慣ですから。それも、ほぼ毎日。

その6年間の習慣からか、大人になってからも私はあなたと電話でよく話しました。一緒に住んでいるときでもちょっとしたことでお昼休みに電話をかける、というのがしょっちゅうでしたね。

このように考えると、私たちは電話で結ばれていた親子だったといえるかもしれません。こんなにも電話で話した時間が長かった親子も珍しいのではないでしょうか。


あなたがいないことを受け入れるにあたって、この「電話をかける」という習慣はもしかしたら役立っているのかもしれません。相手のことは見えないけど、すぐ隣にいる感覚になれる電話であれだけコミュニケーションをとったことで、私はあなたの不在をきちんと理解しながらも、常にあなたのことを私のそばで感じられているような気がするのです。それはあなたの不在を受け入れられていなかった一年前の私のあり方と同じようで全く違っています。私は今、とても穏やかに過ごすことができています。


1ヶ月半の介護生活を綴ったnoteの記事をまとめて本にしたいと考えながら、まだそれに取り掛かれていないことについて、もしかしたらあなたは不満に思っているかもしれません。あなたの不在こそうまく受け入れられた一方、まだそれについてはきっかけをつかめないでいます。あなたとの思い出が色褪せる前に…とは思っているのですが、色褪せていないからこそ、あの日々の悲しみをまた文字と文字の合間から垣間見るのが怖いのです。

それでも、今こそそれと向き合うときかもしれませんね。一年も寝かせたのですから、きっと今なら大丈夫でしょう。近いうちに取り組もうと思います。

できるかな…


まだまだ書きたいことがあるのですが、長くなってしまいましたので、そろそろ筆を置こうと思います。一周忌は特に何かをする予定はありませんが、お世話になった人に挨拶にだけは行くつもりです。あなたを看取るにあたって、本当に多くの人に助けてもらいました。今思うと、奇跡のような1ヶ月半でした。

もし天国でもインターネットが開通して、そして気が向いたら、ぜひ電話をください。天国のことを色々教えてくださいね。この手紙で書ききれなかったことは、そのときにお話するようにします。

それでは、お元気で。


裕太より


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